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2023.2.16
大阪中之島美術館に近代大阪の日本画が勢ぞろい!史上初の展覧会『大阪の日本画』レポート
大阪は商工業都市として発展を続けるとともに、東京や京都とは異なる文化圏を形成し、個性的で優れた芸術文化を育んできました。
江戸時代からの流れを汲んだ近代大阪の美術は、市民文化に支えられ、伝統にとらわれない、自由闊達な表現が多彩かつ大きく花開いたといえます。
目次
そんな今につながる大阪の街の文化を浮き彫りにする近代大阪の日本画に光をあてた、大阪中之島美術館にて開催中の『大阪の日本画』をご紹介します。
展示室を賑やかに彩る近代大阪の日本画
開館1周年を迎えた大阪中之島美術館で開催されている本展覧会は、明治から昭和に至る近代大阪の日本画に光をあて、60名を超える画家による約150点の作品を展示し、近代大阪の日本画が勢ぞろいする史上初の展覧会です。
大正から昭和前期にかけて画壇としての活動が隆盛を極め、人物画の北野恒富(きたの・つねとみ)、女性画家の活躍の道を拓いた島成園(しま・せいえん)、大阪の文化をユーモラスに描いた菅楯彦(すが・たてひこ)、新しい南画を主導した矢野橋村(やの・きょうそん)などの多くの画家により、個性豊かな作品が生み出されました。
東京や京都とは異なる文化圏を形成した大阪の街で生まれた珠玉の作品たちが展示室を賑やかに彩り、その作品が生まれた背景にも目を向けることで、個々の作品の魅力や画壇のあり方をより深く知るとともに、今につながる大阪の街の文化を浮き彫りにしていきます。
全6章で構成された展示内容をご紹介
今回の展示は、第1章 ひとを描く―北野恒富(きたの・つねとみ)とその門下、第2章 文化を描く―菅楯彦(すが・たてひこ)、生田花朝(いくた・かちょう)、第3章 新たなる山水を描く―矢野橋村(やの・きょうそん)と新南画、第4章 文人画―街に息づく中国趣味、第5章 船場派―商家の床の間を飾る画、第6章 新しい表現の探求と女性画家の飛躍の全6章で構成されています。
第1章 ひとを描く―北野恒富(きたの・つねとみ)とその門下
大阪の「人物画」は、明治時代後半から昭和初期にかけて、北野恒富とその弟子たちによって大きく花開きました。
当時「悪魔派」と揶揄された妖艶かつ頽廃的な雰囲気をもつ恒富の人物表現は、顔を綺麗に描いた美人画とは異なり、人の内面を画面全体で描出している点に特徴があります。
急激に移り行く近代社会の市井の感覚を敏感に感じ取り、描き方や人物の表情を制作時期によって変えている点も見どころです。
第2章 文化を描く―菅楯彦(すが・たてひこ)、生田花朝(いくた・かちょう)
古き良き大阪庶民の生活を温かく表現した「浪速風俗画」は、菅楯彦によって確立されました。
伝統的な風俗や風景を題材に絵を描き自賛を書き入れ、四条派と文人画を融合させたスタイルは、江戸時代より続く大阪人独特の洗練された感性に響くものとして広く愛されました。
第3章 新たなる山水を描く―矢野橋村(やの・きょうそん)と新南画
矢野橋村は、日本の風土に基づく日本南画をつくることを目標として、江戸時代より続く伝統的な文人画に近代的感覚を取り入れた革新的な「新南画」を積極的に推し進めました。
もともと文人画や中国文化に対する素養のあった大阪では、新南画は容易に受け入れられたこともあり、近代大阪画壇において重要な足跡を残しました。
第4章 文人画―街に息づく中国趣味
江戸時代、都への玄関口にあたる大阪には様々な文物が集まり、煎茶をはじめとする中国趣味が栄え文人画が流行しました。
大阪では、漢詩や漢文の教養を身に付けた市民が多かったこともあり、明治以降も文人画人気が続き、西日本を中心に各地から文人画家が集まり優れた作品が多く生まれました。
第5章 船場派―商家の床の間を飾る画
大阪で広く市民に受け入れられたのが、四条派の流れをくむ絵画「船場派」です。
船場派には2つの系譜がみられます。幕末・明治期に活躍した西山芳園(にしやま・ほうえん)・西山完瑛(にしやま・かんえい)によって確立された西山派の系譜。もう一つは明治期に深田直城(ふかだ・ちょくじょう)により普及した系譜。
いずれも京都の四条派とは異なり、あっさりとスマートに描く大阪らしい作風で人気を博しました。
第6章 新しい表現の探求と女性画家の飛躍
大阪では江戸時代より女性画家が活躍していたことに加え、富裕層を中心に子女に教養として絵画を習わせる傾向が強く、多くの優れた女性画家が登場しました。
様々な経歴で集まった人々や女性画家の活躍により、大阪の日本画は新しい感性に基づく魅力的な表現が生まれました。
約25年の月日を経て変化を遂げる女性の姿
筆者が注目したのは、第1章 ひとを描く―北野恒富(きたの・つねとみ)で展示されている北野恒富による《鏡の前》(1915年)(後期展示)や《暖か》(1915年)(後期展示)から、第6章 新しい表現の探求と女性画家の飛躍で展示されている吉岡美枝による《店頭の初夏》(1939年)まで、約25年の月日を経て美人画に描かれている女性に大きな変化が見られたことです。
男性目線と女性目線で女性の捉え方に差はあると思いますが、和装から洋装へと服装の変化もさることながら、日本髪からパーマへと変化したヘアスタイル、儚さや妖艶さが漂う様子から芯の強さが感じられる風貌へと変わっています。
また、《店頭の初夏》に描かれているようにワンピースなどの洋服が普及している背景には、大阪は外国人の姿が珍しくなかった神戸が近く、繊維産業が盛んな商業都市で、洋服の流行もいち早く取り入れていく傾向があったからだそうです。
最後に…
近代大阪の日本画が勢ぞろいする史上初の展覧会である『大阪の日本画』。
開館1周年を迎えた大阪中之島美術館で開催される初の日本画展であり、大阪の新しいランドマークとなった美術館にこの地で育まれた珠玉の作品たちが再集結します。
東京や京都とは異なる文化圏を形成し、個性的で優れた芸術文化を育んできた大阪。今につながる大阪の街の文化を浮き彫りにする作品を鑑賞しに足を運んでみてはいかがでしょうか。
展覧会情報
「大阪の日本画」
会期:2023年1月21日(土)〜4月2日(日)※ 会期中に展示替えあり
会場:大阪中之島美術館 4階展示室
住所:大阪市北区中之島4-3-1
開館時間:10:00〜17:00(入場は16:30まで)
休館日:月曜日(3月20日(月)は開館)
観覧料:一般 1,700円(1,500円)、高校・大学生 1,000円(800円)、小・中学生以下 無料
※()内は20名以上の団体料金
※障がい者手帳などの所持者(介護者1名含む)は当日料金の半額(要証明、来館当日に2階チケットカウンターにて申し出ください)
※一般以外の料金での利用者は証明できるものを当日に提示
※作品の展示および期間は変更となる場合あり
HP:https://nakka-art.jp/exhibition-post/osaka-nihonga-2022/
■巡回情報
・東京ステーションギャラリー
会期:2023年4月15日(土)〜6月11日(日)
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1
画像ギャラリー
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アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。
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