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2022.3.4
知っているようで知らない宝石のすべてが明らかに!特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』レポート
「産出量が少なく、硬度が高くて、美しい光彩をもち、装飾用としての価値が高い非金属鉱物」(※)を意味する宝石。古くは魔除けやお守り、地位を示すシンボルとして用いられ、現在でもルビーやサファイア、ダイヤモンドなどを中心に宝飾品として広く親しまれています。
※デジタル大辞泉(小学館)より出典
目次
しかし宝石がどのように誕生し、どういった種類と特性があり、ジュエリーになるのかについてどれほど知られているでしょうか?現在、上野の国立科学博物館では多種多様な宝石やジュエリーを科学的、文化的な切り口から紹介する特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』が開催中です。見どころをレポートします。
高さ2.5メートルの巨大「アメシスト」が登場!宝石の誕生のプロセスとは?
第1章「原石の誕生」展示風景。会場内は撮影OKです。(フラッシュ、自撮り棒、動画はNG)
まずは宝石の原石の誕生について学びましょう。原石は地下深く、高温高圧の環境において生まれた鉱物。化学反応や融解や結晶化により、さまざまな化学組成をもった鉱物が生まれます。
鉱物が形成されるプロセスは一様ではありませんが、例えばマグマが冷えてできる火成岩から見つかる鉱物は、地下の高温のマグマが固まる上で少しづつ結晶化してできたもの。ダイヤモンドやペリドットはマグマに由来する宝石として知られています。
手前:「ペグマタイト」 岐阜県中津川市 ミュージアムパーク茨城県自然博物館
地下深くに存在する100度以上の熱水が、岩盤の割れ目を通って上昇する熱水脈からも鉱物は誕生します。熱水に溶けていた物質が、温度や圧力の低下によって溶けきれなくなり、割れ目などの隙間にさまざまな鉱物となって沈殿、また充填することで作られるのです。代表的な例としてアメシストや水晶が挙げられます。
会場では高さ2.5メートルにもおよぶ巨大なアメシストの原石も展示。2つに割られていますが、片方だけで2〜2.5トンもあるというから大変な重量です。まるで宇宙に星が瞬くような紫色の輝きを目に焼き付けましょう。
原石から宝石へ。4000年の宝石の歴史を指輪で追いかける
第2章「原石から宝石へ」より「宝石の代表的なカット」展示風景
それでは原石はどのようにして宝石になるのでしょうか?まず地下の鉱床を調査し、露天掘りや坑道掘りといった採掘の形態が決められます。その後、原石を採掘するわけですが、良い原石が得られたからといって良い宝石にはなりません。というのも整形や研磨、つまりカットの出来栄えが、原石の品質に劣らないほど宝石の評価を左右するのです。
そこで会場でも多数の研磨面(ファセット)で囲まれた多面体に仕上げるファセットカットや、ファセットをつけないカットについて紹介。ファセットカットには全面に面をつけるブリオレットカットや上部をドーム状に仕上げるローズカットなどがありますが、それを宝石のサンプルとともに展示しています。
古代から現代までの宝石のカットの歴史をたどる「指輪が語る4000年の宝石史年表」も見どころの1つです。
「指輪が語る4000年の宝石史年表」から主に20世紀に作られたさまざまな指輪
国立西洋美術館の「橋本コレクション」から約200点の指輪を年代別に展示。古くは古代エジプトの中王国時代の『スカラベ』から1980年代の『パールとダイヤモンドの指輪』などがずらりと並んでいて、指輪のかたちを通して宝石のカットの変遷を追うことができるのです。
ねぎにしか見えない?!さまざまなかたちをした宝石の特性を知ろう
「輝き」、「煌めき」、「彩り」、「耐久性」といった観点から、さまざまな宝石を紹介する展示も、宝石の特性や多様性について考える上で重要ではないでしょうか。そもそも宝石の美しさは「光学特性」と呼ばれる光に対する作用の性質と深く関係し、硬さや衝撃に対しての強さといった耐久性においては、構成元素の種類や原子配列に起因しています。
ここではダイヤモンドやサファイア、ルビーなどから、フォスフォフィライトやブラックダイヤモンドと呼ばれるレアストーンの約200もの宝石を並べながら、その美しさについて科学的に分析しています。つい宝石を目の前にすると、眩いばかりの光にただ見惚れてしまいますが、研究者の知見を交えた国立科学博物館ならでの学問的な展示といえるかもしれません。
左:「トルマリン」 ブラジル産 神奈川県立生命の星・地球博物館
それにしても多種多様な宝石ですが、中にはSNSで「ねぎにしか見えない!?」と話題のトルマリンなど、不思議なかたちをしたものもあります。またアンモナイトの化石から産出されたアンモライトや、パールやコーラルなど真珠貝や珊瑚といった生物由来の宝石も見ておきたいところです。
第3章「宝石の特性と多様性」から「紫外線で光る宝石」展示風景
紫外線で光るフローライト(蛍石)を暗室に並べた展示も見過ごせません。石の種類によって特有の蛍光色があるために色はさまざまですが、ルビー、サファイア、ダイヤモンド、ソーライトなどが幻想的な光を放っている様子を目にすることができました。
ここまでいろいろな宝石を見てきましたが、「日本の宝石はどのようなものがあるのだろう?」と思う方もいるかもしれません。日本で産出する鉱物種は1400種類あり、中には縄文時代の遺跡からも見つかったひすいのように宝石になるような美しいものもあります。この他、ジャスパーは玉(ぎょく)の素材として重用され、江戸時代から明治時代以降には水晶やトパーズなどが採掘されました。
「こんな大きな宝石は見たことない!」と思わず声を上げてしまいそうになるのが、GIA(米国宝石学会)所蔵の世界最大クラスの巨大宝石を並べたコーナーです。ここにはロッククリスタルやトパーズ、アクアマリンなどのさまざまな宝石種の最大クラスの宝石を展示しています。なお大きさにばらつきがあるのは、大きな原石を多産する種と小さな原石しか得られない種があるためです。大きすぎるゆえに実際の宝飾品には使えませんが、圧巻の輝きではないでしょうか。
麗しき宝石に酔いしれる。国内外の貴重なジュエリーコレクション
さて終盤に登場するのが、国内外から集められた貴重なジュエリーのコレクションです。カットされて輝くルース(磨いた石)を、貴金属でできたベゼル(台座)に収めることで、初めてジュエリー(宝飾品)となります。まず展示ではルースがジュエリーとなるプロセスで重要な役割となるセッティング、つまり固定する技法について解説。石の留め方や宝石の美しさの引き出すための方法について知ることができます。
第4章「ジュエリーの技巧」から日本の四季をイメージした宝石デザイン
さらに1906年に創業し、フランス・パリに本店を構える「ヴァン クリーフ&アーペル」や、日本が誇る兵庫・芦屋のジュエリーブランド「ギメル」の逸品なども紹介し、芸術的なジュエリーの数々を堪能することができます。春夏秋冬、日本の四季の草花をイメージして表現した宝石デザインも壮麗でした。
ナポレオンの名将モルティエ元帥よりリュミニー侯爵夫人へ送られたピンク・トパーズとアクアマリンのパリュール 1820年頃 フランス アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート
ラストは世界的宝飾品コレクションを誇るアルビオン アートの特別協力により、古代メソポタミアやエジプトで作られた作品から20世紀の最先端のジュエリーまでを60点ほど公開。ぐっと照明の落とされた空間にて、それぞれのジュエリーが光瞬く様子を味わえます。
左:ロシア大帝エカテリーナ2世よりアレクセイ・オルロフへ贈られたエカテリーナ大帝の肖像エメラルド・インタリオ 18世紀 ロシア アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート
ジョルジュ・フーケがミュシャと共同制作したコルサージュ・オーナメントや、ロシア大帝エカテリーナ2世よりアレクセイ・オルロフへ贈られたエカテリーナ大帝の肖像エメラルド・インタリオといった見るも美しいジュエリーばかりですが、お気に入りの作品を探していくのも楽しいかもしれません。
コラボレーション企画から特設ショップまで
展覧会を盛り上げるコラボレーションをご紹介しておきましょう。まず1つは『のだめカンタービレ』の作者の二ノ宮知子さんが「Kiss」で連載中の『七つ屋 志のぶの宝石匣』です。宝石のオーラが見える質屋の娘・志のぶと宝石外商・顕定(あきさだ)がパネルで登場し、展示の内容を分かりやすくガイドしてくれます。またオリジナルイラストもあわせて公開されています。
動物と宝石や鉱物を組み合わせて描き、SNSにて話題の色鉛筆画家、長靴をはいた猫さんの描き下ろしイラストも展示。さらに特設ショップではイラストを用いたオリジナルグッズなども販売されています。
隕石の中にも美しいペリドット(かんらん石)が含まれていたり、極めて微細なダイヤモンドが発見されていますが、ほとんどの宝石は地球内部の地質作用により生じた鉱物などで形成されています。その理由として水の存在が挙げられます。水はあらゆる物質を溶かし、岩石の融点を下げてマグマをできやすくする作用があるため、新たな石を次々と生み出すことができるのです。
そして長く地球内部に眠っていた宝石は、太古の深部の情報をいまに伝えてくれる「地球からの手紙」とも呼ばれています。その輝きに心を奪われつつ、知っているようで知らない宝石の奥深い魅力を国立科学博物館にて味わってみてください。
特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』 国立科学博物館
開催期間:2022年2月19日(土)~ 6月19日(日)
所在地:東京都台東区上野公園7-20
アクセス:JR線上野駅(公園口)から徒歩5分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅(7番出口)から徒歩10分。京成線京成上野駅(正面口)から徒歩10分。
開館時間:9:00~17:00 ※最終入場は16:30まで
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日休館)※ただし3月28日、5月2日、6月13日は開館。
料金:一般・大学生2000円、小・中・高校生600円。
※オンラインでの事前予約制
https://hoseki-ten.jp

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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