STUDY
2023.8.11
中世後期の巨匠ジョットの人生って?作品の特徴と見どころを紹介
中世後期に活躍したイタリア人画家ジョットは、のちに起こるルネッサンスの潮流に大きな影響を与えた画家です。13世後半から14世紀前半にかけてのもっとも重要な芸術家の1人で、奥行きのある絵画表現への挑戦や、写実的な人物表現に特徴があります。
ジョット『玉座の聖母』, Public domain, via Wikimedia Commons
この記事では、ローマの大学院で美術史を専攻する筆者がジョットの人生、作品の特徴、見どころについてわかりやすく解説します。
ルネッサンスの基盤を作った芸術家ジョットの人生
ジョットの肖像,イタリア・ルネッサンスの5人の有名人より, Public domain, via Wikimedia Commons
ジョット・ディ・ボンドーネ(1267-1337年)は中世後期、ゴシック期の重要な芸術家です。それだけではなく、ジョットの作風は初期ルネッサンスの特徴をすでに有しており、のちの古典復興に多大な貢献をしたことで知られています。
ジョットの生い立ちについては諸説あり、正確なことはわからないものの、フィレツェの芸術家チマブーエが偶然ジョットの落書きを目にしたことから弟子入りが決まったと言われています。
師匠であるチマブーエが不在の間に、ジョットがハエを描いたところ、チマブーエは本物と勘違いして手で追い払ったという逸話が残されています。それほどジョットの技術が優れていたことを示すエピソードです。しかし、芸術家列伝を記したジョルジョ・ヴァザーリのこの記録は正確ではないとする見方が主流で、ジョットとチマブーエの師弟関係の真偽は定かではありません。
ジョットが残した作品のなかでもっとも重要なものの1つは、イタリア・アッシジのサン・フランチェスコ大聖堂のフレスコです。聖フランチェスコに捧げられたこの大聖堂は、壁全体を聖フランチェスコの物語などで覆われており、イタリアでは伝統的にジョットの作品であると信じられてきました。
聖フランチェスコ聖堂,アッシジ,イタリア, Public domain, via Wikimedia Commons
しかし、のちに描かれたスクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画との技術比較を通して、少なくとも上教会はジョットの作品ではないとする説が浮上しました。ナポレオンの略奪の影響で、教会の史料はすべて失われており、フレスコの作成者を巡って現在でもさまざまな言説が飛び交っています。いずれにせよ現在のイタリア美術史学会では、場面構成や背景における遠近法の巧みさはジョットのものであろうとする考え方が一般的です。
もう1つのジョットの代表的な仕事は、イタリア・パドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画です。1305年ごろに作成され、当時としてはまだ馴染みの少なかった遠近法への取り組み、豊かな人体表現が見られます。
スクロヴェーニ礼拝堂,パドヴァ,イタリア, Public domain, via Wikimedia Commons
ジョットの遠近法はこれまで平面的だった中世の伝統的なキリスト教美術に比べると、観覧者が場面のなかに入り込んだような臨場感を与えます。劇的な没入感は中世からルネッサンスに移行する時代の始まりを予感させ、ジョットの偉大な技術と感性が光る作品です。
ジョットの作品の特徴って?
ジョット『ヨアヒムの人生』,スクロヴェーニ礼拝堂,パドヴァ,イタリア, Public domain, via Wikimedia Commons
ジョット作品の特徴は、遠近法と写実的な人体表現です。ルネッサンス以降の現実に忠実な人体表現に馴染みのある現代の私たちにはイメージしにくいですが、中世における絵画表現は平面的なものが主流であり、ジョットの絵画表現は発明的でした。
とくに、ジョットの描く聖人の衣服には、芸術家の解剖学的な解釈が表れています。衣服の下にある人体の筋肉や関節などを感じさせることで、立体的で質量のある表現が実現しています。
とはいえ、写実的な人物像や遠近法は見られても、ラファエロやミケランジェロなどのルネッサンスの巨匠に比べれば、ゴシック的な静かさが残っています。ジョットが描く聖人は、リアルさのなかに神聖な威厳を保ち続けていますね。ジョットはまさに、中世からルネッサンスへの橋渡し的な役割を担った画家なのです。
ジョット作品の見どころは「背景」
ジョット,スクロヴェーニ礼拝堂,パドヴァ,イタリア, Public domain, via Wikimedia Commons
ジョット作品を見る際は、ぜひ「背景」に注目してみてください。写実主義への挑戦が見られる人物表現はもちろん見事ですが、ジョット作品の土台を支えているのは、構図と奥行きです。
ジョット作品のなかには、意図的に建造物や特徴的な背景を含めて遠近法を表現しているものが多くみられます。「遠くのものは小さく、手前のものは大きく」という遠近法の基礎は、ヨーロッパでは中世を通じてないがしろにされていた概念でした。
ジョットの作品における全体的なまとまりを支えているのは、平面だけでなく奥行きにまで配慮された背景構造です。とくに物語作品ではその傾向が顕著なので、ぜひ注目してみてください。
以上、ジョットの人生、作品の特徴、見どころについてでした!
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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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