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EVENT

2022.8.30

閉幕間近!伝説の作家の創作活動をたどる「没後40年 山中信夫☆回顧展」

皆さん、山中信夫(やまなか・のぶお)を知っていますか?

美術という枠組みそのものについて再考し、斬新な活動をつづけたにもかかわらず、34歳の若さで急逝した伝説のアーティストです。

そんな山中氏の没後40年から検証する「没後40年 ピンホールの魔術師 山中信夫☆回顧展(リマスター)」が栃木県立美術館にて開催されています。

34歳の若さで急逝した伝説のアーティスト・山中信夫とは?

山中信夫は、1971年に《川を写したフィルムを川に映す》という衝撃的な35mmフィルム映像作品で鮮烈なデビューを飾りながらも、1982年に滞在先のニューヨークで34歳の若さで急逝した伝説のアーティストです。

美術評論家の東野芳明、針生一郎、早見堯、それぞれのコミッションによって、第11回東京国際版画ビエンナーレ(1979年)、第15回サンパウロ・ビエンナーレ(1979年)、第12回パリ・ビエンナーレ(1982年)に現地制作のサイト・スペシフィックな大作で参加するなど国際的にも高い評価を得ながらも、その活動期間は12年に満たないものでした。

しかし、ピンホール(針穴)に撮影しながら同時に映写する映像装置という革命的な解釈を施して展開された一連の作品群は、絵画が残した問題を解決するメディアとしての映像と写真の相乗を超え、自己と世界との関係を光学的厳密さにおいて対峙させる哲学的境地へと到達したものであったと歴史化することができるでしょう。

写真装置の原点であるピンホールカメラとは?

「ピンホールカメラ」…その言葉に聞き覚えがある方もいらっしゃるのでは?! ピンホールカメラは写真の起源とも言われており、写真レンズを使わない針穴を利用したカメラで、日本では「針穴写真機」と呼ばれることもあります。

手に入りやすい箱や缶などを利用し、構造が簡単で容易に製作できるので、理科の教材や工作の題材としてもよく使われます。スマホやデジカメが当たり前になっている今、アナログな体験ができる良い機会なのでぜひ制作してみてくださいね。

そんなピンホールカメラで撮影した写真は、ちょっとぼやけていてエモいのが特徴。レンズのカメラでは撮れない光の柔らかさやゆったりと流れる時間が表現され、ピンホール写真ならではの魅力に誰しもが引き込まれてしまうことでしょう。

創作現場のライブ感が味わえる展示構成

本展では、山中信夫の約150点の現存する代表作のみならず、貴重なアーカイブ資料を援用しながら、コンセプチュアルな映像とまばゆいピンホール写真による光の遊戯性を再確認するとともに、戦後の視覚芸術に重要な足跡を残した現代美術のレジェンドの活動の展開を辿ります。

会場では、今は亡き山中氏が懸命に制作に取り組んでいる制作風景や、どのように大型作品が展示されたのかがわかる展示風景も展示されており、その場所にいたのではないかと錯覚するほどのライブ感とともに、山中氏の創作の息づかいが聞こえてきそうな創作現場を体感することができます。

映像から写真を表現媒体として選択し、絵画に遺された課題と芸術自体の可能性と向き合い、一貫して“見ること自体を問う”ことを追い求めた、視覚芸術家の表現を至近距離で味わってみてくださいね。

最後に…

“見ること自体を問う”ということをテーマにおいているのは、現代美術の巨匠と謳われているゲルハルト・リヒターと同様であり、互いに写真というメディアが一つのキーポイントになっています。

山中信夫は写真家という印象を受けてしまいますが、その深層には現代アートの要素が詰まっています。そういった点でも映像や写真アートのファンはもちろん、現代アートのファンもぜひ足を運んでみてほしい展覧会です。

開催最終日の9月4日(日)には山中信夫自身や彼が手がけた作品の背景を詳しく知れるギャラリー・トークが開催されるだけでなく、本展覧会サイトには本展覧会キュレーターの山本和弘氏や写真家の鈴木理策さんらが執筆した「参考エッセイ」が掲載されていますので、そちらも合わせて鑑賞の手助けとしてチェックしてみてくださいね。


取材・撮影・文:新 麻記子

「没後40年 ピンホールの魔術師 山中信夫☆回顧展(リマスター)」
会期:2022年7月16日(土)〜9月4日(日) 
会場:栃木県立美術館
宇都宮市桜4-2-7
観覧料金:一般 800円、大高生 500円、中学生以下無料
休館日:月曜日 
開館時間:09:30〜17:00 (入館は16時30分まで)
公式サイト:http://www.art.pref.tochigi.lg.jp/

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新 麻記子

新 麻記子

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アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。

アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。

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