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EVENT

2023.2.24

平安ロマンティックの世界へ。『絵で知る百人一首と伊勢物語』開幕

京都・嵐山にある嵯峨嵐山文華館で『絵で知る百人一首と伊勢物語』が開幕しました。会期は2023年4月9日(日)までです。

都路華香《蔦図屏風》

藤原定家が百人一首を選定した小倉山の麓に建つ同館では恒例の「絵で知る百人一首と〜」の展覧会。今回は「ちはやふる〜」を詠んだ歌人であり、六歌仙にも選ばれている在原業平に着目します。

業平を主人公とした「伊勢物語」を彷彿とさせる絵画と、百人一首に関する作品が並ぶ本展は、ふたつの古典文学が響き合う雅な空間となっています。見どころを美術ライターの明菜が紹介していきます。

題材としての六歌仙の展開

展示風景

「六歌仙(ろっかせん)」とは、『古今和歌集』の序文で紀貫之が優れた歌人として名前を挙げた6人のことです。つまり平安時代を代表する歌人と言えて、僧正遍照(そうじょうへんじょう)、在原業平、文屋康秀(ふんやのやすひで)、喜撰法師(きせんほうし)、小野小町、大友黒主(おおとものくろぬし)の6名を指します。

六歌仙は古くから絵画の題材になってきました。本展では六歌仙を描いた絵が多数展示されています。例えば、菊池契月《六歌仙図》です。

菊池契月《六歌仙図屏風》

全体が金色で神々しく、恐ろしく美しかったので、ぜひ生でご覧になってほしいです。背景などは描かれず6人が中空にいるような作品と、まぶしい金色の効果で、非現実的な印象を受けました。小野小町の髪と大友黒主の衣装の黒が画面を引き締める効果になっており、金ピカなのに嫌味がありません。

黒主は和歌の才がある小町に嫉妬心があったそうで、ムッとした表情で小町の方を見ています。人物の描き分けも巧みで、それぞれの性格まで伝わってくる作品でした。

幸野楳嶺、菊池芳文、竹内栖鳳、谷口香嶠、駒井龍仙、高谷簡堂《無礼講之図》

一方で、こんなゆるっとした作品も。幸野楳嶺(こうのばいれい)と弟子の竹内栖鳳(たけうちせいほう)ら5名が歌人を1人ずつ描いた共作です。お酒の席で描かれたのだとか。

才色兼備で知られる小町は、自らの黒髪を振り乱して筆の替わりにしています。他の歌人もちょっとおまぬけに描かれていますね……。ジョークの効いた作品です。

楊洲周延《六歌仙図》

それから、歌舞伎の演目に「六歌仙」というものがあるのですね! 5人の男性が紅一点の小町を取り合う物語のようです。楊洲周延(ようしゅうちかのぶ)の浮世絵では、歌人たちが筆で墨を塗りつけ合う様子が描かれています。

六歌仙が後世に残したのは和歌ですが、美術や歌舞伎にも題材として展開していったのが興味深いです。

伊勢物語を思わせる名品

常設展示より

ちはやぶる神代も聞かず龍田川
唐紅に水くくるとは

百人一首を代表するこの和歌を詠んだのが、在原業平です。大変な美男だったそうで、ある貴公子の人生の物語『伊勢物語』のモデルとされています。

俵屋宗達 益田家本伊勢物語図 色紙第ニ段《西の京》

本展では、伊勢物語の印象的な場面を抜き出し、その場面を想起させる絵画とともに展示されています。《益田家本伊勢物語図第二段「西の京」》のように伊勢物語のワンシーンを描いた作品や、確実にそうとは限らないものの、関連性が滲む作品などを鑑賞できます。

展示風景

こちらの2つの作品は、男と侍女の恋を快く思わなかった親により、侍女が家から追い出されるエピソードと取り合わせられています。寂しそうに伏せられた女性の目や、どことなく漂う哀愁に胸を掴まれてしまいました。

こちらの2点も、金地に六歌仙を描いた菊池契月の作品でした。人物の感情や性格が一目で伝わってくる表現力が素晴らしく、すっかりファンになってしまいました。

伊勢物語と重ねられる作品には、作品解説と一緒に本文の抜粋が展示されています。原文と現代語訳があるので、物語と絵画を同時に味わうことができます。

まとめ

展示風景

同館恒例の「絵で知る百人一首と〜」の展覧会ですが、今回も新たな切り口で百人一首に親しむことができます。伊勢物語との取り合わせにより、平安時代のロマンティックをより立体的に感じられました。

「六歌仙」などと称えられるように、和歌はエリートたちが競い合って育まれた芸術です。しかしリアルな恋の駆け引きやままならない感情に裏打ちされた生々しいものでもあります。歌と絵画の両方を味わうことで、甘美な平安の文化が見えてくるのではないでしょうか。

展覧会情報

絵で知る百人一首と伊勢物語
会場:嵯峨嵐山文華館
会期:2023年1月28日(土) - 2023年4月9日(日)
○前期:1月28日(土)~3月6日(月)
○後期:3月8日(水)~4月9日(日)
https://www.samac.jp/exhibition/detail.php?id=26

【写真11枚】平安ロマンティックの世界へ。『絵で知る百人一首と伊勢物語』開幕 を詳しく見る
明菜

明菜

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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

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