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LIFE

2024.6.13

“ごみの島” の漂着物アーティスト 小宮翔 ときの流れを愛おしむランプシェード

大量に山積みされたごみ。ここは海岸である。
我々が海水浴に行くようなキレイなビーチなどは「人工的」なのだと、この島に来ると強く感じる。

海岸に積み重なるごみ

ハングルでラベリングされたペットボトルや、中国語が書かれたポリタンク。もちろん日本語で書かれたものもあるが、ともかくその一つ一つが長い旅を終えてこの島の海岸に辿り着いたことが分かる。
彼らのそんな旅路を愛おしみ、アート作品として新たな物語を始めさせるアーティストを紹介する。


“ごみの島”の漂着物アーティスト

長崎県対馬島は日本で最も漂着ごみが多い“ごみの島”である。年間3200万L、お風呂16万杯に相当する量の漂着物が流れ着く。

こうした漂着ごみの引き起こす問題は、処理コストを負担する自治体の経済的な疲弊や、マイクロプラスチック問題など多岐に渡るが、ともかくこの美しい自然景観と、人間の経済活動の暗部たる大量の漂着ごみとのコントラストには、同じ経済活動をする人間として胸が詰まる思いになる。
アートで海を救う!漂着ごみ問題に挑む『Ocean Good Art』プロジェクト
そんなごみの島に生まれて、ごみまみれの海岸を歩きまわり、愛おしそうにごみを拾い集めてはそれらに新しい命を吹き込んでいる男がいる。小宮翔というアーティストだ。

小宮翔対馬島の漂着物アーティスト 小宮翔

交通事故がもたらした絶望と、創作活動のはじまり

対馬市佐護区には日本の最北西端を示す碑が立っている。つまり、ここは文字通り日本の最果ての集落である。この佐護に生まれた小宮翔は、ほかのみんなと同じように幼少期を小さな共同体のなかで過ごし、ほかのみんなと同じように自然の恵みと脅威を知り、ほかのみんなと同じように年頃になったら進学のために島を離れ都会で暮らしはじめる。
ほかのみんなと少し違ったのは、都会で交通事故にあってからだ。

小宮翔の昔の写真昔の写真。家族や、自然を愛する優しい少年だった。

専門学校を卒業後、福岡で歯科技工士として働いていた小宮はある日、自転車にのっていたところを車にはねられた。一命はとりとめたものの、脳に障害を残し、幻視や幻聴に悩まされるようになった。

ミクロン単位を扱う歯科技工士という仕事をこなすにあたって、幻覚症状はその集中力を削ぐには充分だった。退職を余儀なくされた彼は、都会のマンションの一室で暗黒の時代を過ごす。

幾度となくビルの屋上まで登っては最後の一歩を踏み出そうとして、その直前で、向かいのマンションの生活の灯りをみて、温かい暮らしをみて、思いとどまった。

状況を知った家族が彼を対馬に連れ帰り、心の傷が癒えたころから、彼の創作活動がはじまった。

作家とアート作品が共有する“再生”のストーリー

ごみがごみと呼ばれるようになるのは、つまりその仕事を終えたからで、ごみと呼ばれる前は必ずどこかで誰かのため働いていたはずだ。

何らかの理由でその役割から外されたモノたちが海に放り出されて、気づいたら漂着ごみと呼ばれるものになる。ハングルだの、中国語だの、もちろん日本語もあるし、もはやどこの国のものかもわからない文字が刻まれていることすらある漂着ごみの中でも、ガス缶は特に彼のお気に入りだ。これを見つけた日には小躍りするくらい喜んでアトリエへ帰っていく。

漂着物を探す小宮翔海岸で漂着物を探す小宮翔

小宮が拾ったごみを撫でているときに何を思っているかはわからないが、彼はそれらのごみに刻まれた傷や汚れを大切にする。傷を必要以上に隠すことはしないけれど、これ以上傷が開かないようにコーティングしてあげて、新しい仕事に必要な部分は徹底的に磨き上げていく。

制作風景

こうしてできたランプシェードたちは、そのひとつひとつがすべて紛れもなく世界でただ一つの作品だ。幸運にも対馬に流れ着いて、また幸運にも小宮翔に見つけてもらえたごみだけがこうして第二の人生を与えられるので、もちろん量産もできない。

彼は自分の工房や友達のすみかを照らすためにこの作品を作っていて、どこかで噂を聞きつけてやってきた訪問者がどうしようもなく惚れ込んだとき、嬉しさと、少しの寂しさとともにこの作品を送り出す。

そうして、少しだけ暗くなった自分の工房を照らすために、またごみだらけの海岸にくりだしていく。

小宮翔 海ごみから生まれたランプシェード|イロハニアートSTORE

小宮翔小宮翔とランプシェード

小宮は、自分の人生は三度目だという。車にはねられたとき、マンションの屋上、そのとき終わっていたはずの人生が紙一重でつながって今の自分がある。それで、美味しいものを食べたときとか、気持ちいい春風をあびたときとか、自分の作品を気に入ってくれるひとと出会ったときとか、そんなときに、目を瞑って、ああ、やっぱり生きていて良かったなと思う。だから、傷だらけの人生でも自分は運が良いという。

彼の幸運が、彼の人生のようなごみ作品の灯りと共にどこかに降り注ぎますように。

【写真6枚】“ごみの島” の漂着物アーティスト 小宮翔 ときの流れを愛おしむランプシェード を詳しく見る
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イロハニアート編集部員が自らおススメする国内外で活躍しているアーティストの魅力をコラムでご紹介!
ご紹介したアート作品はストアからご購入が可能です。

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