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STUDY

2022.10.26

『フランダースの犬』の主人公・ネロが見たかった絵って?巨匠ルーベンスの作品を解説

イギリスの児童文学を原作に、これまで何度もアニメ化や実写映画化が繰り返されてきた名作『フランダースの犬』。画家になりたいと思っていた主人公・ネロは、ルーベンスの名画『キリスト昇架』と『キリスト降架』を観たいと夢見て生活をしていました。
このルーベンスの名画は、当時お金を払った人にしか公開されてしなかったため、貧乏なネロは観ることができなかったのです。

『キリスト昇架』の展示風景, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

この記事では、『フランダースの犬』に登場する巨匠ルーベンスの作品について、歴史背景などを踏まえて解説していきます。

(編集部追記 2023.03.14)
【お詫びと訂正について】
いつもイロハニアートをご覧いただきありがとうございます。
読者さまからのご指摘により、当該記事内『キリスト昇架』紹介部分に『キリスト降架』画像を掲載していたことが判明いたしました。
誤った情報を公開してしまったことにつきまして深くお詫び申し上げます。
画像は2023年3月13日(月)10時に正しいものに差し替えております。

今後とも、イロハニアートをどうぞよろしくお願い申し上げます。


2023年3月14日(火) イロハニアート編集部一同

ネロが憧れたルーベンスはどんな人物?

ルーベンスの自画像, Public domain, via Wikimedia Commons

ピーテル・パウル・ルーベンスは16世紀末から17世紀中旬までに活躍した画家で、7か国語を操り外交官としても実績を残しました。
バロック期を代表するフランドルの画家として、ヨーロッパ貴族を中心に大きな評価を得ていました。

カルヴァン派(プロテスタント)の父を持ちながら、自身はアントウェルペンでカトリックの教育を受けて育ったため、対抗宗教改革の影響を受けた作品も多く残しています。
対抗宗教改革とは、プロテスタントの宗教改革に対抗してカトリック内で起こった改革運動を指します。

ルーベンスは美術を学ぶために17世紀の初めをイタリアで過ごしたという経歴があり、ローマでは古代ローマ・ギリシャの偉大な作品を模写する機会を得ました。
イタリアで古代芸術やティツィアーノ、カラヴァッジョの影響を受けたルーベンスは、その後アントウェルペンに戻ってからすぐに『キリスト昇架』と『キリスト降架』にとりかかりました。


ネロが見たかった絵①『キリスト昇架』

ルーベンス『キリスト昇架』, Public domain, via Wikimedia Commons

ネロが観たいと思っていた『キリスト昇架』と『キリスト降架』は、いずれもアントウェルペンの聖母大聖堂に飾られている作品です。
この作品がきっかけとなり、当時イタリアを中心ですでに花開いていた絵画のバロック様式がネーデルラントに広まることになりました。

『キリスト昇架』では、イエスが十字架にかけられるシーンを描いています。
作品は3枚のパネルから構成されており、中央にはまさに十字架に架けられているイエス、左には悲嘆に暮れる聖母やマグダラのマリアなどの姿、右にはイエスとともに磔刑に処される2人の罪人が描かれています。
強烈な明暗と劇的な場面構成は、バロック期の特徴をよく表しています。

バロック様式の要素以外にも、ルーベンスがイタリア留学を通して見たものがこの『キリスト昇架』には取り入れられています。
それは、16世紀にローマで発掘された古代の彫刻『ラオコーン』です。

参考:『ラオコーン』 Vatican Museums, Public domain, via Wikimedia Commons

ルーベンスは『ラオコーン』の筋肉質で美しい身体から影響を受け、キリストの身体を描いたと言われています。

ネロが見たかった絵②『キリスト降架』

ルーベンス『キリスト降架』, Public domain, via Wikimedia Commons

『キリスト降架』は『キリスト昇架』とは反対に、イエスが十字架から降ろされるシーンを描いた作品です。
ルーベンスはまず『キリスト昇架』を1611年に完成させ、その後すぐに『キリスト降架』の制作に取り掛かりました。
こちらも3枚のパネルで構成されており、中央にはぐったりした様子で十字架から降ろされるイエス、左にはイエスを身ごもる聖母マリア、そして右には抱神者シメオンがまだ生まれたばかりのイエスを抱いたシーンが描かれています。

こちらも『ラオコーン』の影響を受けていると言われ、精気を失った人間の身体のずっしりとした重さが、周囲の人に支えられている様子が伝わりますね。

参考:ルーベンス『キリスト降架』中央パネル, Public domain, via Wikimedia Commons

実際、『ラオコーン』は左から「まだ生きている人」「生死の境にいる人」「ほとんど息絶えている人」という生から死への移行を表現していると言われます。
イエスの十字架刑においては、精気のある状態で張り付けられた『キリスト昇架』と、息を引き取った状態で降ろされた『キリスト降架』の肉体表現の違いを感じることができます。

まとめ

『フランダースの犬』では、ネロはこの作品を観るという夢をかなえて天国にのぼっていきます。
絵を描くのが好きだった彼にとっては、巨匠ルーベンスのこの2つの作品は非常に重要な意味があったのでしょう。
『キリスト昇架』と『キリスト降架』には、ルーベンスのイタリア留学における経験が反映されています。
芸術家の経歴を知ると、作品の背景を詳しく知ることができておもしろいですね。


【写真6枚】『フランダースの犬』の主人公・ネロが見たかった絵って?巨匠ルーベンスの作品を解説 を詳しく見る

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はな

はな

イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。

イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。

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