「旅情詩人」と呼ばれた版画家、川瀬巴水の人生をたどる。『川瀬巴水旅と郷愁の風景』展レポート

はろるど

川瀬巴水『芝増上寺』東京二十景　1925（大正14）年　巴水の作品の中でも最も売れたとされる人気作。摺られた数は実に3000枚にのぼるとも伝えられています。
川瀬巴水『塩原三部作』展示風景　東京の芝に生まれた巴水でしたが、伯母夫婦の住む塩原へは第二の故郷として何度も足を運びました。
川瀬巴水『塩原おかね路』　1918（大正7）年秋　木版、紙　渡邊木版美術画舗　「塩原おかね路」とは塩原温泉郷の一つである「塩の湯」に通じる道で、老舗旅館明賀屋の老女将お兼の発案により、鹿股川沿いの崖を削って作られました。
川瀬巴水『旅みやげ第一集』展示風景　破水が風景版画家としての地位を確固たるものにした『旅みやげ第一集』。この時の写生旅行においても巴水は塩原へと出かけました。
川瀬巴水『こま形河岸』東京十二題　1919（大正8）年初夏　木版、紙　渡邊木版美術画舗　当時の駒形河岸付近には竹木商が多かったため、竹町とも呼ばれていました。その竹木商の仕事場の前にて停まる荷馬車を、昼寝をする人夫とともに描いています。
川瀬巴水『旅みやげ第三集』展示風景　関東大震災後、人生最長となる102日間の大旅行に出かけた巴水は、帰京するとすぐに渡邊版画店とともに『旅みやげ第三集』の制作に取りかかりました。
川瀬巴水『旅みやげ第三集』の写生帖。写生を大事にしていた巴水。震災以前の写生帖は全て失われてしまいましたが、それ以後の作品の多くは今も残されています。
川瀬巴水『馬込の月』東京二十景　1930（昭和5）年　木版、紙　渡邊木版美術画舗　巴水の代表的作品の1つ。当時の馬込は田園風景が広がる郊外の農村地帯で、明治時代以降には多くの芸術家らが移り住むようになりました。図の松は巴水の自宅から歩いて20分ほどの場所にあった三本松で、一面を澄み切った「巴水ブルー」が包んでいます。
川瀬巴水『尾州半田新川端』東海道風景選集　1935（昭和10）年3月　古くから廻船の拠点として栄えた愛知県中南部の半田は、酒や味噌などの醸造業が盛んに行われていました。川沿いに立ち並ぶのも醸造蔵や廻船問屋の蔵で、雪の降る中を傘をさして歩く人物と、それを追いかけるように進む一匹の犬を描いています。
川瀬巴水『朝鮮八景』展示風景　巴水は朝鮮の鉄道局からの招待旅行に画家仲間と出かけると、自然の織りなす絶景や人々の装束といった異国の風景や風物に大きく刺激を受けました。
：川瀬巴水『増上寺之雪』　1953（昭和28）年　木版、紙　渡邊木版美術画舗　当時の文部省文化財保護委員会が、伝統的な浮世絵の技術を残すため、巴水に依頼して制作された作品。スケッチから版画が完成するまでの全ての工程が記録にとられました。
川瀬巴水『平泉金色堂』　1957（昭和32）年　岩手県平泉の中尊寺金色堂が深い雪に覆われています。療養中病気と闘いながら描かれつつも、未完のまま絶筆となりました。その後、庄三郎が仕上げ、百箇日の法要の際に親族や知人に配られたとされています。
川瀬巴水『日本橋（夜明）』東海道風景選集（昭和15）年と2020年3月に撮影された日本橋の写真。江戸時代の五街道の起点で、1911年に架け替えられた石造りのアーチ橋。巴水の描いた当時は当然ながら首都高速の高架橋がありません。
川瀬巴水『野火止平林寺』木版畫順序摺　展示風景　輪郭線を摺る黒摺から完成品まで、摺りを重ねて進行する制作の様子を追うことができます。
「スティーブ・ジョブズと巴水」の展示風景　ジョブズがコレクションしたと言われる巴水の同様作品を紹介しています。右の『上州法師温泉』で湯に浸かる人物は巴水本人です。
「スティーブ・ジョブズと巴水」の展示から、マッキントッシュを専門に扱う雑誌の表紙。ジョブズは1984年、発売したマッキントッシュを使用して、橋口五葉の木版画『髪梳ける女』を元にした画像を作成。描画性能をアピールしました。
川瀬巴水『平泉金色堂』（拡大）　1957（昭和32）年　同作品では写生帖や水彩画も合わせて展示されています。