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2021.11.12

特設ショップも充実!民藝の歴史を社会の変化とともにたどる『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』が見逃せない

「民衆的工藝」を意味し、1925年に柳宗悦や濱田庄司らによって打ち立てられた新たな美の概念「民藝」。民衆の使う日用品の中に手仕事の美しさを見出し、それを通して生活や社会を豊かにしようとした運動は、約100年経った現在も色あせることはなく、多くの人々に影響を与えています。

東京国立近代美術館で開催中の『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』では、柳らが収集した陶磁器、染織、木工、籠などの暮らしの道具をはじめ、大津絵といった民画コレクション、さらに出版物や写真などの約400点もの作品と資料を展示。かつてないほどのスケールにて民藝のすべてを明らかにしています。見どころをレポートします。

参考出品「日本民藝館展示ケース」 案:柳宗悦、拭漆:鈴木繁雄 1936年 日本民藝館参考出品「日本民藝館展示ケース」 案:柳宗悦、拭漆:鈴木繁雄 1936年 日本民藝館

民藝運動の3つの柱とは? その起源と歩みを社会の変化とともにたどる

『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』会場風景 一番左は『中国風曲木肘掛椅子』 デザイン指導:吉田璋也 1940〜50年頃 鳥取民藝美術館『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』会場風景 一番左は『中国風曲木肘掛椅子』 デザイン指導:吉田璋也 1940〜50年頃 鳥取民藝美術館

東京・駒場の日本民藝館にたくさんの人が訪ね、デパートなどの民藝展が活況を呈するなど、いまも人気を集める民藝。物産展などで民藝品を買い求めては、日々の暮らしにて愛用している方も多いのではないでしょうか。

美術館、出版、流通の民藝運動の三本柱を示した「民藝の樹」。『月刊民藝』の創刊号(1939年12月)に掲げられました。美術館、出版、流通の民藝運動の三本柱を示した「民藝の樹」。『月刊民藝』の創刊号(1939年12月)に掲げられました。

過去に数多くの民藝に関する展覧会が開かれてきたため、「これまでに民藝展は何度も見てきた…」と思う方も少なくないかもしれません。そうした中、今回の民藝展の最大の特徴としてあげられるのは、単に民藝の名品を並べたのではなく、民藝運動の変遷を社会の関係とともにたどっていることです。よって「集めて見せ」(美術館)、「作って届け」(生産と流通)、「広げてつなげる」(出版)という3つの柱を持った民藝の歴史が分かります。

『日本民藝地図』(現在之日本民藝) 芹沢銈介 1941年 日本民藝館 全長13メートルを超える巨大な地図。和紙、民窯、竹細工、染織など25種類の絵記号を使い、500件を超える産地が登録されました。『日本民藝地図』(現在之日本民藝) 芹沢銈介 1941年 日本民藝館 全長13メートルを超える巨大な地図。和紙、民窯、竹細工、染織など25種類の絵記号を使い、500件を超える産地が登録されました。

千葉県の我孫子に柳が居を構え、「白樺」の同人と集いながら興った民藝運動は、全国各地の民藝品を発掘するように収集。1936年には古今東西の民藝品を公開する日本民藝館が開館し、5年後には全国調査の成果を描いた『日本民藝地図』などに結実しました。

『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』会場風景『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』会場風景 柳が魅了され、調査研究を重ねた木喰の『地蔵菩薩像』などが並んでいます。

そしてその間、柳らはヨーロッパの工芸品への関心を高めながら、東北や沖縄、それに北海道のアイヌから朝鮮の民藝などに美を見出し、古民藝の収集に留まらず新作民藝を制作する幅広く活動していきます。展示ではそうした民藝の動きを、昭和の観光ブームや民俗学の観点、さらには戦争との関わりなどを交えつつ体系だって紹介しています。多くの人物が参加する民藝運動がまるでドラマを目にするように明らかにされていました。

編集作業にも優れた才能を発揮。クリエーターとして活動した柳宗悦

『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』書斎再現コーナー『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』書斎再現コーナー

民藝運動の中心的人物はもちろん柳宗悦。文筆活動を中心に、「美の法門」を打ち立てた宗教哲学者でもありましたが、実は集めた器をスケッチしたり、書体を作り、建物の設計図を描きながら展覧会の陳列の仕方を決めるなど、さまざまな編集作業にも優れた才能を発揮していました。

『工藝』 1931年1月〜51年1月 国立新美術館『工藝』 1931年1月〜51年1月 国立新美術館 布表装にしたり、和紙を用いたり、写真挿図を活用するなど、毎号工夫が凝らされました。

そこで柳の編集者としての活動にも着目。雑誌そのものが工藝的な作品であるべき思想のもとに刊行された『工藝』や、造本までこだわった単行書、さらに自ら表装の指示書を描いた大津絵や出雲民芸紙の創作者の安部榮四郎とともに考案したレターセットなどが展示されています。

『茶地縞ジャケット』(柳宗悦着用)『茶地縞ジャケット』(柳宗悦着用) 及川全三 岩手県盛岡市 昭和中期 日本民藝館 左はホールスパンを着る柳宗悦(1948年)

また柳が着用していた岩手の木草染の『茶地縞ジャケット』や、日本民藝館の向かいにある柳自邸の書斎を再現展示からは、在りし日の柳の姿が思い浮かぶのではないでしょうか。再現コーナーにもある黒田辰秋の重厚な『拭漆机』を前に、19世紀アメリカのアンティークの『獅子飾付椅子』に座りながら書物をめぐる柳の書斎での写真も見逃せませんでした。(書斎再現コーナーは撮影OK)

インダストリアルデザインへの展開。衣食住へと広がる民藝運動の戦後とは?

右:『アサヒビール 包装紙試作』 芹沢銈介 1962年頃 東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館右:『アサヒビール 包装紙試作』 芹沢銈介 1962年頃 東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館

戦後において民藝は国際文化交流の最前線として活動をはじめます。柳や濱田庄司は1952年の渡欧中にモダンデザインに着目した一方、デザイン界も民藝への関心を深めていきました。そして1950年代に柳の長男・宗理による民窯とのコラボレーションや、同じく宗理が監修した1958年の「フィンランド・デンマークのデザイン」展において、民藝はインダストリアルデザイン、つまり工業デザインとして展開する道筋が示されました。

中村精編『民芸手帖』東京民藝協会 第1号(1958年6月)〜第295号(1982年12月) 東京国立近代美術館中村精編『民芸手帖』東京民藝協会 第1号(1958年6月)〜第295号(1982年12月) 東京国立近代美術館

こうした動きは1963年に柳が世を去った後も「民藝ブーム」として続き、民藝は食器や家具などのインテリアまでをトータルにデザインしていきます。また観光の増大により、土産物のパッケージも民藝の作り手たちの活躍の場となりました。

『丸皿(青)』 デザイン:柳宗理 牛ノ戸脇窯 1959年 柳工業デザイン研究会 他『丸皿(青)』 デザイン:柳宗理 牛ノ戸脇窯 1959年 柳工業デザイン研究会 他

「ローカルであり、モダンである。」とは展覧会のキャッチコーピーの1つですが、いまも古びない民藝のデザイン感覚は、戦後の民藝運動の発展とも深く関わっているかもしれません。宗理デザインによる鳥取の牛ノ戸脇窯の『丸皿』といったおしゃれな新作民藝にも目を奪われました。

期間限定のポップアップショップも出店!特設ショップが充実

『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』特設ショップ『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』特設ショップ

最後に紹介したいのは、第2会場(2F ギャラリー4)にて待ち構える特設ショップです。ここでは民藝の作品をあしらったオリジナルグッズなどを限定にて発売。羽広鉄瓶をあしらったトートバックやハンカチからお菓子などが勢揃いしています。

『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』特設ショップ『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』特設ショップ

あわせて見過ごせないのがデザイン活動家のナガオカケンメイが率い、長く使い続けられる生活用品の「ロングライフデザイン」を販売する「D&DEPARTMENT」が出店していることです。全国各地から集められた「民藝感覚」の商品が数多く販売されています。

『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』特設ショップ『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』特設ショップ

これだけでも充実していますが、さらにすごいのは全国の民藝を扱うショップから全4店舗がポップアップ・ストアを展開していることです。

『民藝の100年』展ポップアップ・ストア出店スケジュール

・諸国民藝 銀座たくみ(東京都中央区) ※すでに終了
http://www.ginza-takumi.co.jp
・COCOROSTORE(鳥取県倉吉市) 2021年11月9日(火)~11月21日(日) https://cocorostore.com
・くらしのギャラリー本店(岡山県岡山市)2 021年12月7日(火)~12月19日(日) http://okayama-mingei.com
・もやい工藝(神奈川県鎌倉市) 2022年1月12日(水)~1月23日(日) 
http://moyaikogei.jp

4店舗は会期中2週毎に出店。魅力的な1点どころか、2点、3点と買い求めたくなるような品々が多く販売されています。散財必至ですので、お財布の中身には余裕を持っておきたいところです。

(左から)柳兼子、ブレイク氏、レジナルド・ブライス、ベス・ブレイク、柳宗悦 赤坂「ざくろ」、食前の待合いの部屋にて 1956年11月 撮影:中尾信 写真提供・日本民藝館(左から)柳兼子、ブレイク氏、レジナルド・ブライス、ベス・ブレイク、柳宗悦 赤坂「ざくろ」、食前の待合いの部屋にて 1956年11月 撮影:中尾信 写真提供・日本民藝館

柳は生前、東京国立近代美術館が1952年に開館してまもない頃、「近代美術館は『現代の眼』を標榜してゐる。併し民藝館は『日本の眼』に立たうとする。」と記し、美術館の制度に対する批判的な文章を発表したことがありました。

『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』会場風景『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』会場風景 手前はツイードスーツに竹製ショルダーバック(吉田璋也着用)。カジュアルなツイードスーツと草木染のネクタイが民藝の人々にとっての正装でした。

開館から70年を経て、まさか同美術館にて民藝運動を検証する展覧会が開かれるとは、柳本人も想像していなかったかもしれません。柳が考案した日本民藝館の伝統的な空間ではなく、美術館のホワイトキューブに並ぶ民藝品はまた違った新鮮な印象を受けます。長い民藝の歴史を考える上でもエポックメーキングとなりそうな『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』。お見逃しなきようにおすすめします!

『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』 東京国立近代美術館(1F企画展ギャラリー、2F ギャラリー4)
開催期間:2021年10月26日(火)~ 2022年2月13日(日)
所在地:東京都千代田区北の丸公園3-1
アクセス:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口より徒歩3分
開館時間:9:00〜17:00(金・土曜は10:00〜20:00)
 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日。ただし2022年1月10日は開館。年末年始[12月28日(火)~2022年1月1日(土)]、1月11日(火)
観覧料:一般1800(1600)円、大学生1200(1000)円、高校生700(500)円、中学生以下無料。
※( )内は20名以上の団体料金
※日時指定制のオンラインチケットあり
https://mingei100.jp

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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