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EVENT

2021.7.12

天平彫刻の名品を史上初めて東京で公開。特別展『国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ』

奈良県桜井市にある聖林寺の国宝『十一面観音菩薩立像』。8世紀の後半に造られ、威厳に満ちた顔立ちや均整な体つきの仏像は、奈良時代を代表する彫刻として知られてきました。

その『十一面観音菩薩立像』を初めて奈良県外にて公開する展覧会が、東京国立博物館にて開催中です。4つのポイントから見どころをご紹介します。

『特別展「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ』展示風景『特別展「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ』展示風景


聖林寺の国宝『十一面観音菩薩立像』を奈良県外にて初公開!

『十一面観音菩薩立像』『十一面観音菩薩立像』 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵 国宝

▲右の奥に見えるのは光背(仏身から発する光を象り、仏像の背後にあった飾り)の残欠です。透かし彫りによって植物の文様が施されています。

像高2メートルを超える大きさに圧倒されるかもしれません。『十一面観音菩薩立像』は、八面(当初は十一面)の頭上面の残る頭部から足元の蓮華座に至るまで一部を除き、造仏当初の姿をほぼ留めています。

そもそも江戸時代までは、三輪山をご神体に仰ぐ大神(おおみわ)神社に属する大神寺(鎌倉時代以降は大御輪寺)の本尊でしたが、明治時代の神仏分離令によって廃寺となったために聖林寺へと移されました。

大神寺から聖林寺までは約6キロ。当時の僧侶たちは、仏像を大八車にのせて運んだとされています。まさに廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)の荒波を乗り越えた仏像といえるでしょう。


博物館ならではの展示手法!360度の角度から自由に鑑賞OK

国宝『十一面観音菩薩立像』の後ろ姿国宝『十一面観音菩薩立像』の後ろ姿。裳裾のひだが美しく波文様を描いています。

会場では『十一面観音菩薩立像』を独立したガラスケースの中に安置。360度の全方位からぐるりと一周しながら鑑賞できます。よって普段はチャンスのない後ろ姿までも見られるのです。

また、横から向き合うと意外と胸板が厚いことが分かります。さらに手首を曲げ、指をしなやかに屈した右手の動きも実に優美。菩薩面や牙を出した面などの頭上面や、足元で力強く反り返るように蓮弁が重なる蓮華座も見どころではないでしょうか。

少し離れて全体の威容を眺めながら、近づきつつ単眼鏡を構えてじっくりと見るのも良さそうです。顔から胸のあたりを中心に残った金箔も美しい光を放っていました。


三輪山信仰にまつわる出土品や大神寺由来の仏さまも一堂に

『月光菩薩立像』と『日光菩薩立像』左から『月光菩薩立像』と『日光菩薩立像』。ともに平安時代・10~11世紀、奈良・正暦寺蔵

展覧会の魅力はなにも『十一面観音菩薩立像』だけではありません。法隆寺の国宝『地蔵菩薩立像』や奈良・正暦寺の『日光菩薩立像』と『月光菩薩立像』など、かつて大神寺にあり150年ぶりに再開を果たした仏像も公開。

さらに仏教伝来以前、神々が宿るとされた三輪山への信仰を伝える古墳時代の出土品も展示されています。また大神神社の拝殿と禁足地を区切る『三ツ鳥居』の再現も目立っているのではないでしょうか。美しい稜線を描いた三輪山と鳥居を背景に『十一面観音菩薩立像』を安置するという、独特の思い切ったランドスケープが会場に築かれているのです。

トーハクの醍醐味は常設展(総合文化展)にあり!関連展示もお見逃しなく

『日光菩薩坐像』『日光菩薩坐像』 奈良時代・8世紀 京都・金輪寺、京都・高山寺旧蔵 重要文化財

▲『国宝 聖林寺十一面観音』の関連展示から。本館1室にて7月4日まで公開。7月6日からは奈良・西大寺の『釈迦如来坐像』が展示されます。

特別展と合わせて是非見ていただきたいのが、博物館の各所にて開催されている『国宝 聖林寺十一面観音』の関連展示です。

そもそも本館、平成館、東洋館などから成る東京国立博物館(トーハク)の最大の見どころは、日本・東洋美術の膨大なコレクションを公開する常設展示(総合文化展)にあります。今回も特別展にちなんで、奈良・西大寺の『釈迦如来坐像』(7月6日〜9月26日)などを公開。特別展のチケットで一緒に観覧できます。

また本館より少し足を伸ばして、法隆寺宝物館で同寺ゆかりの仏像を鑑賞したり、平成館の考古展示室で古墳時代の遺物を見るのもおすすめです。

『特別展「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ』特設ショップ『特別展「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ』特設ショップから

この他、特設ショップでは仏像の光背をデザインしたトートバッグなどのオリジナルグッズもずらり。聖林寺限定そうめんスナックといったレアな商品も販売中です。こちらも要チェックです。

『朱塗金銅装盾』と『三輪山絵図』左:『朱塗金銅装盾』 鎌倉時代・嘉元3(1305)年 奈良・大神神社 重要文化財
右:『三輪山絵図』 室町時代・16世紀 奈良・大神神社 

▲左の盾には日月が金銀で表されていて、敵の攻撃を防ぐ武力の象徴であることから、その力を頼んで祭礼に用いられました。

「おそらく今後50年は東京で公開されることがないだろう。」とも言われる一期一会の『特別展「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ』。古くから『十一面観音菩薩』は、十一の面であらゆる方向を見渡し、深い慈悲の心で人々を救う仏像として信仰を集めてきました。依然としてコロナ禍が続く中、心に癒しを与えられるような必見の仏教美術展となりそうです。

『特別展「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ』会場入口『特別展「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ』会場入口

▲チケットはWEBの事前予約制にて販売されています。

『特別展「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ』 東京国立博物館・本館 特別5室
開催期間:2021年6月22日(火)~9月12日(日)
所在地:東京都台東区上野公園13-9
アクセス:JR上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
開館時間:9:30~17:00
休館日:月曜日。但し8月9日(振休)は開館。
料金:一般1500円(1400円)、大学生800円(700円)、高校生500円(400円)。中学生以下無料。
 ※( )内は前売日時指定券の料金。
 ※事前予約制(日時指定券)を導入。入場に際して日時指定券の予約が必要。
https://www.tnm.jp

【写真8枚】天平彫刻の名品を史上初めて東京で公開。特別展『国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ』 を詳しく見る
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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