EVENT
2022.7.5
日独を代表する美術館による初のコラボレーション企画『自然と人のダイアローグ』
現在、国立西洋美術館ではリニューアルオープンを記念し、ドイツ・エッセンのフォルクヴァング美術館の協力を得て、「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」が開催中です。
両館から印象派とポスト印象派を軸に、ドイツ・ロマン主義から20世紀絵画まで100点を超える絵画や素描、版画、写真などの作品を通じて、自然と人の対話(ダイアローグ)から生まれた近代芸術の展開をたどる本展覧会をご紹介いたします。
同時代を生きたふたりのコレクター
左:カール・エルンスト・オストハウス (1921年以前の撮影)Albert Renger-Patzsch © Museum Folkwang, Essen 、右:松方幸次郎 株式会社川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)初代社⻑ 写真提供:川崎重工業株式会社
国立西洋美術館とフォルクヴァング美術館は、松方幸次郎(1866-1950)とカール・エルンスト・オストハウス(1874-1921)の個人コレクションをもとにそれぞれ設立されたという共通点を持っています。
神戸の川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)を率いた松方幸次郎は、日本で待ち望まれていた西洋美術の殿堂を作るため、1910年代後半から1920年代後半にかけて欧州で西洋美術作品を収集。
しかし、金融危機の煽りから経営破綻し、その夢は潰え、作品は押収や焼失、一部が散逸することとなりました。
そして1959年に寄贈返還された作品の保存展示をするため国立西洋美術館が設立されました。
一方、裕福な銀行家に生まれたオストハウスが、1902年にドイツ・ハーゲンに設立したのがフォルクヴァング美術館。
戦中にはナチス政権下での収蔵品押収や、爆撃を受けて閉館に追い込まれましたが、戦後再建され、今日では優れた近現代美術のコレクションを所有していることで知られています。
本展覧会では、そういったコレクションが辿ってきた歴史にも注目してみると面白いですね!
対話(ダイアローグ)を感じ取れる構成
松方幸次郎とカール・エルンスト・オストハウスの対話
展示風景 ギュスターヴ・クールべ《波》、左がフォルクヴァング美術館所蔵のもの、右が国立西洋美術館所蔵のもの。
日独を代表する美術館のコレクションでは、開館から現在に至るまで、印象派とポスト印象派を軸に、ドイツ・ロマン主義から20世紀絵画まで、実にバラエティに富んだ芸術ジャンルが楽しめるだけでなく、絵画や素描、版画、写真、その表現も多様に展開されています。
そんな両館の作品に注目してみると、自然がポイントになっていることがわかると同時に、同じ作家の同じ構図など、数々の類似点があるので、ぜひ見比べながらご覧になってみてください。
自然とアーティストの対話
左:カール・フリードリヒ・シンケル《ピヘルスヴェルダー近郊の風景》1814年 フォルクヴァング美術館 、右 :カール・グスタフ・カールス《高き山々(カスパー・ダーヴィト・フリードリヒにもとづく模写)》1824年頃 フォルクヴァング美術館
会場では、産業や社会、科学など多くの分野で急速な近代化が進んだ19世紀から20世紀にかけて、芸術家たちも新たな知識と眼差しを持って自然と向き合い、この豊かな霊感源から多彩な作品を生み出していきました。
足元の草花から広大な海原、そして無限の宇宙まで、普遍的な自然の偉大さが感じられるだけでなく、人間自身を内包する「自然」の広がりから、2つの美術館のコレクションという枠で切り出したさまざまな風景の響き合いが楽しめます。
ゴッホをはじめ、マネ、モネ、セザンヌ、ゴーガン、シニャック、ノルデ、ホドラー、エルンストなど、西洋絵画の巨匠たちによる100点を超える作品から多彩な自然表現をお楽しみください。
自然をめぐる新たな風景
左:クロード・モネ《舟遊び》 国立西洋美術館、右:ゲルハルト・リヒター《雲》 フォルクヴァング美術館
本展覧会は、お馴染みの印象派作品を中心とした「Ⅰ章 空を流れる時間」、芸術家の心象や観念に結びついた作品を紹介する「II章 『彼方』への旅」、移ろい続ける自然に対して、多様な試みが感じられる「III章 光の建築」、自然のなかの循環的な時間と人の生を重ね合わせた「IV章 天と地のあいだ、循環する時間」の4章で構成されています。
今回、フォルクヴァング美術館の協力により、ドイツ・ロマン派の巨匠フリードリヒ、ドイツが生んだ現代アートの巨匠リヒターなど、ドイツゆかりの作家による作品や、知る人ぞ知る魅力的な作品群が数多く出品されます。
また、ファン・ゴッホが晩年に取り組んだ風景画の代表作《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》がドイツより初来日を果たしますのでお見逃しなく!
最後に…
左:クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》国立西洋美術館、右:クロード・モネ《睡蓮》国立西洋美術館
自然と人の関係が問い直されている今日、作家たちが描き出す光と風景の結晶をご覧になりながら、心の中で作品との対話を通じて、自然を巡る新たな風景を思い描いてみると、心が豊かになることでしょう。
上野の公園の自然と溶け合うように設計されたル・コルビュジェの想いと、1年半の休館を経てリニューアルした国立西洋美術館も堪能しながら、「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」にぜひ 足を運んでみてくださいね。
取材・撮影・文:新麻記子
『国立西洋美術館リニューアルオープン記念
自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで』
会期 2022年6月4日(土)〜2022年9月11日(日)
会場 国立西洋美術館 (東京都台東区上野公園7-7)
開館時間 9:30~17:30(金・土曜日は20:00まで)※日時指定制
休館日 月曜日、7月19日(火)
※ただし、7月18日(月・祝)、8月15日(月)は開館
観覧料 一般 2,000円、大学生 1,200円、高校生 800円
お問合せ:TEL 050-5541-8600 (ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://nature2022.jp
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アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。
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