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2023.5.25
詩情あふれる山水画が織りなす、新たな美の世界。日本画家、木島櫻谷の展覧会が開催!
1877(明治10)年に生まれ、昭和前期まで京都の日本画壇で活動した木島櫻谷(このしま おうこく)。いま一般的に櫻谷の名を知る人は必ずしも多くありませんが、写生を基礎にして叙情的で気品のある作品を描いたことから、近年再評価の機運が高まっています。
目次
その櫻谷の回顧展が、東京・六本木の泉屋博古館東京にて開催。かわいらしく親しみやすい動物画から詩情豊かな山水画などの作品を通して、櫻谷の多様な画業を明らかにします。
見どころ①早くから才能を開花した櫻谷。写生を重視して制作していく。
写生帖『海濤集 四』若狭美浜 明治38年(1905) 櫻谷文庫 展示期間:通期(頁替あり)
京都の三条室町に生まれ、円山・四条派の流れをくむ今尾景年(いまお けいねん)のもとに学び、絵の道へと進んだ櫻谷。卓越した動物や自然の表現によって早くから才能を開花すると、明治後半から大正期にかけて文展の花形として活躍します。
大正期には住友家からの依頼で四季の屏風を制作し、琳派の意匠を取り込むなど新たな境地を切り拓きます。一方で、50歳前後に公職から身を引くと、郊外に居を構えて画壇とも距離を置き、書に囲まれた文人的な生活を送って、瀟洒(しょうしゃ)な南画風の作品を描きました。
写生帖『芙蓉集一』富士 明治41年(1908) 櫻谷文庫 展示期間:通期(頁替あり)
その櫻谷が一貫して重視したのは徹底した写生です。20代から30代にかけて飛騨や富士、若狭、大分などへ頻繁に写生旅行に出かけた櫻谷は、山や海の風景から民家や民具、それに働く人々の営みなど、心惹かれる対象を次々と写生帖に写し取りました。そうした写生帖も展示にて見ることができます。
見どころ②東京初公開の襖絵も!櫻谷が山水画に描いた理想の風景とは?
馬や虎、それに狸や狐に栗鼠…。櫻谷の作品として人気が高いのは動物画ですが、生涯に渡って山水画を描き続けたことも見逃せません。
京都近郊や旅先にて風景の写生を重ねた櫻谷は、西洋画の空間感覚を取り入れた近代的で明澄な山水画を切り拓きます。一方で古画を愛すると、次第に中華文人の理想世界を日本の風景に移し替えたような新しい山水表現を獲得するに至りました。
『万壑烟霧』 左隻 明治43年(1910) 株式会社 千總 展示期間:通期
その櫻谷の山水画の集大成といえるのが、1910(明治43)年に制作した『万壑烟霧(ばんがくえんむ)』と、南禅寺塔頭の南陽院本堂5室にわたる障壁画です。
『万壑烟霧』 右隻 明治43年(1910) 株式会社 千總 展示期間:通期
幅11メートルを超える『万壑烟霧』とは、各地の写生を醸成させて築いた理想のパノラマ。また南陽院本堂の障壁画においても、どこかでみたような風景でありながら、実はどこにも存在しない、櫻谷の想像上の空間を表しました。
『南陽院本堂障壁画』 西側 明治43年(1910) 京都・南陽院 展示期間:前後期で入れ替えあり
展示では屏風といった大作から日々を彩る掛物など、多彩な山水画も一挙に公開。とりわけ南陽院の襖絵は東京で初めて紹介されます。
見どころ③代表作『寒月』と『駅路之春』が揃い踏み!櫻谷の魅力を存分に味わおう。
『寒月』 左隻 大正元年(1912) 京都市美術館 展示期間:6/3~6/18
もちろん展示には代表作も集結。最も有名な作品といって良い『寒月(かんげつ)』(展示期間:6/3〜6/18)と、櫻谷芸術のエッセンスが散りばめられた『駅路之春(うまやじのはる)』が揃い踏みとなります。
『寒月』 右隻 大正元年(1912) 京都市美術館 展示期間:6/3~6/18
『寒月』は1913(大正元)年の第6回文展への出品作です。一面の雪に覆われた夜の竹林の中、一頭の狐が鋭い目をしながら、周囲に注意を払いながらすがたを現す光景を描いています。一見、水墨画のように見えながら、雪には白の胡粉、また空にはシルバーグレーの絵具、さらに竹には群青や緑青などが塗られるなど、重厚な顔料を用いて雪月夜を描いているのも魅力です。
『駅路之春』 左隻 大正2年(1913) 福田美術館 展示期間:通期
また『駅路之春』は翌年の第7回文展出品作。街道の茶店でくつろぐ旅の一行や白黒の馬などが鮮やかな色彩を伴って表現されています。
『駅路之春』 右隻 大正2年(1913) 福田美術館 展示期間:通期
なお『駅路之春』は長らく行方が分からなくなっていた作品で、2019年に京都の福田美術館にて78年ぶりに公開されました。
『峡中の秋』 昭和8年(1933) 櫻谷文庫 展示期間:通期
この他にも、57歳にて制作した最後の帝展出品作『峡中の秋(きょうちゅうのあき)』なども展示し、櫻谷が晩年に到達した世界に光を当てます。
泉屋博古館東京では、分館時代の2014年と2018年にも櫻谷の展覧会を開催し、その都度、美術愛好家の注目を集めてきました。櫻谷ファンは確実に増えています。
そして2023年、実に櫻谷の三度目の東京での展覧会です。これを機会に、木島櫻谷の素晴らしい作品が多くの人々の心へ深く刻み込まれるに違いありません。
展覧会情報
『特別展 木島櫻谷―山水夢中』 泉屋博古館東京
開催期間:2023年6月3日(土)〜7月23日(日)
前期:6月3日(土)〜6月25日(日)、後期:6月27日(火)〜7月23日(日)
*『寒月』展示期間:6月3日(土)〜6月18日(日)
所在地:東京都港区六本木1丁目5番地1号
アクセス:東京メトロ南北線六本木一丁目駅下車、北改札正面泉ガーデン1F出口より屋外エスカレーターで徒歩3分。
開館時間:11:00~18:00
※金曜日は19時まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(7月17日は開館)、7月18日(火)
料金:一般1200円、大学・高校生800円、中学生以下無料
https://sen-oku.or.jp/tokyo/
画像ギャラリー
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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