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EVENT

2024.5.20

構造デザインがわかる名建築の構造模型を集めた展覧会「感覚する構造 – 法隆寺から宇宙まで –」が開催中!

天王洲のWHAT MUSEUMで、建築の「骨組み」ともいえる構造デザインに焦点を当てた展覧会「感覚する構造 – 法隆寺から宇宙まで –」の後期展示が、2024年8月25日まで開かれています。構造デザインは、建築の骨格となる「構造」を創造する重要な分野です。

力の流れや素材に真摯に向き合い、技術と経験を駆使することで、構造家は建築家と協働し、数々の名建築を生み出していきます。今回は、100点以上の構造模型とともに、その役割や仕事が詳しく紹介される貴重な機会の展覧会とも言えます。

会場風景の様子(撮影:筆者)

構造家は数学、力学、自然科学に基づいて計算と実験を行い、経験を通じて力の流れを感覚化します。この感覚を活かして、実用的で創造的な構造デザインを建築に提供しています。

特に後期展では、サステナブルな建材としての木材を使用した建築に焦点を当て、日本の伝統的な木造建築から最先端の事例に至るまでの特質、歴史、および将来の可能性を探っていきます。また、ファッションや宇宙開発など他領域での構造デザインの応用も取り上げ、様々な視点から構造デザインの広がりを紹介します。

4つに分かれるテーマの説明と共に、見どころでもあるテーマAのいくつかの名建築の成り立ちについて、構造模型を用いて紹介していきます。

A 伝統建築と木造の未来

来年開催予定の大阪万博会場の建築模型(写真手前)と構造模型 「大阪・関西万博大屋根リング全体模型1/500」基本設計:藤本壮介+東畑建築事務所+梓設計 模型所蔵:株式会社東畑建築事務所(写真奥、撮影:筆者)

法隆寺五重塔や松本城などの歴史的な木造建築から最新の現代木造建築までを網羅し、木材を使用した建築の寸法、接合部、構造システムを通じて木造建築の特質と未来の可能性について考察します。

木造建築において合理性と曲線美を見事に融合させた錦帯橋

合理性と曲線美を木造で実現させた錦帯橋の構造模型 「錦帯橋」模型所蔵:東京大学生産技術研究所 腰原幹雄研究室(撮影:筆者)

アーチ構造はヨーロッパの組積造で発展し、鉛直荷重の大部分を圧縮力で伝達します。この合理性と曲線美を木造で実現した例が錦帯橋です。橋はマツの6寸角(180mm)の材を使用し、長さ6mの部材を持ち出しながらアーチを形成しています。

側面には鞍木と助木が取り付けられ、その×形状がトラスのラチス材のようにせんだん力を伝達します。カテナリー形状のケーブルが引張力で力を伝達するのとは対照的です。川に映った錦帯橋のアーチとそのカテナリー曲線が一致する様子など、現地で見たい建築物のひとつです。

螺旋構造を有する唯一の巡礼観音堂の会津さざえ堂

日本でも珍しい螺旋構造を持つ会津さざえ堂の構造模型 「さざえ堂」模型所蔵:新潟職業能力開発短期大学校(撮影:筆者)

さざえ堂は江戸時代に流行した巡礼観音堂で、螺旋構造を持つのは会津さざえ堂だけとなります。スロープを時計回りに上がり、頂上の太鼓橋を越えると反時計回りに下る構造で、上りと下りで人がすれ違わないようになっています。三次元的な柱と梁のぶつかりを事前に把握し、架構した大工技術の高さが特徴です。また、一方向の螺旋スロープのねじれに弱いため、後年に逆向きの斜材が追加されました。

デジタル技術の発展により、木造建築でも不可能だった形状が次々に実現していますが、デジタル技術になかった時代の職人の技術が再評価されるべき建築物かと思います。

天候や地震など不利な状況にも耐えうる堅固な三仏寺投入堂

断崖絶壁に建築された三仏寺投入堂の構造模型 「投入堂」模型所蔵:芝浦工業大学 建築学部 小柏典華研究室(撮影:筆者)

懸(かけ)造りは、急斜面の崖や渓谷上に建築される伝統技法で、その究極の例として三仏寺投入堂があります。標高900mの三徳山(鳥取県)に位置し、切り立った崖の窪みに建てられたこの建物は、その建築方法について多くの謎に包まれています。

運搬のために軽量化された部材が使用され、床下には伝統的な木造建築には珍しい筋交いが補強のために使われています。これは、柱が細すぎて柱同士をつなぐ貫を貫通させることができなかったためとされています。軽量な建物であるため、大きな地震力は作用せず、また崖の窪地に位置するため、強風や豪雪からも免れています。このような環境下でのみ成り立つ建物と言えます。

写真家の土門拳は、「日本第一の建築は?」と問われた際に、三仏寺投入堂をあげることを躊躇しなかったとされています。

従来の建築様式を変えた、戦国時代特有の建築の松本城

戦国時代ならではの工夫が凝らされた松本城の構造模型 「松本城天守」模型所蔵:松本市立博物館(写真右、撮影:筆者)

天守閣の起源は16世紀中頃の戦国時代にあり、防御用の櫓と領主の居館を一体化し、高層化したものが織田信長によって開発されました。松本城の天守も戦国の建物らしく、窓がほとんどなく、矢狭間が並ぶ外観が特徴的です。従来の五重塔などの高層建築では各層を積み上げる形式でしたが、天守では松本城を含めて通し柱という複数階にわたる長い柱を使用しており、建築の手間を省きつつ、高い建物の姿を早く外敵に見せる工夫がされています。

また、この時代から外側を土壁で塗り込める土蔵造が普及し、厚い土壁が攻撃や火から建物を守る役割を果たしました。構造的には、通り柱と胴差がラーメン構造を形成し、土壁が耐震壁として機能する外郭構造になっています。これを現代の高層化を目指す木造建築と比較するのも興味深いでしょう。

B 次世代を担う構造家たち

構造家・坪井善勝が建築家・丹下健三とのコンビで完成させた国立代々木競技場の構造模型 「国立代々木競技場」構造設計:坪井善勝研究室 建築設計:丹下健三・都市建築設計研究所 模型所蔵:建築倉庫(撮影:筆者)

30名以上の構造家のインタビュー映像を用いて、建築家と協力する構造家の思想や哲学を探ります。注目される若手構造家の作品を通じて、構造デザインの将来的な展開も示します。

C 構造デザインの展開

テーマCの会場風景の様子(撮影:筆者)

構造デザインで得た幾何学の知見を活用し、ファッションや地図図法などの異なる領域への応用を紹介します。展示は、構造デザインの多様な応用とその新しい可能性を体感できるよう設計されています。

D 宇宙空間へ

テーマDの会場風景の様子(撮影:筆者)

地球上の構造デザインを宇宙空間に展開する取り組みとして、JAXAと佐藤淳氏らが開発中の月面構造物の原寸大模型を展示します。この模型は月面での建築の実用性と発展性を示し、宇宙開発との連携の可能性を探ります。

最後に

会場風景の様子(撮影:筆者)

日本には世界的に有名な建築家が数多くいますが、彼らを支える構造家の役割は一般にはあまり知られていません。建築家が完成像を描き、構造家は建物の基礎と骨組みを設計するなど、協働して取り組んでいるのです。この展覧会では100点以上の構造模型を通じて構造家の重要な役割を再評価します。

展覧会情報

「感覚する構造 – 法隆寺から宇宙まで –」
会期:2024年4月26日(金)〜8月25日(日)
会場:WHAT MUSEUM 1・2F
住所:東京都品川区東品川2-6-10 寺田倉庫G号
開館時間:11:00〜18:00(入場は17:00まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜に休館)
入館料:一般 1,500円、大学生・専門学生 800円、高校生以下 無料
※チケットはオンラインにて事前購入可
公式サイト:感覚する構造 – 法隆寺から宇宙まで –

【写真10枚】構造デザインがわかる名建築の構造模型を集めた展覧会「感覚する構造 – 法隆寺から宇宙まで –」が開催中! を詳しく見る
つくだゆき

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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。

東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。

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