EVENT
2024.2.22
『生誕150年 池上秀畝』が練馬にて開催。目黒の百段階段の天井画で知られる池上秀畝の回顧展。
明治時代から昭和にかけての日本画家で、山水・花鳥画を得意とした池上秀畝の展覧会が、練馬区立美術館で、2024年3月16日(土)から4月21日(日)まで開催されます。生誕150周年を記念して開催されるこの展覧会では、秀畝の生涯と代表作を振り返り、「旧派」の画家たちに新たな視点から光を当てます。
目次
池上秀畝 《松に白鷹・桃に青鸞図》表・裏 昭和3年(1928) 杉戸絵 オーストラリア大使館
池上秀畝について
池上秀畝(1874-1944)は、日本の長野県出身で、1889年に画業を本格的に学ぶために東京に移ります。当時無名だった荒木寛畝(あらきかんぽ)に師事し、その最初の弟子となります。
秀畝は1916年から3年連続で文展で特選を受賞し、帝展では無鑑査や審査員を務めるなど、官展の旧派画家として名を馳せました。一方、彼と同じ年に長野県で生まれた菱田春草(ひしだしゅんそう)(1874-1911)などが牽引する「新派」の日本画とは異なり、秀畝の属する「旧派」の作品は近年まで展覧会での取り扱いが少なく、知名度は高くありませんでした。
しかし、伝統を重んじた「旧派」の画家たちは、会場芸術として、当時の展覧会で高く評価されただけでなく、屏風や建具に描かれた彼らの作品は屋敷や御殿を飾る装飾美術としても認められていました。特に秀畝は、徹底した写生を基にしながらも、「新派」の画家たちが試みた空気感の表現を取り入れるなど、伝統に拘らない日本画表現を展開しました。
展覧会の3つの見どころ
『生誕150年 池上秀畝』の見どころを3つ紹介します。
見どころ①:所在不明となっていた9点の作品を展示
秀畝は、国が主催する文展や帝展などの公式な美術展において、数々の栄えある賞を獲得しました。現在、秀畝の多くの作品は所在不明となっているものの、地道な所在調査を通じて見つかった9点が展示されます。
これらはいずれもその時代を象徴する名作ばかりで、これだけの作品群が一堂に会するのはこの展示会が初めてです。
見どころ②:多数の大作、屏風絵の一部は畳に座っての鑑賞も
秀畝作品の大きさと豪華さが魅力です。会場では、縦2メートル、横7メートル超の屏風を含む大型作品を展示。板戸(杉戸絵)に描かれた作品や大きな額も見られます。特に、屏風の一部はガラス越しではなく、畳に座り近くで鑑賞できる展示を用意しています。
見どころ③:多様なテーマへの挑戦の跡が残る写生帖の初公開
秀畝は習画期から晩年にかけて多数の写生を残し、スケッチブックから彩色画帖に至るまで、日常の風景や人物、西洋画の模写など多様なテーマに挑戦しました。これら作品からは、屏風や掛軸には現れない秀畝の幅広い視野と技術、彼の人柄を垣間見ることができます。
会場の展示構成
『生誕150年 池上秀畝』の会場は、プロローグ、第一章、第二章、第三章、エピローグで構成されています。
プロローグ 池上秀畝と菱田春草 日本画の旧派と新派
菱田春草 《羅浮仙》 明治34年(1901) 絹本着色 長野県立美術館 ※4月2日からの展示
秀畝は長野県の商家出身で、画家の家系に生まれ、15歳で荒木寛畝に師事しました。一方、同い年の春草は飯田藩士の家系で、15歳で上京し東京美術学校に入学。二人はそれぞれ徒弟制度と学校制度という異なる教育を受け、秀畝は旧派、春草は新派の日本画家として成長しました。
池上秀畝 《秋晴(秋色)》 明治40年(1907) 絹本着色 北野美術館 ※3月31日までの展示
第一章 「國山」から「秀畝」へ
池上秀畝 《日蓮上人避難之図》 明治44年(1911) 絹本着色 (一財)北方文化博物館
少年期から"國山"として絵を描き始めた秀畝は、15歳で上京し荒木寛畝に師事、明治23年頃から"秀畝"と名乗ります。寛畝から写生の重要性を学び、その影響は秀畝の作品に深く根付いています。
寛畝の《狸図》は写生に基づくリアリズムが特徴で、秀畝の《日蓮上人避難之図》では人物描写の確かさと物語の表現力が際立っています。これらの作品を通じて、秀畝の芸術的成長と技術の幅広さが示されています。
第二章 秀畝の精華-官展出品の代表作を中心に
池上秀畝 《盛夏》 昭和8年(1933) 絹本金地着色六曲一隻 水野美術館 ※3月31日までの展示
秀畝は荒木寛畝主催の展覧会や旧派の公募展で実力をつけ、文展で横山大観や菱田春草といった新派の画家たちと競いました。彼は第4回文展で三等賞を受賞し、第10回から12回の文展で3年連続特選を受賞する快挙を成し遂げ、画壇の大家となっていきます。
また、皇室に献上された作品や貴族の邸宅を飾った杉戸絵など、伝統と近代性を融合させた秀畝独自の作品は高く評価されていました。
第三章 秀畝と写生 師・寛畝の教え、”高精細画人”の礎
池上秀畝 《写生帖》より 祭りを眺める群衆 制作年不詳 墨、彩色、紙 信州高遠美術館
信州高遠美術館には、秀畝の写生帖やスケッチ画が数百点残されており、これらは師である寛畝によって重視された写生の習慣の結果です。
寛畝は日常的に写生帖の提出を求め、秀畝は動物園や街中で多様な被写体を描いてその技術を磨きました。これらの作品からは、秀畝の筆力の豊かさが伺えます。
池上秀畝 《くま鷹》 明治24年(1891) 彩色、紙 信州高遠美術館
池上秀畝 《竹林に鷺図》 大正2年(1913) 紙本着色六曲一双 個人蔵 ※3月31日までの展示
文展や帝展などの展覧会では、大型の掛軸や屏風が主流で、特に六曲一双の屏風は人気のアイテムでした。秀畝はこれらの展覧会用作品だけでなく、旧家や大家族向けにも多数の屏風を制作していました。この展覧会では、屏風を座敷で鑑賞するかのような体験を提供するための工夫が施されています。
池上秀畝 《翆禽紅珠》 昭和4年(1929) 紙本着色 伊那市常圓寺
エピローグ 晩年の秀畝 衰えぬ創作意欲
池上秀畝 《飛蝶》 昭和12年(1937) 紙本着色3面のうち2面 個人蔵
秀畝は大画面作品や障壁画にも取り組んでおり、ホテル雅叙園東京の「秀畝の間」や「静水の間」の天井絵が現存する代表例です。これらは新たに撮影された映像で紹介されます。また、ホテル雅叙園東京の欄間を飾っていた《飛蝶》3面は、今回の展覧会で新たに発見された作品です。
晩年の作品《神風》は元寇をテーマに、戦勝を願うものの、控えめな色使いで自然の力を描き、秀畝の芸術の集大成とも言える静かで力強い作品です。
さいごに
池上秀畝 《桐鳳凰図》 大正12年(1923) 絹本金地着色六曲一双 伊那市常圓寺 ※4月2日からの展示
この展覧会では、ホテル雅叙園東京でその障壁画や百段階段の天井画で知られる池上秀畝の豊かな画業を振り返ります。畳に座って間近で鑑賞することができる展示も用意されており、秀畝の緻密で華麗な作品群を存分に堪能できるよう配慮された構成となっています。美術ファンにとっては、秀畝の技術と美意識を近くで感じられる、見逃せない展覧会です。
開催概要
『生誕150年 池上秀畝―高精細画人―』 練馬区立美術館
開催期間:2024年3月16日(土)~4月21日(日)
※4月1日(月)に一部展示替えを行います。
所在地:東京都練馬区貫井1-36-16
アクセス:西武池袋線 中村橋駅下車 徒歩3分
開館時間:10:00~18:00 ※入館は17:30まで
休館日:月曜日
観覧料:一般1,000円、高校・大学生および65~74歳800円、
中学生以下および75歳以上無料、
障害者(一般)500円、障害者(高校・大学生)400円、
団体(一般)800円、団体(高校・大学生)700円、
ぐるっとパスご利用の方500円(年齢などによる割引の適用外になります)
【リピーター割引】一度観覧された方は初回のチケット半券を受付に提示すると300円割引。
※一般以外のチケットをお買い求めの際は、証明できるものをご提示ください。(健康保険証・運転免許証・障害者手帳など)
※障害がある方の付き添いでお越しの場合、1名様までは障害者料金でご観覧いただけます。
※団体料金は、20名様以上の観覧で適用となります。
※当館は事前予約制ではありません。当日、チケットカウンターでチケットをお求めください。
公式サイト:『生誕150年 池上秀畝―高精細画人―』 練馬区立美術館
主催:練馬区立美術館(公益財団法人練馬区文化振興協会)
共催:長野県立美術館
助成:美術館連絡協議会、読売新聞社
【長野県立美術館へも巡回】
本展は長野県立美術館でも開催します。(会期:2024年5月25日(土)~6月30日(日)
画像ギャラリー
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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
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