STUDY
2023.9.8
永遠の都ローマ展:【古代ローマ】を理解する3つのポイントを在住者が解説!
2023年9月16日(土)から12月10日(日)にかけて東京都美術館で開催される「永遠の都ローマ展」。この展覧会では、古代から近代にかけてローマが歩んできた偉大な歴史を、芸術をとおして感じることができます。
この記事は、「永遠の都ローマ展」の開催にあわせ、唯一無二の都ローマを時代ごとに解説するシリーズ記事の第一弾です。古代ローマを理解するための3つのキーワードについて、現地ローマの大学院で美術史を専攻する筆者が詳しく解説します。
「永遠の都ローマ展」の詳細を知りたい方は、「【永遠の都ローマ展】カピトリーノ美術館から数々の名作が来日!」をどうぞ。
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永遠の都ローマ展【古代①】:ローマ美術はギリシャの模倣?
フォロ・ロマーノ, ローマ, Public domain, via Wikimedia Commons
古代ローマ美術といわれて、みなさんはなにを思い浮かべますか?
神話の神々や、歴代皇帝の彫刻が真っ先に思いつくのではないでしょうか。古代ローマ時代には、彫刻以外にも絵画は多く制作されていましたが、その多くは長い時代のなかで失われてしまいました。
ローマや帝国領土の美術館には、現在でもいくつかのフレスコやモザイク画が保管されていますが、彫刻に比べれば数は多くありません。
古代ローマの彫刻芸術は、古代ギリシャ文明の影響を大きく受けて形成された文化です。ギリシャから腕のいい芸術家を招待する場合もあったため、ときには区別が困難なこともあります。
さらに、古代ローマで制作された彫刻作品のなかには、古代ギリシャで制作されたものをそのまま模倣したケースもあります。永遠の都ローマ展で奇跡の来日を果たす「カピトリーノのヴィーナス」も、その例の1つです。
しかし、すべての古代ローマ美術が、完全なギリシャの模倣に過ぎなかったとみなす判断は、やや乱暴といえます。古代ローマ文化は、イタリア半島に基礎をもつエトルリア文化からも影響を受けており、また、帝国時代には政治的目的から幅広い芸術が花開いたためです。
古代ローマ芸術は古代ギリシャを基盤に、古来のエトルリア文化の影響や政治的利用などの要素が加わりながら完成されていきました。権威を象徴するための皇帝の巨象や、遠征での功績の記録レリーフなど、ローマ独自の要素もたくさんあります。ギリシャとの類似点、相違点に注目すると、より深くローマ芸術を理解できるでしょう。
永遠の都ローマ展【古代②】:建国のアイデンティティ
カピトリーノの牝狼, Public domain, via Wikimedia Commons
今日でも生き続けているローマのアイデンティティの1つに「狼」が挙げられます。狼がシンボルになったゆえんは、ローマが牝狼に育てられた双子ロムルスとレムスによって建国されたという伝説です。「永遠の都ローマ展」では、ローマのアイデンティティのルーツでもある牝狼のブロンズ像のコピーが来日します。
ロムルスとレムスは、戦いの神マルスとローマの権力者の娘の間に生まれたと双子と言われます。権力争いにより双子は政敵により殺されそうになりましたが、慈悲により殺されずにテヴェレ川のほとりに捨てられました。
ロムルスとレムスは牝狼に育てられ、政敵に打ち勝ちます。2人はエトルリアの伝統的な方法に従って鳥の飛び方で運命を占い、結果的にロムルスが単独王としてローマの統治を始めました。(一説には、ロムルスがレムスを殺害したとも言われます)
考古学者マルクス・テレンティウス・ヴァロによれば、この出来事は紀元前750年代のことのようです。伝説の真偽はさておき、ローマがロムルスとレムスのように孤児によって建国されたことは、独特の趣がありますね。
双子の伝説は、古代ローマの石棺や祭壇の彫刻モチーフとしても人気がありました。現在でもローマの街では、牝狼やロムルスとレムスのモチーフをよく見かけます。牝狼は長い歴史をとおして、ローマ人の大切なアイデンティティの象徴であり続けました。
永遠の都ローマ展【古代③】:帝国の政治と芸術
古代ローマのイメージ画像, Public domain, via Wikimedia Commons
古代ローマ芸術を理解するうえで欠かせない要素の1つが、芸術の政治への応用です。古代ローマと古代ギリシャの芸術に類似点が多い点については、さきほども触れたとおりです。
しかし、古代ローマは古代ギリシャ的な芸術言語を保持しながら、とくに帝政期にはプロパガンダ目的で独自の芸術を発展させます。帝国が広大化するほど帝国民の帰属意識を維持することは難しく、テレビも写真もない時代に皇帝の存在感を示すためには、芸術が大きな役割を果たしました。
皇帝は自分の権力を誇示するために巨象を作らせ、フォロのなかに配置したのです。現在フォロ・ロマーノやフォリ・インペリアーリがあるローマの中心エリアには、かつて複数の皇帝の見事な広場(フォロ)がありました。有名なものの例として、アウグストゥス帝は高さ12mの像を自分の神殿内に置いたと言われます。地方には等身大程度の大きさの像を設置し、皇帝の見た目や威厳を拡散することもありました。
「永遠の都ローマ展」では、ローマに建設された巨象の1つである《コンスタンティヌス帝の巨像》の頭部(コピー)が展示されます。本作は頭部だけにもかかわらず、高さは約1.8m。古代ローマの皇帝がいかに強大な権力を握っていたか、芸術をとおして垣間見ることができますね。
永遠の都ローマの礎である古代は、ローマのアイデンティティや文化を支える重要な時代です。ローマについてより深く知りたい方は、ぜひ「永遠の都ローマ展」を訪れてみてくださいね。以上、ローマの「古代」を理解するための3つのポイントについてでした。
展示会情報
「永遠の都ローマ展」の詳細を知りたい方は、「【永遠の都ローマ展】カピトリーノ美術館から数々の名作が来日!」をどうぞ。
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「永遠の都ローマ展」
会期:2023年9月16日(土)~12月10日(日)
休室日:月曜日、9月19日(火)、10月10日(火)
※ただし、9月18日(月・祝)、10月9日(月・祝)は開室
開室時間:9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料:
前売券 一般 2,000円/大学生・専門学校生 1,100円/65歳以上 1,300円
当日券 一般 2,200円/大学生・専門学校生 1,300円/65歳以上 1,500円
・高校生以下無料。
・身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料。
・高校生、大学生・専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は、いずれも証明できるものをご提示ください。
※土日・祝日のみ日時指定予約制(当日の空きがあれば入場可)
公式サイト永遠の都ローマ展
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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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