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2021.12.28

金魚を描き続けて18年。上野の森美術館で開催中の『深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」』レポート

水の中をすいすいと群れて泳ぐ金魚たち。子どもの頃に夢中になった金魚すくいを思い出しませんか? 屋台でいざ金魚をすくおうとポイを手にするも、すぐに和紙が破れてしまうなどなかなかむずかしい。それでもなんとかすくったわずかな金魚を持ち帰り、家で大切に育てた…そんな記憶も蘇ります。

『方舟2』 2015年より『方舟2』 2015年より

しかしちょっと待ってください。この写真の金魚は生き物ではありません。「まさか!?」と思うかもしれませんが、実は絵なのです。そして現在、上野の森美術館にて個展を開催し、独自の技法で金魚を描くことに情熱を注ぎ続ける、一人の「金魚絵師」と呼ぶべき人物がいます。

現代美術家の深堀隆介が金魚を描くきっかけとなった「事件」とは?

現代美術作家の深堀隆介(ふかほり りゅうすけ)

その名は深堀隆介(ふかほり りゅうすけ)、1973年に愛知県で生まれた現代美術作家です。幼少期から金魚を見て育った深堀は、愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸専攻学科を卒業。その後は百貨店のショーウィンドウや店内装飾などのディスプレイの仕事に従事します。そして退職して制作活動をはじめるも、2000年の頃にアーティストとしての行き詰まりを感じたとしています。「もう美術なんでやめてしまおう」と思ったそうです。

『加羅』 2004年『加羅』 2004年

深堀に新たな創作意欲をもたらしたのが金魚の存在でした。ある日、7年間も部屋で放置するように飼っていた1匹の金魚が水槽でけなげに生き続ける姿に魅かれると、金魚をモチーフに作品を作ろうと決断します。当時この金魚はキンピンと名付けられたメスで、体長20センチ以上になっていましたが、水槽の中で赤く光る背中に美しさを見出し、夢中で金魚をモデルに筆を走らせました。

この日の出来事をのちに「金魚救い」と呼んで大切にしているというから、彼にとってどれほど電撃的な出会いであったことが分かるのではないでしょうか。

「リアル」な金魚の制作方法〜「滅面積層絵画」の魅力

まるで生きているような金魚

まるで生きているような金魚をどのように描いているのでしょうか? 重要なのは樹脂の存在です。まず器の中に液体の樹脂を少し流し込みます。2日間ほど待って固まったらアクリル絵具で金魚のヒレを描き、再び液状の樹脂を流し込みます。そしてまた固まったら今度は胴体を描いて、樹脂を少し入れます。この繰り返しです。つまりアクリル絵具を用いて樹脂へ何層も重ねて描くことで、立体的に見える金魚を生み出しているのです。

『百済』 2004年『百済』 2004年

こうして作られた作品を「滅面積層絵画」、「2.5D Painting」と呼びます。これにより金魚のヒレの薄さや、皮膚の透け感、底に落ちる影などを表現できるようになりました。もっとも最初から今のような表現に達することができず、失敗と成功を繰り返しながら、18年かけて完成度を高めていきました。そこには深堀の金魚を描くことに対する執念といえるような努力があったのです。

日常的な金魚を非日常な場に置き換える。さまざまな場所で泳ぐ「深堀金魚」たち。

『秋敷』 2020年『秋敷』 2020年

深堀の金魚の作品で面白いのは、金魚が立体的に見えるだけではなく、升や鉢をはじめ、日常で使われるさまざまな雑器に入れて描いていることです。しかも新品ではなく、食事を盛りつけたり、飲み物を入れたりして愛着を持って使われ、役目を終えたような古い器ばかりを用いています。

『方舟』 2009年『方舟』 2009年

しかも普段、水を入れることのない引き出しや傘といった、金魚が生きられない場所にまで描いています。「こんなところに金魚が?!」と驚いてしまうように、日常的な金魚を非日常的な場所に置き換えることで生じる「違和感」も作品の魅力です。

『方舟2』 2015年『方舟2』 2015年

こうした「深堀金魚」の作品の中でも特に目を引かれるのが、縦183センチ、横76センチの木箱の中を金魚が泳ぐ姿を描いた『方舟2』ではないでしょうか。大小さまざまな金魚が群れをなしては、枯れ葉や水草、それに苔の生えた水の中を気持ち良さそうに泳いでいます。

『方舟2』 2015年『方舟2』 2015年

また水や泡の質感までも細かに再現。思わず手を差し入れて水の感触を確かめたくなるほどにリアルでした。

『金魚書』から『金魚Tシャツ』、それに絵画『大蘇我』まで

左、『大渦』 右、『大蘇我』 ともに2010年左、『大渦』 右、『大蘇我』 ともに2010年

かねてより2.5Dだけでなく、2D、つまり平面の作品にも深堀は取り組んでいます。そのうち『大蘇我』とは畳一枚分ほどの和紙のパネルに、自らの身長とほぼ同じサイズの金魚を描いた作品です。これを深堀は鏡の前の自分と対峙しているような感覚で制作したと語っています。

『金魚書』 2004年『金魚書』 2004年

また『金魚書』とは制作活動をはじめた頃によく描いていたドローイング。半紙に墨でさまざまな金魚のイメージを描き、当時の個展の会場の壁に貼っては、一枚500円で販売していました。

『金魚Tシャツ』 2002年〜『金魚Tシャツ』 2002年〜

同じく初期の頃の『金魚Tシャツ』は金魚絵の練習を兼ねて描いたものです。実に年間約1000枚近くも描き、原宿のショップなどに卸して販売していました。これが売れ行きも良く、深堀の生活を大いに助けたそうです。まさに金魚と二人三脚の人生といえるかもしれません。

新たな表現への探究。新作インスタレーション『僕の金魚園』が楽しい!

『ララ金魚』 2020年『ララ金魚』 2020年

最後に近年に深堀が新たに取り組むアニメのような表現をご紹介しましょう。そのうちの『ララ金魚』は樹脂による積層絵画の作品ですが、アニメのキャラクターのような金魚たちは写実とは異なり、明らかに絵だということが分かります。

『僕の金魚園』 2021年『僕の金魚園』 2021年

このアニメのような金魚を描き、大胆なインスタレーションとして作り上げたのが、新作の『僕の金魚園』です。お祭りで目にする金魚すくいの屋台をミラーボールなどを用いて華やかに再現。金魚たちと同じ空間にいるような楽しい展示を行っています。

『僕の金魚園』 2021年『僕の金魚園』 2021年

水色の桶の中で泳ぐ金魚はもちろん、袋に吊るされた金魚もすべての積層絵画。和紙が破れたポイがたくさん散乱するなど、金魚すくいの臨場感は満点です。『僕の金魚圏』は写真も撮れますので、鑑賞の記念に撮影も楽しみましょう。

『雫』 2010年『雫』 2010年

深堀は毎日、水槽の前に座って金魚を眺めるものの、生きている金魚をデッサンすることがほとんどありません。よってリアルでありながらも、実際の品種を描いているわけではないのです。それを深堀は「脳で生み出した現実には存在しない金魚であり、まだ見ぬ美しい金魚の幻影を追いかけているからに他ならない」と語っています。

『デスノート』『デスノート』

しかし金魚が亡くなった時だけ、手帳やノートに姿をデッサンし、「動かなくなったからこそ見える体の特徴や細部を脳に焼き付ける」ともしています。そして脳に宿った金魚こそが、深堀を次の金魚の制作へとかき立てるのです。

『深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」』特設ショップより東京展限定「開運金魚みくじ』。イラストはすべて深堀の描き下ろしです。おみくじを引く時の音声にも注目してください。『深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」』特設ショップより東京展限定「開運金魚みくじ』。イラストはすべて深堀の描き下ろしです。おみくじを引く時の音声にも注目してください。

『深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」』の会期は1月31日まで。大晦日と元日の休館日を除いてすべて開館します。過去には個展が人気を集め、行列を呼んだこともある深堀の最新の金魚世界を、上野の森美術館にて味わってみてください。

『深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」』 上野の森美術館
開催期間:2021年12月2日(木)~ 2022年1月31日(月)
所在地:東京都台東区上野公園1-2
アクセス:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ・京成電鉄上野駅より徒歩5分。
開館時間:10:00〜17:00
 ※入館は16:30まで
休館日:12月31日(金)、1月1日(土)
観覧料:一般1600円、高校・大学生1300円、小中学生800円。
https://www.kingyobachi-tokyo.jp

はろるど

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。