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2023.4.17
不思議な世界観と、独自のモノクローム線画。絵本作家・エドワード・ゴーリーの回顧展
不思議な世界観と、独自のモノクローム線画で世界中に熱狂的なファンを持つ絵本作家エドワード・ゴーリーの回顧展「エドワード・ゴーリーを巡る旅」が渋谷区立松濤美術館で2023年6月11日まで開催されています。
ゴーリーの記念館である「エドワード・ゴーリー ハウス」で開催されていた企画展から、「子供」「不思議な生き物」「舞台芸術」など、彼の芸術を考える上で重要なテーマを軸に、再構成をした250点の作品でゴーリーの人生を振り返ります。
目次
エドワード・ゴーリー『うろんな客』 原画 1957年 ペン、インク、紙 ©2022 The Edward Gorey Charitable Trust
エドワード・ゴーリーとは?
1925年にシカゴで生まれたゴーリーは、20世紀前半のアメリカで早熟な子ども時代を過ごし、兵役を経てハーバード大学でフランス文学を専攻。1950年代からはニューヨークに住み、出版社でブックデザインなどを手がけます。
一方、振り付け師ジョージ・バランシン率いるモダンバレエや、映画などの文化に熱狂します。幼少期から読書家でもあり、19世紀のイギリス文学から源氏物語まで乱読し、大きな影響を受けていました。
作家として独立した後は、自身がテキストとイラストの両方を手がけた主著(Primary Books)以外にも、愛好していた文学やバレエ、演劇など、多数の挿絵や、演劇のポスター、舞台美術なども手がけ、多彩な才能を発揮しました。
後年は、ニューヨークを離れ、マサチューセッツ州のケープコッドにある通称「エレファント・ハウス」に移り住み、亡くなる2000年まで活動を続けました。
この終の棲家は、「エドワード・ゴーリー ハウス」と名前を変え、記念館として2002年に開館し、原画、資料による展覧会が定期的に開催されます。日本でも2000年の秋、柴田元幸氏の邦訳による初の絵本刊行以来、毎年のように刊行が続き、若い世代を中心に高い人気を集めていきます。
エドワード・ゴーリーの魅力
韻を踏んだ詩的な文章、そして陰影、背景までペンで細かく描かれた魅惑的な描線。19世紀のイギリス文学を紡彿とさせる重厚で独特の世界観、不気味でナンセンス、そして優雅なユーモアが余韻となり、時に読者を不安な気持ちに陥れます。その魅力に多くの人々が虜となり、シュルレアリストのマックス・エルンストや、ムーミンの作者・トーベ・ヤンソンをはじめ、多くの文化人もゴーリーの愛好者でした。
章立てのテーマでめぐる代表作
第I章 ゴーリーと子供
エドワード・ゴーリー 『不幸な子供』原画 1961年 ペン、インク、紙 ©2022 The Edward Gorey Charitable Trust
ゴーリーには『不幸な子供』をはじめ、幼児や子どもが主人公となる本がいくつもあります。子どもたちには、つぎからつぎへと悲劇や試練が降りかかりますが、安直なハッピーエンドを迎えません。むしろ不条理なほど悲惨な運命をたどります。こうした突き放したクールな視点の 「現代のおとぎ話」 の源流は、子どもたちがひどい目にあう19世紀イギリスのヴィクトリア朝の「教訓譚」の形式を皮肉ったものとも考えられます。
20世紀前半のアメリカ社会において、何不自由ない生活を送りながらも、平坦ではない家庭の中で生き抜き成長した、感性豊かなゴーリーの子ども時代が投影されているかもしれません。
第Ⅱ章 ゴーリーが描く不思議な生き物
ゴーリーの本の中でもとりわけ人気の高い『うろんな客』の主人公は、突然、家に入り込んできたまま、居座り続ける黒いペンギンのような生き物です。このようにゴーリーが描く生き物は不可思議でありながら、どことなく人間臭く、ユーモラスで愛嬌があり、独特の世界感を作り出しています。
エドワード・ゴーリー『うろんな客』 原画 1957年 ペン、インク、紙 ©2022 The Edward Gorey Charitable Trust
第Ⅲ章 ゴーリーと舞台芸術
ゴーリーとバレエの出会いは12〜13歳の頃で、舞台美術や衣装に興味を持っていました。20代の終わりにニューヨークに移住すると、ニューヨーク・シティ・バレエの公演に通いつめ、振付師をつとめていた口シア出身のジョージ・バランシンを敬愛。1957年頃からは、ほぼ全ての公演を観たといわれ、バレエを主題にした絵本も生み出しています。
エドワード・ゴーリー『無題(妖精のようなバレリーナ)』 年代不詳 ペン、インク、紙 ©2022 The Edward Gorey Charitable Trust
1970年代には、ブロードウェイでも上演されたミュージカル劇『ドラキュラ』の総合的デザインを任され、演劇界での最高の栄誉のひとつトニー賞の衣装デザイン賞を受賞します。
エドワード・ゴーリー『ドラキュラ・トイシアター』 表紙・原画 1979年頃 インク、紙 ©2022 The Edward Gorey Charitable Trust
第IV章 ゴーリーの本作り
ゴーリーはおおまかにスケッチした後、お気に入りのメーカー「ヒギンズ」のインクに、カリグラフィー・ペンの「ハント」の204番のような細いペン先を用いて作品を仕上げ、出版される際のサイズで制作していました。繊細な筆タイトルや謝辞だけではなく、テキストの文字までも手書きでした。
本作りの基礎にあるのは、乱読していた19世紀から20世紀初頭にかけてのイギリスの本。例えば、リメリック詩(五行戯詩)に滑稽な挿絵をつけた作品で知られるイギリスの詩人・画家のエドワード・リアからは、青年時代、そのドローイングの様式を真似るほど強い影響を受け、後年、挿絵をつけたリア原作の『ジャンプリーズ』は、自らが文章と絵を手がける主著とも異なる世界感を創り出し、主著に並ぶ代表作となっています。
エドワード・ゴーリー 『ジャンブリーズ』 原画 1968 年 ペン、インク、紙 ©2022 The Edward Gorey Charitable Trust
第V章 ケープコッドのコミュニティと象
ミュージカル劇『ドラキュラ』でトニー賞を受賞後、翌年、その賞金をもとに、ケープコッドのヤーマス・ポートに家を購入。そして、地元の劇場での活動に関わるなど、ケープコッドのコミュニティとの繋がりを深め、「エレファント・ハウス(現ゴーリーハウス)」と呼ばれるその家に、1986年秋から居を移します。20世紀アメリカを代表する画家エドワード・ホッパー(1882-1967)も1930年代から夏を過ごすなど、小さな半島ながら、多くの芸術家が集い、交流の機会も少なくありませんでした。
こうしたケープコッドの芸術家コミュニティの中でゴーリーが熱中したひとつの分野が版画でした。晩年のゴーリーは象を主題に自身の内面を仮託するような作品を作り続けます。それらの版画は、逝去後、ケープコッドからも近いマサチューセッツ大学ダートマス校のギャラリーで「Eはエレファント展」(2014年)として紹介されるなど、彼が辿り着いた新境地として評価されています。
まとめ
「どういうわけか、人生におけるわたしの使命は人をできるだけ不安にさせることなんですよ。人はみんなできるだけ不安になるべきだと思うんです。世界というのは不安なものだから」というゴーリー本人の言葉の通り、不安にさせる本作りは確信犯のようです。ほっとした絵本もいいですが、時には心を不安にさせる絵本の展覧会もいかがでしょうか。
展覧会情報
『エドワード・ゴーリーを巡る旅』
Journey to the World of Edward Gorey
会場:渋谷区立松濤美術館
開催期間:2023年4月8日(土)~6月11日(日)
本展覧会は全国巡回予定
所在地:東京都渋谷区松濤2-14-14
アクセス:京王井の頭線神泉駅 徒歩5分
JR・東急電鉄・東京メトロ渋谷駅 徒歩15分
開館時間:10:00~18:00
※金曜は20:00まで
※入場は閉場の30分前まで
休館日:月曜日
料金:一般1,000円(800円)、大学生800円(640円)、高校生・60歳以上500円(400円)、小中学生100円(80円)
※土・日曜日、祝休日は小中学生無料
※毎週金曜日は渋谷区民無料
※障がい者及び付添の方1名は無料
https://shoto-museum.jp/exhibitions/199gorey/
関連イベント
館内建築ツアー
白井晟一設計の美術館建築を職員がご案内します。
4月14日(金)、21日(金)、28日(金)、
5月5日(金・祝)、12日(金)、19日(金)、26日(金)、
6月2日(金)、9日(金)
各日午後6時~、約30分間
*無料(要入館料)
*各回定員15名
画像ギャラリー
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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
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