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2023.2.21

作陶と絵画にて幅広く活躍!江戸時代後期の文人・木米が切り開いた新たな美の世界

江戸時代後期の京都を代表する陶工であり画家の文人・木米(1767〜1833年)を知っていますか。「きべい、もくこめ、きごめ?」などと色々な読み方が思い浮かびそうですが、正しくは「もくべい」と読みます。

重要文化財『染付龍濤文提重』 木米 江戸時代・19世紀 東京国立博物館 全期間展示

その木米の没後190年を記念した展覧会が、東京・六本木のサントリー美術館にて開催中。木米の陶磁73点、絵画42点、書状14点、その他15点による144点を含む、総点数191点の作品にて、木米のたどった足跡を紹介しています。

若くして篆刻を学び、作陶へ打ち込んでいった木米。その名の由来とは?

左:『木米喫茶図』 田能村竹田 文政6年(1823) 個人蔵 右:『密林草堂図』 池大雅 江戸時代・18世紀 個人蔵 展示期間はいずれも2月8日〜2月27日

まず少し謎めいた木米という名前の由来から見ていきましょう。京都祇園の茶屋「木屋」に生まれ、氏は「青木」、そして俗称が「八十八(やそはち)」であることから、木屋あるいは氏の青木の「木」と、八十八を縮めた「米」に因んで「木米」と名乗りました。つまり本名は青木八十八、そして自分で作った中国風の姓名が木米なのです。

木米が生きた時代の文人とは、中国の詩、書、画の3つの教養に優れた人物に憧れを持ち、中国の学問や芸術の素養を身につけた人々を意味します。彼らは独自のネットワークを築いては活発に交流し、互いの個性を尊重しながら、思い思いに文人としての生き方を追求していきました。

左:『鴨川夜情』 安田靫彦 昭和9年(1934)頃 伊豆市 展示期間:2月8日〜2月27日 近代日本画の巨匠、安田靫彦による作品で、川床の中央で寝そべる頼山陽と、川に足を浸す田能村竹田、そして胡坐を組んで団扇を持つ木米のすがたを描いています。

10代の頃から文人・高芙蓉(こうふよう)のもとで篆刻(てんこく)を学び、画家の池大雅(いけのたいが)と交流した木米は、20代の半ばにして鋳造や篆刻に手を染めながら、自らの意思で陶業に志します。そして30代の前半に窯の爆発により耳が聞こえなくなってしまうものの、35歳までに大阪の蒐集家の木村蒹葭堂(きむらけんかどう)の下で中国の陶磁専門書『陶説』に出会うと感銘を受け、さらに作陶に打ち込みました。

独自の視点で再構成。『三彩鉢』に見られる木米のやきものの魅力

左:『煎茶碗』 木米造 永樂保全補 江戸時代・19世紀 個人蔵 右:『色絵雲龍波濤文火入』 木米 江戸時代・19世紀 京都国立博物館(藤原忠一郎氏寄贈) いずれも全期間展示

木米が手がけたやきものにはどのような特徴があるでしょうか。中国、朝鮮、日本の古陶磁に着想を得た木米は、外見を写しとるのみではなく、中国陶磁の豊富な知識を元にして、さまざまな古陶磁からかたちや文様の一部分を抜き出し、独自の視点で再構成していきます。

『三彩鉢』 木米 文化4~5年(1807~1808) サントリー美術館 全期間展示

黄、緑、紫で塗り分けられた『三彩鉢』は、中国・清時代の景徳鎮窯の素三彩を手本にしたもの。しかし鉢の側面の一方は内側に押されていて、見込みが高台に突き出すなど、朝鮮の錐五器茶碗のようなかたちをしています。つまり中国陶磁の色彩と文様と朝鮮陶磁のかたちが、木米のセンスによって融合しているのです。

文字を纏う煎茶器も登場。木米の遊び心のある作陶の世界

左:『交趾荒磯香合』 明〜清時代・17世紀 個人蔵 右:『交趾釉荒磯文急須』 木米 江戸時代・19世紀 京都国立博物館(藤原忠一郎氏寄贈) いずれも全期間展示

こうした木米の遊び心のある作陶の手法は、当時流行していた煎茶の器にも大いに発揮されました。宝珠型で横手のついた『交趾釉荒磯文急須』は、黄河上流にある九龍を昇ると、鯉が龍になるという故事に基づく荒磯文を表した作品。中国の交趾香合(こうちこうごう)の文様を急須の絵に取り入れたと考えられます。

手前:『紫霞風炉』 木米 文政7年(1824) 個人蔵 全期間展示

さらに木米の個性が強く現れているのが、釜の湯を沸かすための火鉢状の道具である風炉(ふろ)です。全体がゆらめく炎に包まれているような『紫霞風炉』では、側面から背面にかけてお茶を主題とした中国の詩が丁寧に彫られています。また枠線の中に字句が並ぶようすは、版本のページを思わせ、書物好きだった木米の個性も見ることができます。まさに文字を纏う煎茶器といえるでしょう。

50代後半にして本格化させる画業。山水画の中の点景人物にも要注目

左:重要美術品『秋景山水図』 木米 文政12年(1829) 個人蔵 中央:『聴濤図』 木米 文政 9年(1826) 公益財団法人脇村奨学会 右:『新緑帯雨図』 木米 文政9年(1826) 出光美術館 展示期間はいずれも2月8日〜2月27日

木米は50代後半にして画家の田能村竹田(たのむらちくでん)らと交流すると、画業を本格化させ、多くの山水画を描くようになります。そして木米の絵画の多くは為書(ためがき)、つまり誰かのために描かれた、いわば私信のような作品でした。

左:『重嶂飛泉図』 木米 江戸時代・19世紀 静嘉堂文庫美術館 中央:重要文化財『騰龍山水図』 木米 文政6年(1823) 個人蔵 右:『秋景山水図』 木米 文政5年(1822) 個人蔵 展示期間はいずれも2月8日〜2月27日

展示では現存最初期の山水図をはじめ、茶の産地として有名な京都・宇治の実景に基づく作品、さらに花卉図や仏画などを公開し、木米画の魅力を紹介しています。その中にはともに重要文化財に指定された『騰龍山水図』(展示期間:2月8日〜2月27日)や『兎道朝潡図』(展示期間:3月1日〜3月26日)といった貴重な作品も少なくありません。

重要文化財『兎道朝潡図』 木米 江戸時代・19世紀 個人蔵 展示期間:3月1日~3月26日

また山水画には風景の中に点景として小さく取り入れられた人物が描かれているのも特徴です。そうした点景人物を探しながら山水画を見入るのも面白いのではないでしょうか。

木米の残した驚きの遺言。そこから浮かび上がる木米の人物像

『没後190年 木米』展示風景。木米が友人らに宛てて書いた書状が展示されています。一部には大意も記されていて、内容を知ることもできます。

最後に木米の人物についても掘り下げましょう。親友の竹田は自らの書に「木米の話は諧謔(かいぎゃく)を交え、笑ったかと思えば諭す、真実かと思えば嘘というように、奥底が計り知れない」と記し、一筋縄ではいかない複雑でかつ思慮深い木米像を伝えています。

木米の『白泥蘭亭曲水四十三賢図一文字炉』(江戸時代・19世紀、布施美術館)を象ったフォトスポット。風門の中にいるのは中国・東晋の書家、王羲之です。笑みを浮かべながら下の鵞鳥を眺めています。

「これまでに集めた各地の陶土をこね合わせ、その中に私の亡骸を入れて窯で焼き、山中に埋めて欲しい。長い年月の後、私を理解してくれる者が、それを掘り起こしてくれるのを待つ」これは木米が竹田に残した遺言と伝わる言葉です。少し大袈裟に思えるかもしれませんが、こうしたエピソードからも木米のユニークな人物を想像することができるかもしれません。

『栂尾・建仁寺・兎道図茶心壺』 木米 江戸時代・19世紀 個人蔵 展示期間:2月8日〜2月27日

キャッチコピーは「木米がもう、頭から離れない」。サントリー美術館の単独開催の『没後190年 木米』にて、やきものに新たな美を開き、多くの文人と交流しながら自由闊達な絵画を描いた木米の創作にどっぷりと浸かってください。

展覧会概要

『没後190年 木米』 サントリー美術館
開催期間:2023年2月8日(水)~3月26日(日)
所在地:東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
アクセス:都営大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。
開館時間: 10:00〜18:00(金・土は20時まで)
 ※2月22日(水)、3月20日(月)は20時まで開館
 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:火曜日 ※3月21日は18時まで開館
観覧料:一般1500円、高校・大学生1000円、中学生以下無料
https://www.suntory.co.jp/sma/

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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