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EVENT

2022.8.31

豊かな自然と街の跡地でアートを体験『リボーンアートフェスティバル』へ行こう!注目作品は?

「Reborn-Art=人が生きる術」をキーワードに、2017年に初めて開催された『リボーンアートフェスティバル』(以下、RAF)。東日本大震災の被災地である宮城県石巻市と牡鹿半島を中心に、アート、音楽、食を組み合わせた新しい総合芸術祭として話題を集めました。

『リボーンアートフェスティバル 2021-22』のキービジュアルである小谷元彦の『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)』

ホワイトシェルビーチへの小径から望む名和晃平の『White Deer』

震災から10年を迎えた昨年、3回目となる前期が開幕し、今年8月20日から後期がスタート。豊かな自然を舞台に、地域の人々と作り上げたさまざまな展示やイベントが行われています。ここでは今期のRAFの5つのエリアから、石巻中心市街地、復興祈念公園周辺、渡波、桃浦・荻浜の4つの会場を取り上げ、新作を中心に見どころを紹介します。

まずは歩いて巡りたい!石巻中心市街地エリア

RAFの石巻中心市街地インフォメーションが入る旧観慶丸商店。

まずRAFの起点となるのが、石巻駅や市役所にほど近く、商店や飲食店が立ち並ぶ石巻中心市街地エリアです。

旧鮮魚店まるか

旧プロショップまるか。黄色い案内表示がRAFの目印です。

約半世紀近く営業を続けるも、今年3月に閉店した鮮魚店の旧プロショップまるかでは、小説家の朝吹真理子と美術家の弓指寛治が共同にて『スウィミング・タウン』を制作。石巻の人々から聞いた話や体験などを丹念にリサーチし、絵画やテキスト、そしてインスタレーションとして展開しています。

旧プロショップまるかでの展示風景

まるかは震災の津波にて1階天井まで浸水するなど大きな被害を受けましたが、中を巡りながら作品を見ていくと、石巻を取り巻く歴史や物語を追体験しているような気持ちにさせられました。

旧サウナ・銭湯跡

笹岡由梨子の『パンジー』展示風景

かつての銭湯やサウナの跡地も会場です。旧つるの湯では笹岡由梨子が家族をテーマとした『パンジー』を展示し、生花と顔面をモチーフにした人形たちが生命賛歌を合唱しています。ノスタルジックなムードが漂っていていますが、石巻の人々への応援歌ともいえるかもしれません。

旧サウナ石巻での「アナルコ・アナキズムーまつろわぬ生命」展示風景

旧サウナ石巻では、アジアのアーティストやキュレーターらの専門家ネットワーク、プロダクション・ゾミアのキュレーションにより、主に東南アジアの6名のアーティストの映像作品などが展示され、アートとアニミズムの関係を探るとともに、「いかに自然と絡まり合いながら生きるのか」という問いかけが提示されています。

石巻の名の由来とは?梅田哲也の水のインスタレーション『巻巻石』

梅田哲也の『巻巻石』展示風景

石巻中心市街地エリアでおすすめしたいのが、梅田哲也の『巻巻石』です。場所は北上川沿いの杉山家の納屋。津波で一度水没してしまいましたが、腐った木材も再利用して展示を組み立て、重力に逆らって上昇する水の循環を用いた音と視覚のインスタレーションを公開しています。

梅田哲也の『巻巻石』展示風景

古い納屋の空間を水が行き来しながら、まるで王冠のように造形化する光景も美しいのではないでしょうか。梅田は北上川の河岸近くの島にあり、石の周りを巻きながら水が流れるという、石巻の名の由来となった「巻石」に着想を得て作品を制作しました。

復興祈念公園エリアの展示が充実!

復興祈念公園周辺エリアから日本製紙旧社宅会場

それでは復興祈念公園周辺エリアへと移動しましょう。海に面した南浜、門脇地区は、石巻で最も津波の被害を受けた一帯ですが、初めて今期のRAFにてメイン会場の1つとなりました。そして展示は公園内だけでなく、河口広場や公園北側の旧社宅や土蔵などにも点在しています。

さわひらき『幻想考 The Butterfly Dream』

さわひらき『幻想考 The Butterfly Dream』展示風景

日本製紙旧社宅のさわひらきによるインスタレーションが見応え十分です。玄関から廊下、居間といった建物の中をすべて用いて、オブジェや映像を展示し、現実とも幻想ともつかない独自のイマジネーションに満ちた空間を演出しています。

さわひらき『幻想考 The Butterfly Dream』展示風景

映像に登場する多くの時計を見遣りながら、時を刻む音などに耳を傾けていると、ついつい時間を忘れて見入ってしまうこと間違いありません。

加藤泉『無題』

加藤泉『無題』展示風景。背後に見えるのが震災遺構である「本間家の蔵」

本間家の蔵とその周辺では、加藤泉が石巻市内の採石場で見立てた稲井石を用いたオブジェを制作し、津波でも流されずに残った土蔵の内外にて作品を公開しています。

阿部家の石蔵での風間サチコの展示

阿部家の石蔵での風間サチコの展示風景

また阿部家の石蔵では風間サチコが「新しい山水」をテーマに、松島や石巻の景色をモチーフとしたアルミ板のドローイングや木版画などを展示しています。

風間サチコ『ニュー松島』展示風景

いずれも現在のリアルな光景ではなく、過去を踏まえ、さらには未来への変化も取り込むなど、時間を行き来するようなイメージの展開も魅力です。

石巻南浜津波復興祈念公園と弓指寛治

石巻南浜津波復興祈念公園からみやぎ東日本大震災津波伝承館を眺める

一方で復興祈念公園の中のこころの森ガーデンカフェとみやぎ東日本大震災津波伝承館を舞台に作品を制作したのが、旧鮮魚店のまるかへも出展した弓指寛治です。

弓指寛治『半透明な森』展示風景

公園の植樹に参加した弓指は、伝承館のガラス張りの壁を背景に、公園の未来を想像した『半透明な森』と題する景色を描きました。今でこそ木はまばらですが、いずれはリスなどの動物たちも集うような森が形成されるのかもしれません。

『石巻タワー』から石巻の街と海を眺める。北上川河口広場から防潮堤をのぼろう

川俣正『石巻タワー』展示風景

世界を舞台に活躍する現代美術家の川俣正が、公園のそばの南浜マリーナ隣の空き地にRAFの新たなモニュメントになる木造の塔を築きました。それが高さ7.5メートル、らせん状のスロープを備えた『石巻タワー』です。

川俣正『石巻タワー』から北上川の河口方向を眺める

スロープを上がると公園はもとより、防潮堤の向こうの海を望めますが、川俣は津波で流されたものに対し、立ち上がるものが欲しいとしてタワーを築きました。そして夜には太陽光発電により、石巻の街へと向かって明かりが灯ります。

保良雄『This Ground is still alive』

保良雄『This Ground is still alive』展示風景

この『石巻タワー』のすぐ横にあるのが、保良雄の『This Ground is still alive』です。保良は砂利が敷き詰められた硬い地面をつるはしで掘り起こし、牡鹿半島の森から持ち込んだ腐葉土や、酪農家からもらった堆肥などを混ぜ込んで畑を構築すると、約40種類もの野菜を育てました。一度は多くのものが失われた土地ながらも、新たな生命を育もうとする、保良の再生へのメッセージが伝わるのではないでしょうか。

SIDE CORE『タワリング・バカンシー』

SIDE CORE『タワリング・バカンシー』展示風景

過去2回のRAFにも参加し、ストリートカルチャーの視点から制作を続けてきたSIDE COREは、復興祈念公園周辺エリアで最も海に近い防潮堤横の北上川河口広場に作品を公開しました。

SIDE CORE『タワリング・バカンシー』展示風景

それが工事用の足場に囲まれた『タワリング・バカンシー』です。中では東京や福島、それに石巻などで採取した音が楽器のようなスピーカーから奏でられ、複雑に交差しながら響き合うサウンド・インスタレーションが展開しています。

SIDE CORE『タワリング・バカンシー』の奥の防潮堤の上からの眺め

この作品の先にある防潮堤にも登ってみてください。するとこれまでほとんど聞こえなかった波の音とともに、同じく街からはなかなか見えなかった海が広がる光景を目にすることができます。仮設の工事現場に渦巻く各地の音の渦と防潮堤の上で聞こえる風や波の音。そうした対比も印象に残るのではないでしょうか。

小谷元彦のキービジュアル作品も見逃せない!渡波エリア

石巻駅から2駅先、牡鹿半島の付け根に位置する渡波(わたのは)エリアへと足を伸ばしてみましょう。ここで舞台となるのが、駅に近い住宅街の中にある旧水産加工場です。

小谷元彦『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)』

小谷元彦『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)』展示風景

まず小谷元彦は今期のRAFのキービジュアルとなった『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)』を制作。波の上のサーフボードに乗りながら、バランスをとるように両手を大きく広げ、背中に羽根をつけた水着姿の天使を公開しています。

小谷元彦『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)』展示風景

当初は体育館にて展示が予定されていたため、小谷は災害時に避難所などへ救援にやってきた匿名の人たちのすがたをこの像に重ねるように表現しました。実に高さは6メートル。鏡の顔面や光り輝く幾何学形態の頭部などもユニークですが、今にもサーフボードに乗りながら飛んでいくような躍動感も感じられました。

保良雄『フルーティング ボディ』

保良雄『フルーティング ボディ』展示風景

一方で加工場内の広いスペースを利用したのが、復興祈念公園横の空き地でも作品を公開していた保良雄です。ここでは人工物、自然物、有機物、無機物が混交する『フルーティング ボディ』と題した大掛かりなインスタレーションを展示しています。

保良雄『フルーティング ボディ』展示風景

渡波の海水が広がる床から岩塩、それに鯨の骨や流木などが横たわる中、ランプの光に誘われながら歩いて行くと、古代の遺跡へと彷徨っているような感覚に誘われるかもしれません。渡波エリアは2点のみの展示ですが、ともに見応え十分でした。

牡鹿半島の桃浦・荻浜エリアへ。

藤本壮介『雲のパビリオン』

藤本壮介『雲のパビリオン』展示風景

最後は牡鹿半島の自然と融合した作品をご紹介しましょう。石巻の市街地より車で30分の荻浜エリアの起点となるのは牡鹿ビレッジ広場。ここでは建築家の藤本壮介が、2021年のパビリオン・トウキョウでもお披露目された『雲のパビリオン』を展示しています。

ホワイトシェルビーチの小径を歩く

その『雲のパビリオン』から桃浦・荻浜インフォメーションを抜け、海のそばのホワイトシェルビーチの小径にて展開するのが、小林武史のサウンド・インスタレーション『CIRCLE of MUSIC in the LIFE #2』です。青い海を眺めつつ、緑に覆われた小道を歩いていると、動物の鳴き声や自然の音などが耳に飛び込んできます。

自然に溶け込む名和晃平の『White Deer』

名和晃平『White Deer(Oshika)』展示風景

そしてホワイトシェルビーチでは、RAFで最も有名な常設作品である名和晃平の『White Deer』が海を背にして立っています。広い空と青い海に映え、神々しいまでに美しいすがたは誰もが心を引かれることでしょう。

伊勢谷友介『参拝』

伊勢谷友介『参拝』展示風景

またこの側の洞窟では伊勢谷友介が、体験型のインスタレーションである『参拝』を展示しています。一枚のTシャツを掲げ、洞窟の入口に立つと、暗闇の向こうには何が見えるでしょうか?是非とも現地で体感してほしい作品です。

アートや音楽、それに食。『リボーンアートフェスティバル 2021-22』を楽しもう!

渡邊慎二郎『FRESH』展示風景 ※プレナミヤギ会場

RAFのおすすめの巡り方は車をメインに移動することです。石巻中心市街地、復興祈念公園周辺、および渡波エリアは巡回バスも運行されていますが、桃浦・荻浜をはじめ、もう1つの会場である牡鹿半島南端の鮎川エリアには車がないとほぼ移動できません。またオフィシャルのバスツアーに参加しても効率的に作品を巡ることができます。

石巻市震災遺構門脇小学校

1日でも多くの作品を見られますが、やはり宿泊してゆっくり楽しみたいところ。ここでご紹介しきれなかった作品はもとより、石巻の街や豊かな自然、それに震災の遺構など見るべきスポットは少なくありません。なおパスポートは会期中、何回でもアート作品の鑑賞が可能です。

名和晃平『White Deer(Oshika)』から石巻の海を眺める

またRAFでは音楽や食も重要な要素です。会期中には音楽ライブも行われるほか、リボーンアート・ダイニングもオープン。石巻の食文化を盛り込んだメニューが提供されるほか、全国の有名シェフによるイベントも行われます。

10月2日までの開催中の『RAF 2021-22』。アートや音楽、それに食を通し、石巻や牡鹿半島の地だからこそ得られるスペシャルな体験を楽しんでください。

『リボーンアートフェスティバル 2021-22』詳細情報

『リボーンアートフェスティバル 2021-22』
開催地域:宮城県石巻市街地(石巻中心市街地、復興祈念公園周辺、渡波)、牡鹿半島(桃浦・荻浜、鮎川)
開催期間:2022年8月20日(土)~10月2日(日)
開催時間:10:00〜17:00(石巻市街地)、10:00〜16:00(牡鹿半島)
 ※土日祝日の牡鹿半島会場は17:00まで
休祭日: 9月7日(水)、9月14日(水)
料金:一般3500円、大学・高校生・専門学生2500円、宮城県民2000円、中学生以下無料
 ※リボーンアート・パスポート
https://www.reborn-art-fes.jp

【写真34枚】豊かな自然と街の跡地でアートを体験『リボーンアートフェスティバル』へ行こう!注目作品は? を詳しく見る

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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