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2021.9.27
唯一無二の絵を。超一流のアイディアと努力が見られる日本画の展覧会
「この絵を描けるのは、世界で私ひとりだけだ」
これは私が考えた架空の名言ですが、多くの画家が思っていることではないでしょうか。当たり前だから言わないだけで。
美術の歴史は、「先人がやらなかったこと」「ほかの誰にもできないこと」の更新の連続です。誰にでも再現できる絵など、アーティストには無意味なのでしょう。
速水御舟 《桃花》 1923(大正12)年 紙本金地・彩色 山種美術館
山種美術館で開幕した『速水御舟と吉田善彦―師弟による超絶技巧の競演―』では、オリジナルの技法を発明して用いた2人の日本の画家に焦点を当てます。誰にも真似できないユニークな作品の見どころを紹介していきましょう。
絵具を自在に操るマジシャン、速水御舟
速水御舟(はやみ・ぎょしゅう、1894-1935年)は、大正から昭和初期にかけて活動した日本を代表する画家です。山種美術館は約120点もの御舟の作品をコレクションしており、本展では10代から晩年までの幅広い作品を鑑賞できます。
御舟は新しい作風や技法をどんどん考え挑戦し、唯一無二の絵画を数多く生み出しました。10代の頃から活躍し始め、40歳で早世した短命の画家でしたが、絵を描く技巧や作風の多様さは他を凌駕しています。
速水御舟 《翠苔緑芝》 1928(昭和3)年 紙本金地・彩色 山種美術館
《翠苔緑芝》は、サラサラ光る金の地に緑が映え、白兎と黒猫が愛らしい作品。ですが、御舟ならではのテクニックが詰め込まれています。例えば、あじさいに注目してみましょう。
速水御舟 《翠苔緑芝》(部分)1928(昭和3)年 紙本金地・彩色 山種美術館(筆者撮影)
花びら(正確には「がく」)には、バリバリと割れた模様が入っています。青色の濃淡とヒビによって、人の手で絵具を塗ったのとは違う質感ではないでしょうか。
これは作品の劣化ではなく、御舟が意図して表現した効果。本人が詳しく技法について語らなかったため、ひび割れを作った方法はわかりません。胡粉(白い絵具)と重曹を混ぜて火に近づけた、薬品を用いた、など諸説あります。
速水御舟 《翠苔緑芝》(部分)1928(昭和3)年 紙本金地・彩色 山種美術館(筆者撮影)
ほかにも、苔と芝生の質感の描き分けなど、《翠苔緑芝》には御舟ならではの技法が見られます。遠くから見るとシンプルな構図が印象的なだけに、細かな技巧が凝らされていることに驚きました。
「金のヴェール」の使い手、吉田善彦
吉田善彦(よしだ・よしひこ、1912-2001年)は、17歳で御舟に弟子入りした画家です。戦中・戦後には法隆寺金堂壁画の模写事業に参加し、古美術の影響も強く受けました。
吉田善彦 《大仏殿春雪》 1969(昭和44)年 紙本・彩色 © Noriko Yoshida 2021 /JAA2100171
これらを経験するなかで善彦が魅了されたのが、古美術の風化した美しさ。もみほぐした紙を使って絵を描き、古いもの特有の時間を内包した作品を生み出しました。
身近な例だと衣服のダメージ加工でしょうか。しかし、衣料品よりも破れやすそうな紙をもみほぐすとは……想像が及びません。
吉田善彦 《桂垣》 1960(昭和35)年 紙本・彩色 山種美術館 © Noriko Yoshida 2021 /JAA2100171
一度絵具で和紙に描いた後に、それをもみほぐして伸ばしてから金箔によるヴェールを被せ、その上にさらに絵具で彩色を施すのが「吉田様式」です。内側から柔らかく発光しているように見え、後光がさしている印象でした。
《桂垣》は吉田様式を初めて用いた代表作。本展では充実した技法の解説とともに、超絶技巧を隅々まで鑑賞できます。
まとめ
独自の技法によって唯一無二の絵画を生み出した速水御舟と吉田善彦。彼らの作品は穏やかな印象のものが多いですが、新しい表現を追求する野心に満ちているのです。
『速水御舟と吉田善彦―師弟による超絶技巧の競演―』
会期:2021年9月9日(木)~11月7日(日)
会場:山種美術館
休館日:月曜日[但し、9/20(月)は開館、9/21(火)は休館]
https://www.yamatane-museum.jp/exh/2021/gyoshu.html
画像ギャラリー
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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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