EVENT
2023.11.13
漫画家としての江口寿史のキャリアに焦点を当てた展覧会、世田谷文学館『江口寿史展 ノットコンプリーテッド』開催中!
「江口寿史展 ノット・コンプリーテッド」は、漫画家としての江口寿史のキャリアに焦点を当てた展覧会で、2024年2月4日(日)まで世田谷文学館で開催されています。
江口寿史は、これまでの展覧会「KING OF POP展」(2015年)、全国巡回の「彼女展」(2018年〜)、そしてルカ・ティエリとの「TOKYO ARTE POP トーキョー・アルテ・ポップ ― 江口寿史×ルカ・ティエリ展」(2023年)を通じて、すっかりイラストレーターとして知られるようになりました。
ですが、彼は自らを漫画家/イラストレーターと称し、漫画家としての深い情熱を持っています。
目次
この展覧会では、彼の初期の創作活動のマンガとイラストレーションの原画500点のほか、下絵、創作ノートなどを含め、総数600点を通して振り返っていきます。既に2回訪れた筆者が、今回の展覧会の見どころをいくつかピックアップしていきます。
『すすめ!!パイレーツ』や『ストップ!! ひばりくん!』といった代表作の原画
衝撃のひばりくんの登場シーンの原画 ©Eguchi Hisashi
1977年に「週刊少年ジャンプ」で漫画家デビューを飾り、『すすめ!!パイレーツ』や『ストップ!! ひばりくん!』といった作品で大ヒットを記録。これらの成功により、人気ギャグ漫画家としての確固たる地位を築き上げます。
『ストップ!! ひばりくん!』は、美少女だけど実は男子、ヤクザである大空組の長男、大空ひばり。大空組に同居することとなった耕作とのドキドキのドタバタコメディー。トランスジェンダーのテーマを取り入れた先駆的な作品としても知られ、従来のラブストーリーに新しい風を吹き込み、多くの読者を引き込みました。
卓越した画力と独特のギャグセンスの絶妙なバランスが見どころ ©Eguchi Hisashi
そのほかにも、『江口寿史の爆発ディナーショー』、『江口寿史のなんとかなるでショ!』などは、その卓越した画力と独特のシュールなギャグセンスの絶妙なバランスが見どころ。これらの作品は、原画を通じてハイライトシーンを楽しむことができ、その場で思わず笑ってしまうようなストーリーを追体験できます。
漫画家としての時期に描かれたイラスト作品
漫画家時代に描かれたイラストレーション ©Eguchi Hisashi
この展覧会が、これまでのイラストレーション展と異なる点は、江口寿史の漫画家時代に焦点を当てていることにあります。1990年代に彼が徐々にイラストレーションの仕事へと移行していく中で、それ以前に描かれたイラストレーション作品が展示されています。
江口寿史のマンガ作品には、かわいい女の子のキャラクターが頻繁に登場します。これらのキャラクターは、彼のイラストレーション作品へと自然に繋がっているように感じられます。
つまり、彼のマンガにおけるキャラクターデザインや表現スタイルが、後のイラストレーション作品にも影響を与えていると考えられます。この展覧会では、江口寿史の漫画家としての初期の作品を通じて、彼のイラストレーションへの移行とそのスタイルの発展を垣間見ることができるかと思います。
扉絵を通じたイラストレーションの探求
アート色が濃いめの『すすめ!!パイレーツ』の扉絵 ©Eguchi Hisashi
この展覧会の注目点の一つは、扉絵にあります。彼のキャリアの初期には、連載内容に即した扉絵を描いていましたが、鴨川つばめの『マカロニほうれん荘』に影響を受けたことで、徐々にストーリーから独立した扉絵を描くようになりました。
これにより、扉絵は彼にとって自由に絵の実験を行う場となり、イラストの描き方を試す機会を提供しました。
『ストップ!! ひばりくん!』の主人公の一人、ひばりくんが多く登場するの扉絵 ©Eguchi Hisashi
会場の終盤には、マンガの本編には描けなかった実験的な扉絵のセクションが展示されており、彼の創造性とアートの進化を一層深く感じることができます。この展覧会は、江口寿史の漫画家としての初期の作品だけでなく、イラストレーターとしての彼の成長と探求の過程を垣間見ることができる貴重な機会を提供しています。
また、これらの扉絵を集めた画集『江口寿史扉絵大全集: COVER ART COLLECTION OF EGUCHI HISASHI』が、開幕に合わせて出版されています。これは、江口寿史のアートワークを深く理解する上で貴重な資料となりそうです。
貴重なプロットノートや、山上たつひことのやり取り
敬愛する漫画家、山上たつひことのやりとりの一部 ©Eguchi Hisashi
展覧会では、江口寿史の創作プロセスを垣間見ることができる「プロットノート」の展示があります。これらのノートは、通常の文章ではなく、セリフの吹き出しのみで構成されており、絵のないマンガのような形式をとっています。
この展示は、彼のストーリー構成の方法や、キャラクターのセリフを通じて物語を展開させる独特のアプローチを理解するのに役立ちます。
さらに、展覧会では江口寿史が深く敬愛する漫画家、山上たつひことの関係にも焦点を当てています。山上たつひこが13年ぶりに漫画家として復帰した際の作品『中春こまわり君』(2009年)の最初のエピソード制作において、江口寿史を含む三人の漫画家がアシスタントとして参加しました。
この作品は人気マンガ『がきデカ』の後日談でもあり、会場に展示されている『金沢日記』を通じて、この時の交流が描かれています。また、山上たつひことのFAX書簡交換も展示されており、両者の交流や影響関係を深く知ることができる貴重な内容となっています。
連載当初の仕事場を私物で当時を再現
展覧会には、江口寿史が集英社に2年間住み込んでいた当時の仕事場を再現したセクションがあります。この部分は、自身の私物を使用し、セッティングも自ら行いました。展示されているアイテムには、彼が画板に角度をつけるために使用していた連載時の古い「週刊少年ジャンプ」や、鉛筆削り、ラジカセなどが含まれています。
このセクションでは、江口寿史が実際に使用していた物品を通じて、彼の創作環境と当時の生活を覗き見ることができる貴重な展示です。訪れる人々には、まるで江口寿史がその場にいるかのような臨場感を感じさせます。
ライブペインティングや音楽イベントなど
展覧会では、江口寿史による展覧会恒例のライブペインティングも行われ、その完成作品は1階に展示されています。1階エリアは入場無料で、ミュージアムショップに至るまで自由にアクセス可能です。
内覧会の時点ではなかった階段下のバナー、左奥にライブペイント作品
展覧会では音楽イベントも予定しています。漫画家とり・みきと組む抒情派フォークデュオが、11年ぶりに再結成されます。このデュオによる「帰ってくるはずじゃなかった! 白い原稿用紙LIVE」が11月25日に開催予定。歌う江口寿史を生で見たいというファンにとっては、見逃せない機会ですが、残念ながら、チケットは完売しております。
さいごに
展覧会のサブタイトル「ノット・コンプリーテッド」は、江口寿史自身の考えが反映されています。彼は「生きている限り完成はしない、完成と思ったところで必ず不満が出てくる」という思いを象徴しています。さらに、展示内容も会期中に少しずつ手を入れ、閉幕時に完成させたいとのことです。
これは、展覧会自体が「ノット・コンプリーテッド」のコンセプトを体現していると言えるでしょう。筆者が訪れた際には、入り口にバナーが追加になったり、壁の装飾が増えていたり、仕事場の再現セクションに小物が追加されたり、BGMが流れるようになっていたりと、展示の変化が既に見られました。
2024年2月までにどのような変更が加えられるのか、展覧会の進化を見守るのが非常に楽しみです。
展覧会情報
江口寿史展 ノット・コンプリーテッド
会場:世田谷文学館
開催期間:2023年9月30日(土)~2024年2月4日(日)
所在地:東京都世田谷区南烏山1-10-10
アクセス:京王線 芦花公園(ろかこうえん)「南口を出て右方向」徒歩5分
開館時間:10:00~18:00
(展覧会入場、ミュージアムショップは午後5時30分まで)
休館日:月曜日(祝日の時はその翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
料金:一般1,000円、65歳以上・大学・高校生600円、小・中学生300円、障害者手帳をお持ちの方(ただし大学生以下は無料)500円
公式サイト:江口寿史展 ノット・コンプリーテッド
画像ギャラリー
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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
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