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2022.8.12

もし現代にサムライがいたら・・?!現代美術家・野口哲哉の個展へ行こう!

現代美術家の野口哲哉を知っていますか? 1980年に生まれた野口は、鎧兜を身につけた人間をモチーフに、樹脂やアクリル絵具を使って彫刻や絵画などを制作。全国各地の美術館で個展を開いてきたほか、海外ブランドとのコラボレーションを果たすなど幅広く活動しています。

『Talking Head』 2010年 『野口哲哉「this is not a samurai」』展示作品から。会場内の撮影もできます。

その野口の新作などを公開する展覧会が、東京・銀座のポーラ ミュージアム アネックスにてスタート。野口が作るサムライとはどのような作品なのでしょうか? その見どころと魅力をレポートします。

いにしえのサムライが現代へよみがえる?ジーパンをはいたサムライのすがた

『Talking Head』 2010年

まずは『Talking Head』からご紹介しましょう。グレーを基調とした甲冑に身を包んだサムライを象っていますが、頭上の変わり兜はわめき、それを見上げるようにして上目を向いています。それにしても左腕をくねらせて足につけ、右腕をだらんと垂らすような仕草、まるで普通に街で座っている現代の若者のように見えませんか? このように野口はいにしえのサムライをただそのまま表現しているわけではないのです。

『Grand Helm & Cheap Japanese』 2019年

『Grand Helm & Cheap Japanese』は兜こそ被っているものの、服は七分袖のTシャツ。それに今風のメガネをかけ、ヨレたジーパンを履きながら、うつろな表情を浮かべてしゃがみ込んでいます。考え事でもしているのでしょうか? カラフルな腕輪もチャームポイントと言えるかもしれません。

精巧な甲冑と多様な表情。人間の内面が浮かび上がる

『Small sweet passion 〜南北朝の花〜』 2018年

野口の作品の魅力としてまず挙げられるのが、とても精巧に象られた鎧や兜です。古びた風合いまで再現した甲冑はリアルそのもの。実際に野口は鎧兜の制作に際して、歴史的資料を参照するなど、綿密な考証を行っています。ただここで面白いのは、本来の鉄や漆などではなく、樹脂や化学繊維といった現代的な素材を使っていることです。そこに鎧兜は「こうあるべき」という原理に対する野口のアイロニーが垣間見えます。

『The gradation - 河津伊豆守祐邦像 - 』 2014年

そして何よりも目を引くのが、人間の感情や内面を見事に表していることです。サムライの顔の表情に注目してください。どこか挑戦的であったり、またぼんやりしていたり、途方に暮れていたりするなどさまざま。さらにくたびれたのか眠っていたり、重大なミスを犯したのか、手を額に当てて座り込んでいたりと、一人として同じ表情を見せていません。

『BIAS』 2019年

悪魔のようなデザインの兜を被った『BIAS』などは、両手を頭に抱えながら、自らの中に閉じこもるような仕草をしています。「あーだめだ…」などという声が聞こえてくるかのようです。

スマホを手にしたサムライ?アクリル絵画も面白い

『21st Century Light Series 〜 The Tap 〜』 2020年 高松市美術館蔵

『21st Century Light Series 〜 The Tap 〜』と名付けられた作品をご覧ください。暗がりの中、サムライが手にしているものといったら一体? どう見てもスマホにしか見えません。西洋の絵画において、例えばジョルジュ・ド・ラ・トゥールなど、ロウソクを手にした人物や聖人を描く作品がありますが、それをスマホとサムライに置き換えるようにして表現しています。

シャネルとのコラボも!サムライが送る愛のメッセージ

『THE MET』 2020年

最後にスタイリッシュとも言えるサムライに目を向けましょう。『THE MET』とはニューヨークのメトロポリタン美術館(通称MET)の紙袋をぶら下げる姿を表した作品です。実際にMETには金箔押の鎧兜が日本美術コーナーに展示されていますが、まるでサムライがバーゲンの帰り道を歩いているような光景が思い浮かぶのではないでしょうか。

『Clumsy heart』 2018年

右手を伸ばして壁にハートを描いている『Clumsy heart』は、4年前にポーラ ミュージアム アネックスにて個展を開いた際に制作された作品です。手にしているのはオルビスの口紅。かつて武将は辞世の句を柱に刻んで出陣したと言われますが、その言葉をハートとして表現しています。ぐっと手を伸ばしてハートを描く様子は真剣そのもの。愛のメッセージが刻まれています。

『シャネル侍着甲座像』 2009年

この他ではシャネル紋入りの甲冑をつけた『シャネル侍着甲座像』も見どころ。シャネルとサムライといった全く異なる文化を邂逅させ、新たなイメージを築き上げています。

『野口哲哉「this is not a samurai」』より展示作品

ポーラ ミュージアム アネックスでの『野口哲哉「this is not a samurai」』は、会期中無休にて9月11日まで開催中。入場は無料です。野口が現代に生み出したバーチャルなサムライを楽しんでみてください。

『野口哲哉「this is not a samurai」』 ポーラ ミュージアム アネックス
開催期間:2022年7月29日(金)~9月11日(日)
所在地:東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
アクセス:東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口すぐ。東京メトロ銀座線・丸の内線・日比谷線銀座駅A9番出口徒歩6分
開館時間:11:00~20:00 
 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:会期中無休
料金:無料
https://www.po-holdings.co.jp/m-annex/

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はろるど

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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