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2022.9.19

廃棄物のアートでスラムを撲滅する!気鋭のアーティスト・長坂真護の壮大なプロジェクトとは?

電子機器の廃棄物を用いて作品を制作し、スラム街再生プロジェクトを進めるアーティスト、長坂真護(ながさか まご。1984年生まれ)。2017年にガーナのスラム街を訪れ、先進国が捨てた電子機器を燃やして生計を立てる若者と出会うと、以降、廃棄物で作品を制作し、その売上を現地の人々に還元する活動を続けてきました。

『Proud of Ghana』(2022年) ガーナの国旗に包まれるアグボグブロシーの少女。その眼差しに長坂はガーナの誇りを感じるとして、スラム撲滅を達成するまで歩みをやめないことを誓いました。

その長坂の自身初となる美術館の個展が、上野の森美術館にてスタート。廃棄物を用いた約200点のアート作品とともに、長坂のこれまでの足跡と未来へ向けた取り組みを紹介しています。

『真実の湖 II』(2019年)の横に立つ長坂真護。プレス内覧会時に撮影。

路上の絵描き時代から、ガーナのスラム街・アグボグブロシーとの出会い

『I am Painter』(2006年)の手前に並ぶ学生時代の絵本・スケッチ

2007年、23歳の時にアパレル会社を起業するも、わずか1年で倒産し、多くの負債を抱えた長坂。それをきっかけに新宿の路上で絵を描き続けると、世界16カ国を周りながらギャラリーへ売り込みを続けます。そして2015年、31歳にして中国・上海のギャラリーで初めて個展を開きました。

『無精卵を被る女』(2015年)。会場では最初に「ガーナ」シリーズの前に描かれた作品などが紹介されています。

世界最大級の電子廃棄物の墓場と言われた、ガーナのスラム街のアグボグブロシーを知ったのは翌年のことです。ゴミの山の前でぽつんと佇む子どもの写真を経済誌で見たことが、長坂の運命のターニングポイントとなりました。

『長坂真護展』会場内映像より。元々、湿地帯だったアグボグブロシーには先進国から持ち込まれた60トンもの違法廃棄物が毎年堆積していました。

2017年に単身でアグボグブロシーへ赴くと、東京ドーム30個分を超えるスラム街で目にしたゴミの荒野に強い衝撃を受けます。スラムでは住民らが先進国から持ち込まれた電子機器の廃品を燃やして金属を売り、わずか500円ほどの日銭を稼いでいたのです。しかもガスマスクをつけることなく、有害物質に蝕まれて30代で亡くなる人もいるなど、劣悪な環境に置かれていました。

スラム街の廃棄物を利用して絵を描く。「ガーナ」シリーズの誕生

『Plastic Boy』(2018年)

アートの力で不条理な真実を先進国の人々に伝えようと決意した長坂。それではどのような活動に取り組んでいったのでしょうか。それが自身が「ラブレター」と呼ぶ現地の廃棄物を利用して絵を描き続けることでした。

『conformit』(2021年)

ゲーム機のコントローラーやテレビのリモコン、またはパソコンのマウスやキーボードといったゴミをキャンバスに貼り付けて油絵を施します。そうして完成したのが「ガーナ」シリーズです。

『Ghana’s son』(2018年)

2018年に東京の銀座で行われた「美術は人を救うためにある、ガーナのスラム街を訪れて」展にて、スラム街の子どもをモチーフに描いた『Ghana’s son』が1500万円という高値で売却されます。これを機に1000個以上のガスマスクを現地へ届けると、完全無料の私立学校「MAGO Art & Study」も設立します。アートがガーナの人々の暮らしを変えていくのです。

絵を売り収益をあげ、スラムの人々に還元する。「持続可能な資本主義」への取り組み

『Sustainable capitalism』(2022年)

長坂が提唱するのは「サスティナブル・キャピタリズム」、すなわち「持続可能な資本主義」です。現代の消費社会や資本主義をやみくもに否定するのではなく、描けば描くほどスラムから廃棄物が減り、収益を上げれば上がるほど、スラムの人々へと還元される新しいシステムを構築しようとします。

『世界平和のワクチン』(2018年)

そして2019年にはスラム街に新たな経済、社会を創出するため「MAGO E-Waste Museum」を設立。その経緯を含めた自身の活動を伝えるドキュメンタリー映画『Still A Black Star』の製作費を募り、クラウドファンディングで3000万円を超える資金を集めるなど活動の幅を広げていきました。

手前は『質量保存の法則』(2020年)

また現地の若者が描いた絵を先進国で販売し、売上の一部を直接本人に渡る「スーパースターズプロジェクト」も始動させるなど、スラムの人々の生活を支援するための取り組みにも邁進します。そして長坂も毎年、約600点の作品を制作し、昨年は8億円の売上を記録しました。

スローガンは#スラム撲滅!! 長坂の壮大なプロジェクトとは?

手前は『I’m Princess』(2022年)

コロナ禍の中、2021年に大きなニュースが飛び込んできます。アグボグブロシーが一掃プロジェクトによって消失し、住人たちは生活の場や仕事を失っただけでなく、長坂のつくったミュージアムや学校も壊されてしまうのです。

『オスマンの家』(2022年)

しかしここで諦めるわけにはいきません。同年末、ガーナを訪問すると、アグボグブロシーに近い場所へ文化施設「MAGO GALLERY Agbogbloshie」を設立し、さらにスラム街の失業者を雇用するためのリサイクル工場を築きます。そして2022年には粉砕プラスチックによるMAGOブロックが作られて什器に採用されたほか、オリーブやモリンガなどを主軸とする農業事業も展開するのです。

『相対性理論』(2022年) 長坂が「お金を稼ぐアート」と呼ぶ作品。鑑賞者は外のチューブにコインを入れることができて、それも作品の一部となります。

現在のガーナ人の雇用は10名。しかし2025年までにはリサイクル事業と農業に加え、EVの事業を展開し、100名の雇用を目指すとしています。そして2030年には100億円規模の工場を建て、アグボグブロシーにて事実上全世帯からとなる1万人の雇用を計画しているのです。

ミリーちゃんアニメションプロジェクトから。世界を救うために生まれたミリーちゃんは長坂が手がけるアニメの主人公です。

ガーナのスラムをなくし、すべての人々に安定した生活と希望を与えようとする長坂の活動はとどまることをしりません。今回の展示では作品のオンライン販売も行われ、売上や入場料の一部が長坂の目指す工場建設や農地の取得等の支援に充てられます。

『長坂真護展 Still A “BLACK” STAR Supported by なんぼや』展示風景

廃棄物アートの創作世界へと向き合うとともに、#スラム撲滅!!に挑む長坂のプロジェクトにあなたも参加してみてください。

展覧会概要

『長坂真護展 Still A “BLACK” STAR Supported by なんぼや』 上野の森美術館
開催期間:2022年9月10日(土)~11月6日(日)
所在地:東京都台東区上野公園1-2
アクセス:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ・京成電鉄上野駅より徒歩5分
開館時間:10:00~17:00
 ※入館は閉館の30分前まで
会期中無休
料金:一般1400円、高校・大学生・専門学生1000円、小・中学生600円
https://www.ueno-mori.org
https://www.mago-exhibit.jp/

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はろるど

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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