STUDY
2023.3.13
イギリスがパルテノン神殿の彫刻をギリシャに返還?美術作品返還問題を解説
イギリス・ロンドンにある大英博物館の目玉「パルテノン神殿の彫刻」は、ギリシャ・アテネのパルテノン神殿から持ち帰られたものです。現在、「パルテノン神殿の彫刻」をイギリスからアテネに返還するための合意が進められています。
Carole Raddato from FRANKFURT, Germany, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
この記事では、パルテノン神殿の破風の返還に関する最新ニュースと、他国に不当に持ち去られた美術作品の返還を巡るさまざまな意見を紹介します。
「パルテノン神殿の彫刻」を巡る40年に渡る論争
Txllxt TxllxT, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
「パルテノン神殿の彫刻」は、ギリシャ・アテネのパルテノン神殿の破風(※)を装飾する彫刻群です。19世紀にアテネに赴いたイギリスのエルギン伯爵がパルテノン神殿から削り取ってイギリスに持ち帰ったため、「エルギン・マーブル」とも呼ばれます。
※破風(はふ)……屋根の先端部分
当時のギリシャはオスマン帝国の支配下にあり、エルギン伯爵はオスマン帝国駐在大使でした。神殿の彫刻に関心を持ったエルギン伯爵は当時のスルタン(君主)、セリム3世の許可を経て多くの彫刻をイギリスに持ち帰りました。
George E. Koronaios, CC0, via Wikimedia Commons
参考:ギリシャ・アテネ『パルテノン神殿』
イギリスのサロンでは古代ギリシャの彫刻を賛美する声が集まる一方で、エルギン伯爵の略奪行為を非難する声もありました。1970年代以降はギリシャ政府からイギリス政府に対して美術品を返還するよう要請を続けていますが、現在もまだ完全合意には至っていません。
イギリスがギリシャへ「パルテノン神殿の彫刻」を返還?
Txllxt TxllxT, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
エルギン伯爵が持ち帰った彫刻は大英博物館と、一部バチカン博物館にも売却されていました。2022年12月、バチカン市国は「寄附」という形で彫刻の破片3片をギリシャに渡しました。略奪美術作品の返還の動きは、世界中で徐々に広まっています。
2023年2月16日のギリシャのメディアGreek Repoterは大英博物館とギリシャ政府の間の合意はまもなく得られるだろうと報じました。しかし、イギリスの法律では美術館は展示作品を破棄したり売却したりすることを禁じているため、これは大英博物館だけの問題ではありません。
さらにイギリス政府や大英博物館としては、合意してしまえば現在保有している他の作品も、元の国に返還しなければならないかもしれない危惧があります。
欧州各国のメディアでは「返還に向けて調整が進んでいる」と報道が続いていますが、実際に合意に至るまでどれほど時間がかかるかはまだわかりません。
盗まれた美術作品は現地に返還されるべきか
Peter O'Connor aka anemoneprojectors, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
長い歴史の中で略奪により持ち去られた美術作品は、現地に返還されるべきでしょうか?
筆者の個人的な意見としては、基本的に美術作品はオリジナルの土地で保管されるべきだと思います。美術作品は時代や文化のコンテクストの中で成立するものであり、土地との関連性が大切なためです。
しかし、もっとも大切なのはどのようにして作品が持ってこられたかだと思います。芸術品は友好関係の証として贈り物となったり、文化交流として交換されたりすることがあります。所有者や芸術家の意思に反して略奪されたものは、返還される流れになるといいな、というのが筆者の率直な意見です。
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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