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2022.7.28
44年ぶりの回顧展!『キース・ヴァン・ドンゲン展』がパナソニック汐留美術館にて開幕
20世紀前半のエコール・ド・パリ(※)の画家、キース・ヴァン・ドンゲン(1877〜1968年)を知っていますか? オランダに生まれ、20歳を過ぎてからパリへと移住。優美で艶やかな女性をモチーフとした絵画で人気を博し、濃密で強烈な色彩を特徴とするフォーヴィスムの画家として活躍します。
※20世紀のはじめにパリで制作活動をした外国人画家の総称。
目次
『キース・ヴァン・ドンゲン展―フォーヴィスムからレザネフォル』展示風景
そのドンゲンの44年ぶりの大規模な個展がパナソニック汐留美術館にてスタート。絵画やグラフィックなど計67点の作品にて、新印象派からフォーヴィスム、そしてレザネフォルと呼ばれる時代へのドンゲンの作風をたどっています。
パリへと渡ったドンゲン。新印象派からフォーヴィスムへ。
『キース・ヴァン・ドンゲン展―フォーヴィスムからレザネフォル』展示風景
展示はドンゲンがパリへ渡った頃の作品からはじまります。1899年にパリに移住したドンゲンは、数年間のうちに風刺雑誌や新聞の挿絵によって世に名を知られるようになります。そして1900年代のはじめから絵画を制作の中心とすると、分割した筆触を用い、純度の高い色彩を志向した新印象派への関心を深めていきました。
するとやがてフォーヴィスムを予感させる強烈な色彩へと変化し、色面もより大きくなって肖像画や裸婦、さらにパリジェンヌを象徴する女性たちを描いていきます。1901年に結婚した妻のグースが娘のドリーを抱きしめるすがたを描いた『私の子供とその母』も、空間を太い縁取りで強調し、色そのものを豊かな表現力として取り入れることに成功した作品でした。
社交界の人々と交流。華奢で細長くデフォルメされた女性像を描く。
『キース・ヴァン・ドンゲン展―フォーヴィスムからレザネフォル』展示風景
第一次世界大戦以前の数年の間にパリでの展覧会にて評価を得たドンゲンは、フランスだけでなく国外にも名声が広がり、大きなアパルトマンに移り住んで社交界の人々と交流を深めます。そして足繁く通った夜の社交場やブルジョワジーの中からモデルを選んで、優雅な着こなしをした女性や一糸纏わぬ女性の身体などの絵画を制作しました。
筆とパレットを手にした若い女性をモデルにした『楽しみ』も、社交界での祝祭的な雰囲気が伝わる作品です。8頭身はありそうな細身の女性が、大きなキャンバスを前にして立つすがたを背後から描いています。この華奢で細長くデフォルメされたしなやかな女性像こそ、ドンゲンが最も得意とし、絶大な人気を得た表現でもあるのです。
レザネフォルの時代に頂点へと達したドンゲンの名声。
『キース・ヴァン・ドンゲン展―フォーヴィスムからレザネフォル』展示風景
第一次世界大戦が終結すると、フランスでは自由の風が吹き、パリでは文化と祝祭に激しい興奮が広がるレザネフォル(狂乱の時代)と呼ばれる時代を迎えます。この頃のドンゲンは名声の頂点に達し、芸術界やブルジョワ階級を代表するエリートの肖像画や、上流階級が好んだ保養地、それにパリや周辺の街の景色を描きました。
また同じ時期に『キプリングの最も美しい物語』といった挿絵の仕事も手がけ、大きな成功を収めます。画家が心をひかれていたオリエンタリスム(東洋趣味)を投影させながらも、濃密な色彩を伴う絵画の表現とは異なり、まるで一筆書きのように簡略化されたシルエットも魅力です。
『ドーヴィルのノルマンディー・ホテル』とは、度々訪れたノルマンディー地方のドーヴィルのホテルを舞台とした作品です。ここではシャンデリアのあるゴージャスなサロンで着飾った客人たちがくつろぐようすを表しています。ドンゲンは海辺の情景や散歩、パーティー、また海水浴ビーチなど、ドーヴィルの風景を繰り返し取り上げました。
ドンゲンの絵画の魅力とは?鮮やかな色彩と画肌の豊かな質感を目に焼きつける。
『キース・ヴァン・ドンゲン展―フォーヴィスムからレザネフォル』展示風景
さてドンゲンの絵画で最も目に焼きつけておきたいのが、絵画の材質が与える効果、つまり画肌の質感です。激しい筆触にて描かれたドンゲンの絵画には、時に絵具が厚く塗られていて、例えば『女曲馬師』では、女性の身のつけたネックレスの部分の絵具を隆起させるなど、絵具そのものの質感を用いて巧みに表しています。
またいずれも華麗で官能性を訴えるような女性像でありながら、『婦人の肖像』や『緑のスカーフ』といった作品などには、モデルの瞳や視線の奥には内的な表情が滲みだしているようにも見えます。彼女らの絵画と向き合っていると、まるで対話しているような親密感さえ湧き起こるかもしれません。
国内外の美術館のコレクションや個人蔵の貴重な作品にて味わうドンゲンの魅力。これだけ充実しているにも関わらず、パナソニック汐留美術館での単独の開催です。東京以外への巡回はありません。お見逃しなきようにおすすめします。
『キース・ヴァン・ドンゲン展―フォーヴィスムからレザネフォル』 パナソニック汐留美術館
開催期間:2022年7月9日(土)~9月25日(日)
所在地:東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
アクセス:JR線新橋駅より徒歩約8分。東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩約6分。都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩約5分
開館時間:10:00~18:00
※8月5日(金)、9月2日(金)は20時まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:水曜日、8月12日~17日
料金:一般1000円、65歳以上900円、学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料
https://panasonic.co.jp/ew/museum/
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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