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2023.1.12

ミレーとミレイは違います!『落穂拾い』『晩鐘』『オフィーリア』…代表作品で覚えよう。

芸術家の名前が似ていて紛らわしいと思ったことはありませんか? ミレーとミレイは、いずれも19世紀に活躍した画家で、しばしば混同されることがありますが全く別の2人の画家です。
この記事では、それぞれの人物と代表作品について詳しく解説します。

ジャン=フランソワ・ミレーとは

Nadar, Public domain, via Wikimedia Commons

ジャン=フランソワ・ミレー(Jean-François Millet, 1814-1875)は、フランスのバルビゾン派の代表的な画家です。とくに農民の素朴な生活をテーマに作品を残しました。
バルビゾン派とは、1830~1870年頃にかけてフランスで起きた風景画や農民画を写実的に描いた絵画一派です。バルビゾン派はこれまで神話画や宗教画の一部として描かれてきた伝統的な景色ではなく、目の前に広がる現実的な風景の表現を目指しました。

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ミレーは伝染病の流行などを理由にパリからバルビゾンへ移住し、そこで見たものに大きな影響を受けたと言われます。ミレーは自然で人間的な農民の生活を描き続け、作品をサロンに出品し続けました。
農民の慎ましい生活の様子を描いた作品は、しばしば政治的な意図が含まれていると保守派から非難を浴びました。当時のフランスでは、徐々に力をつけはじめていた農民・労働階級とブルジョワ階級の対立が激化していたためです。
19世紀フランスの不安定な政治情勢の中、ミレーの農民画は次第に評価が高まっていきました。個人愛好家の支援などもあり、ミレーは1867年のパリ万博において一室を与えられるほどの名声を獲得します。

ジャン=フランソワ・ミレーの代表作品

『落穂ひろい』

Jean-François Millet, Public domain, via Wikimedia Commons

1867年のパリ万博には、ミレーの代表作である『落穂拾い』や『晩鐘』も出品されていました。
『落穂拾い』は、1857年のサロンに出品された作品で、3人の農婦が腰をかがめて落穂を拾う様子を描いています。ミレーの作品には神話的な信仰は含まれず、貧困層や労働者層のリアルな様子が描かれています。
この作品は、サロンに出品されるとすぐに波紋を呼びました。当時のフランスの農民は地主の麦畑の収穫を手伝う際に、手間賃の他に残った落穂を1割ほど持ち帰る権利を有していました。この制度を廃止したいと考えていた地主階級にはミレーの『落穂拾い』は農民賛美に映り、政治色の強いパリのサロンにおいては保守派の反感を買ったのです。


『晩鐘』

Jean-François Millet, Public domain, via Wikimedia Commons

ミレーのもう1つの代表作『晩鐘』(ばんしょう)は、アメリカ人美術収集家の依頼で作成したと言われます。『晩鐘』は、平原に鳴り響く晩鐘に合わせ、農民夫婦が祈りを捧げるキリスト教の宗教要素が強いテーマです。
しかし、作品には十字架や聖母子像など、ヨーロッパの伝統的宗教画に含まれる要素が一切ありません。これは、アメリカ人依頼主がリベラルなプロテスタントであり、カトリック的な装飾を好まなかったためと言われます。
『晩鐘』はシンプルな構図でありながら深く引き込まれるようなメッセージ性があるため、歴史上この作品に関するさまざまな解釈がされてきました。とくに、夫婦の亡くなった子どもが地面に埋葬されており、下書き段階では棺があったという説がしばしば話題にあがります。しかし現在では、下書きに残されたものは棺ではない可能性が高いため、この説は否定されつつあります。

ジョン・エヴァレット・ミレイとは

John Everett Millais, Public domain, via Wikimedia Commons

一方、ジョン・エヴァレット・ミレイ(John Everett Millais, 1829-1896)は、19世紀のイギリス人画家で、ラファエル前派の3人の発起人のうちの1人です。「ラファエル前派」は、当時のイギリスのラファエロ至上主義的な美術学校の方針に反発し、ラファエロ以前の中世~初期ルネッサンス美術を模範としたグループを指します。

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初期のミレイは自然に忠実な芸術を追求し、細部にわたって忠実に表現する中世や初期ルネッサンスの精巧さを大切にしていました。サロンにおけるミレイの評価は常に高かったわけではなく、ときには痛烈な批判や中傷の対象となることもありました。

ジョン・エヴァレット・ミレイの代表作品

『オフィーリア』

John Everett Millais, Public domain, via Wikimedia Commons

ミレイの絶対的な代表作といえば、『オフィーリア』でしょう。オフィーリアはイギリス文学の傑作、シェイクスピアの『ハムレット』の登場人物です。
オフィーリアは、隠れて恋人関係にあったハムレットが自分の父を殺したことを知り、ショックで気が狂ってしまいます。狂ったオフィーリアは、川辺に咲く花をつんで花輪を作ろうとしますが、誤って川に落ちてそのまま亡くなりました。
幻想的で美しい雰囲気の裏に、ちょっと怖いストーリーが隠されているのですね。では、なぜこの作品には優しく穏やかな空気が漂っているのでしょうか。
それは、オフィーリアは歌いながら川にゆっくりと沈んでいったと小説内で描写されているためです。家族や恋人に振り回され、自己決定をゆるされなかったオフィーリアができた唯一の決断は、自らの人生を終わらせることでした。
ミレイは、悲しいはずのシーンを神秘的に描いているだけでなく、周囲を取り巻く自然を生き生きと細部にわたって表現しています。この明るい色調と自然に忠実な表現は、まさに「ラファエル前派」としてミレイが追い求めていた形でした。

『両親の家のキリスト』

John Everett Millais, Public domain, via Wikimedia Commons

『両親の家のキリスト』はミレイの初期の作品の1つです。『オフィーリア』で彼が脚光を浴びる前にサロンに出品しており、痛烈な批判を受けた作品でもあります。
『両親の家のキリスト』は、木くずが散らばり散かった作業場の様子が聖家族を描く場面には似つかわしくないとされました。さらに、聖母マリアやイエスの描写に聖性が感じられず、近場にいるような普通の人間として表現されていることも批判の対象となりました。
否定的な批評を受けつつも、この作品がリアリズムの議論を巻き起こしたことにより、それまで無名だった「ラファエル前派」を有名にするきっかけに。

この作品は一見平凡な町工場のワンシーンにも見えますが、これはまだ幼いイエスが両親の家で大工仕事を手伝っている場面であり様々な宗教的な意味が込められています。
イエスは手を釘で打ってしまったようで、父ヨセフが傷を診ています。聖母マリアは傷ついたイエスの頬にキスし、奥の聖祖母アンナはくぎをピンチで抜いていたようです。
イエスの手の平の傷は十字架に架けられる運命を暗示しています。作品右側で水を運んでいる少年は、のちにイエスに洗礼を授ける洗礼者ヨハネです。左の大工の弟子は十二使徒を示しており、これからイエスの身に起こる出来事の目撃者として構図の中に配置されています。

まとめ

ジャン=フランソワ・ミレーの作品は素朴な農民の生活をとらえており、一見穏やかで暖かなものに感じられます。しかし実際は、作品の内容を巡って政治家が批判をなげかけるほど、貧困問題と結びついた作風でもありました。
一方、ジョン・エヴァレット・ミレイはラファエル前派として繊細な自然観察を信条とし、批判を浴びながらも新しい美術のスタイルを確立していきました。

この記事がミレーとミレイの違いを理解する手助けになれば幸いです。

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はな

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3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経て2021年秋よりイタリアの大学で美術史修士課程に進学予定。フリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。

3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経て2021年秋よりイタリアの大学で美術史修士課程に進学予定。フリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。

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