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2022.7.11
あの話題のプロジェクトの裏側に迫る!『クリストとジャンヌ=クロード “ 包まれた凱旋門”』
6月13日より21_21 DESIGN SIGHTにて開催中の企画展「クリストとジャンヌ=クロード “包まれた凱旋門”」。
本展は、現代美術作家クリストとジャンヌ=クロードの悲願の夢であり、昨年9月に現実のものとなったプロジェクト「L'Arc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961ー2021(包まれた凱旋門)」の背景や制作過程に焦点を当てます。
目次
プロジェクト実現に向けた長い道のりから二人の人生において貫かれたものを紐解く本展覧会をご紹介します。
現代美術作家クリストとジャンヌ=クロード
クリストとジャンヌ=クロードは、モニュメンタル(※編集部注:記念すべきさま。歴史的に意義のあるさま) な環境芸術作品を制作していた芸術家夫婦です。1935年6月13日生まれのふたりは、1958年にフランス・パリで出会い、その後生涯に渡って共同制作者として、これまで数多くの環境芸術作品を発表しました。
彼らの作品の中でもよく知られているのが、布を使用して景観を変容させるアートプロジェクト。クリストの初期作品では日用品を用いた「包まれたオブジェ」からはじまりましたが、当初から巨大な建物や自然、公園の風景全体を梱包するアイデアもあったそうです。
1960年代以降、彼らのプロジェクトは次第にその規模を巨大化させていき、美術館の建物を丸ごと包むといったモニュメンタルな屋外プロジェクトにはじまり、オーストラリアの高さ約15メートル、長さ2キロメートルにおよぶ海岸を丸ごと梱包した「包まれた海岸線」(1968-1969)など、絵画、彫刻、建築といった従来の枠を超越した途方もない作品もあります。
これらの「作品」は、布の性質、天候による破損、自然に対する影響、担当役所による設置許可期間などにより永続することは不可能です。しかし、もとよりクリストには恒久展示して永続させる意図はまったくなく、現在彼らの作品は記録写真や記録映像などによってしか知ることはできません。
“包まれた凱旋門”のプロジェクトについて
ダイナミックな空間で実現までの道のりを体験できる
本展覧会は、昨年9月に行われたプロジェクト「L'Arc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961ー2021(包まれた凱旋門)」の実現までの約60年間という長い道のりを紹介するものです。
会場では、パンデミックによりフランス・パリに足を運べなかった方でも、構想、準備、設置、実現の段階に沿って、動画、写真、資料による展示から、そのプロジェクトのスケールを体験・体感できるように構成されています。
会場では、さまざまな視覚手法で再構成する空間インスタレーションが 展示されており、ナショナルモニュメントである凱旋門を守りながら工夫を凝らして設置していく様子から、実現して人々の驚きや歓喜に包まれるまでを、まるで一本の映画作品のようにダイナミックな空間を通して体験できます。
印象に残っている大規模プロジェクトの小噺を紹介
2020年、ポンピドゥーセンターにてクリストとジャンヌ=クロードの回顧展が企画されることとなり、展覧会の構成においてふたりのパリ時代での活動に焦点をあてて紹介することになったのだそうです。
その準備の際、美術館サイドから「何かやりたいことはないですか?」と聞かれ、1961年にクリストが描いた凱旋門を包んだフォトモンタージュ(合成写真)を持ち出し、今回のプロジェクトが立ち上がったのだと教えてくれました。
その後、凱旋門の管理者である国立文化センターやフランス大統領であるマクロン氏への交渉から認可がおり、2020年の回顧展に合わせて発表予定でしたが、凱旋門に鷹が巣作りをしていたため同年4月から9月に延期。そして新型コロナウイルスのパンデミックの影響によりさらに1年延期が決定し、その間にクリストが逝去してしまうなどありましたが、2021年9月やっとの思いでこのプロジェクトが実現したという経緯があります。
エンジニア、行政関係者、施工業者、製造メーカーなどあらゆる専門家が密に連携をとりながら、1200名以上の人々の努力が結集した今回のプロジェクト…… 構想から実現までの触りの話を聞いただけでもドラマチックですよね。
クリフト氏が選び抜いた布のロープ
会場では、動画、写真、資料による展示ももちろんですが、実際に凱旋門を包んだ2万5000平米の銀色のコーティングが施された青いポリプロピレン織物と3000メートルの赤いロープも合わせて展示しています。
布は、ブルー地にグレーの色味でアルミニウムが配合されていますが、化学物質を使っていないクリーンな素材が使用され、強風で布が擦れたとしても微粒子が出ないように工夫されています。
実際にプロジェクトを見た者は、さまざまな方向から光があたり、吹き抜ける風で布が揺れるたびに、「まるで凱旋門が生きているようだ」と振り返り話している姿が印象的でした。
最後に…
このプロジェクトは、 人工的な色の布で自然の風景が変わることや、見慣れた都会の風景が包むことで一変することから、作品設置の舞台となる場所の住民や政府官僚などからは、しばしば反対運動や「これは芸術か否か」といった論争になることもあります。
しかし、1960年代の構想からそれぞれのプロジェクトにおいて、構想から実現まで数10年がかかっており、それぞれにかかる巨額の費用に対しては、美術館をはじめ政府や企業などから一切の援助を受けずにクリストの手によるオリジナル・アート作品の販売でまかなっています。
華々しい実績やスケールはもちろん、実現までの高い目標を掲げて、それを達成する忍耐力と才能を垣間見ることで、私たちはそこから学ぶことができます。ふたりのプロジェクトに対する姿勢と努力から勇気がもらえる展覧会に足を運んでみてはいかがでしょうか。
取材・撮影・文:新麻記子
『クリストとジャンヌ=クロード “包まれた凱旋門”』
会期:2022年6月13日(月)〜2023年2月12日(日)
会場:21_21 DESIGN SIGHT
開館時間:10:00〜19:00(入場は18:30まで)
休館日:火、年末年始(12月27日〜1月3日)
料金:一般 1200円 / 大学生 800円 / 高校生 500円 / 中学生以下無料 ※ギャラリー3は入場無料
ホームページ:http://www.2121designsight.jp/program/C_JC/
画像ギャラリー
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アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。
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