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2023.1.17
全58体の御所人形を一挙公開!静嘉堂@丸の内へやって来た「七福うさぎ」の魅力
2023年の干支は癸卯(みずのとう)、つまり十二支の中で4番目にあたるうさぎ年です。古くから人と深く関わってきたうさぎは、日本や東アジアにて“月とうさぎ”や“波の上に乗るうさぎ”など多くの美術に表現されてきました。
そうしたうさぎをモチーフとした美術や人形をはじめ、日本や中国の寿ぎの絵画、また新春にふさわしい宴の器などを公開する展覧会が、東京の静嘉堂@丸の内 (明治生命館1階)にてスタート。見どころをレポートします。
目次
五世大木平藏『木彫彩色御所人形』 昭和14年(1939) 展示風景
日の出から松竹梅、それに鶴や鵲まで。おめでたいモチーフを探そう
まずはじめにご紹介したいのが、日の出や松竹梅、それに鶴(かささぎ)といった吉祥の主題を表した作品です。日本画家、横山大観は『日之出』において、山の彼方に真赤な太陽が昇る光景を雲海や湿潤な空気を交えて描写。まるで山の上からご来光を拝んでいるようです。
幕末から明治にかけて活動した滝和亭の『松に鵲・梅竹に鳩図屏風』は、金地の屏風に墨でおめでたいモチーフを描いた作品です。松竹梅は不老長寿や繁栄を象徴し、鵲は中国で「喜びを知らせる鳥」とされています。
右:王建章『川至日升図』 明時代・17世紀 重要文化財 左:王維烈『百春平安図』 明時代・17世紀
中国の明の末期に官に仕えていたとされる王建章の『川至日升図』は修理後の初公開です。山の中腹から滝が流れ、水が満ちて波が立ち、岩山には松柏が天へ向かって伸び、空には旭日が浮かぶ光景を濃厚な筆触にて描いています。中国の古典『詩経』より、天子の長寿福禄を祈る詩の意味を込めて制作されました。
子孫繁栄と長寿への願い。うさぎを描いた名品たち
続いてうさぎを描いた作品を見ていきましょう。まず注目したいのは中国の画家で、長崎に滞在したことで知られる沈南蘋(しん なんびん)の『梅花双兎図』です。長寿を意味する白梅の根元、2羽のうさぎが寄り添うようにして描かれています。うさぎは不老不死や多産の象徴。さらに枝には夫婦長寿を示すシロガシラの番がとまるなど、夫婦揃っての長寿への願いが込められています。
右から李培雨『双兎図』、『兎図』。ともに中華民国28年(1939)
清末期の宮廷画家だった李培雨の『兎図』と『双兎図』もかわいいのではないでしょうか。鮮やかな色彩にて柘榴の木や竹といった植物とともに、白と黒のうさぎがうずくまるようにして描かれています。これらも子孫繁栄と長寿への願いが込められていて、『兎図』は静嘉堂のコレクションを拡充した三菱第四代社長の岩﨑小彌太の還暦の祝いとして贈られました。
全58体の御所人形が一列に!昭和の名工による「七福うさぎ」を一挙公開
さて今回の展覧会、いま名前をあげた岩﨑小彌太が主役と言っても良いかもしれません。なぜならタイトルにもある「七福うさぎ」とは、1939年に卯年だった小彌太の還暦を祝い、夫人の孝子から特別の注文により作られた『木彫彩色御所人形』であるからです。
その数は実に58体。うさぎの冠をつけた七福神たちの「宝船曳」と「興行列」を中心に、「鯛車曳」、「楽隊」、「餅つき」の5つのグループからなっていて、いずれも笑みを浮かべながら楽器を奏でたり餅をつくなど楽しそうに寿ぎの宴を繰り広げています。
一連の御所人形を制作したのは、昭和の名工である京都の人形司・丸平大木人形店の五世大木平藏です。衣装や持ち物、乗り物などのすべてが木彫の彩色にて精巧に仕上げられました。また布袋と弁天は小彌太と孝子のすがたを写したとも言われています。
うさぎの冠をつけた丸々とした幼子たちのパレードからは、新年を寿ぐに相応しい祝典的な雰囲気も感じられるのではないでしょうか。しばらく見入っていると、一緒に宴に参加して盛り上がっているような気持ちになりました。
七福神の浮世絵から『曜変天目』へ。壮麗なスペースで愛でる静嘉堂のコレクション
右から鳥文斎栄之『福人宝合 布袋』、『福人宝合 毘沙門天』。ともに江戸時代・寛政7年(1795)頃
このほかにも展示では七福神を題材とした浮世絵や印籠なども紹介。あわせて静嘉堂文庫の誇る国宝『曜変天目(稲葉天目)』も公開されています。
現存する3点の『曜変天目』うちの1点である同作は、徳川将軍家より3代将軍家光の乳母・春日局の手を経て、淀藩主稲葉家に伝来したもの。かつて家光は春日局が病に伏せた時、平癒を願って『曜変天目』にて薬湯を飲ませようとしたと伝えられています。
1892年、現在の三菱グループの礎を築いた岩﨑彌之助によって創業した公益財団法人静嘉堂は、1977年より静嘉堂文庫に併設された展示館で美術品を公開すると、1992年には静嘉堂文庫美術館を新設。長らく世田谷区岡本の地で展覧会を開いてきました。
明治生命館1階の静嘉堂@丸の内入口。丸の内MY PLAZAから入場できます。
そして2022年10月、美術館の展示ギャラリーが「明治生命館」へと移転オープン。創業者の岩﨑彌之助が願っていた東京・丸の内にて新たに展示活動がはじまりました。
岩﨑彌之助、小彌太がコレクションを築き、長く受け継がれてきた新年を祝う名品たちを、重要文化財の壮麗な大理石造りのスペースにて堪能してみてください。
展覧会情報
『初春(はつはる)を祝う ―七福うさぎがやってくる!』 静嘉堂@丸の内 (明治生命館1階)
開催期間:2023年1月2日(月・振休)〜2月4日(土)
所在地:東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F
アクセス:東京メトロ千代田線二重橋前〈丸の内〉駅3番出口直結。JR線東京駅丸の内南口より徒歩5分
開館時間:10:00~17:00
※金曜日は18時まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、1/10(火)
観覧料:一般1500円、大高生1000円、中学生以下無料
https://www.seikado.or.jp/
画像ギャラリー
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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