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2022.8.26

『プチ・パレ美術館展』の見どころとは?スイスから知られざる画家の名品が東京へ!

1968年、スイスのジュネーブの旧市街に開館したプチ・パレ美術館。事業で財を成したオスカー・ゲーズが収集したフランス近代絵画を中心としたコレクションで知られ、「芸術は国境のない世界共通の言語」という考えのもと、国内外の美術展にも積極的に作品を出展してきました。

スイスのジュネーブのプチ・バレ美術館。長く休館しているため、現在は一般に公開されていません。

同館はゲーズが没した1998年以降、現在に至るまで休館していますが、ゲーズの遺志は引き継がれ、ここ日本へ約30年ぶりに主要作品がやって来ています。SOMPO美術館で開催中の『印象派からエコール・ド・パリへ スイス プチ・パレ美術館展』の見どころをレポートします。

まず知りたい!『スイス プチ・パレ美術館展』の全体の流れとは?

左:オーギュスト・ルノワール『詩人アリス・ヴァリエール=メルツバッハの肖像』 1913年

最初に展覧会の全体の流れを抑えておきましょう。『スイス プチ・パレ美術館展』にて展示されているのは19世紀後半から20世紀初頭のフランスの絵画です。印象派、新印象派、ナビ派、フォーヴィスム、キュビスム、エコール・ド・パリという絵画の動向を時代を追って紹介。それぞれの特徴を全6章立てにて分かりやすく知ることができます。

右:アシール・ロージェ『窓辺』 1899年

またパリで華やかに展開した芸術運動は、一握りの巨匠だけではなく、数多くの画家たちによって支えられていました。よって今回の展示では、新しい絵画様式の先駆者や、枠に収まらない個性的な画家などの作品も紹介しています。カモワン、ブランシャール、メッツアンジェ、それにヴァルタ…。こうした知られざる画家の作品にも見るべき点が少なくないのです。

親交を深めた2人の画家、アンリ=エドモン・クロスとマクシミリアン・リュス

右:アンリ=エドモン・クロス『糸杉のノクチューン』 1896年

それではいくつかおすすめの画家をご紹介します。まずはともに新印象派の画家であるアンリ=エドモン・クロスとマクシミリアン・リュスです。クロスの『糸杉のノクチューン』は、木々と帆柱の垂直線を背景にして、女性たちの身振りがアラベスク模様を作り出している作品です。細長いタッチによる薄紫と青い色調が画面を支配し、幻想的な雰囲気を醸し出しています。それこそ神話の中の世界をのぞき込むかのようです。

マクシミリアン・リュス『フェイノールのムーズ川』 1909年

一方でリュスの『フェイノールのムーズ川』では、船が川面に浮かぶ光景をクロスと同じような細長いタッチを用いて描いていて、大きな空の色を映し出し、揺れ動くような水面の表現も魅力に溢れています。新印象派と呼ばれる名称は、パレットや画面上で直接色を混ぜず、細かなタッチを並べて置く絵画技法に由来していて、スーラやシニャック、それにともに親交を深めたクロスやリュスといった画家らが活躍しました。

大胆な筆遣いと燃え上がるような色彩。フォーヴィスムの画家たち

右:ルイ・ヴァルタ『マキシムにて』 1895年

大胆な筆遣いと鮮やかな色彩を特徴とするフォーヴィスムの画家にも見逃せない作品が少なくありません。フォーヴィスムの先駆者として活動したルイ・ヴァルタの『マキシムにて』とは、パリ8区にあったレストランを舞台に、グラスワインを前にテーブルにつく2人の女性を描いた作品です。黄色い刺繍のドレスや人々の集う背景などをうねるようなタッチにて表現しています。

左:アンリ・マンギャン『室内の裸婦』 1905年

またセザンヌに影響されつつも、燃え上がるような色彩を好んだアンリ・マンギャンの『室内の裸婦』も優れた作品ではないでしょうか。画家のアトリエの中、半裸のモデルが右手を顔にやりながらうつむくように腰掛けていて、後ろの窓から差し込む光が部屋全体を明るく照らし出しています。布地や絨毯で飾り立てられたモチーフが、女性の姿を際立たせているのも目をひきました。

スイスへ行っても見られない!知られざる画家の魅力を発見する

右:シュザンヌ・ヴァラドン『暴かれた未来、あるいはカード占いの女』 1912年

最後に「ポスト印象派とエコール・ド・パリ」のコーナーからとびきりの名品をピックアップしましょう。まずはシュザンヌ・ヴァラドンの『暴かれた未来、あるいはカード占いの女』です。ソファに寝そべり、カードを見やる裸婦を画面中央へ大胆に配置して描いていますが、身体的特徴を一切美化することなく、ありのままに表現しています。ヴァラドンは当初、ルノワールやドガのモデルを務めていましたが、自らも絵を描くと、1894年には国民美術協会に初めて女性として認められるなどして評価を得ました。よってこの絵画にもモデルとしての経験が反映されているかもしれません。

左:フェリックス・ヴァロットン『身繕い』 1911年

もう1点が当初はナビ派に属しながら、後に古典主義へと立ち返ったフェリックス・ヴァロットンの作品です。タイトルは『身繕い』。白い刺繍のあるシュミーズを着た女性が、黄色いバラの花束の飾られたテーブルに向き合い、手鏡をのぞき込むすがたが描かれています。白、緑、黄色の色のコントラストも鮮やかですが、まるで女性のくつろいだプライベートな室内空間へと立ち入っているような気持ちにさせられるかもしれません。

右:ジャン・メッツァンジェ『スフィンクス』 1920年

今回の展覧会の作品数は全65点。実に画家の数も38名にも及んでいて、ここで取り上げた作品はごく一部に過ぎません。知られざる画家の魅力を発見する展覧会と呼んでも過言ではない『スイス プチ・パレ美術館展』。長らく休館し、一般に公開されていないため、たとえスイスへ行っても鑑賞できないフランス近代絵画のコレクションにて、お気に入りの画家を見つけてください。

東京・西新宿のSOMPO美術館。国内5会場を巡回中の『プチ・パレ美術館展』の最後の開催地となります。

『印象派からエコール・ド・パリへ スイス プチ・パレ美術館展』 SOMPO美術館
開催期間:2022年7月13日(水)~10月10日(月)
所在地:東京都新宿区西新宿1-26-1
アクセス:JR線新宿駅西口から徒歩5分。東京メトロ新宿駅から徒歩5分。東京メトロ西新宿駅C13出口から徒歩6分
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日。※但し7月18日、9月19日、10月10日は開館
観覧料:一般1600(1500)円、大学生1100(1000)円、高校生以下無料
※()内は電子チケット「アソビュー!」での事前購入券
https://www.sompo-museum.org

【写真11枚】『プチ・パレ美術館展』の見どころとは?スイスから知られざる画家の名品が東京へ! を詳しく見る

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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