STUDY
2023.10.17
「写実主義」って?アートを理解するための基礎を学ぶ【芸術理論①】
ある作品が「芸術」と認められ評価されるためには、作品のなかに美しさや哲学が込められている必要があります。芸術にはさまざまな理論が存在し、時代や地域によっても異なります。
ミレー,『落穂拾い』, Public domain, via Wikimedia Commons
「写実主義」は、芸術を理解するために重要な理論の1つです。物体を、見えているように模倣し、作品にそのままの姿を投影します。この記事では、写実主義の芸術理論について、イタリアの大学院で美術史を専攻する筆者がわかりやすく解説します!
写実主義とは?
ラオコーン,ヴァチカン美術館, Public domain, via Wikimedia Commons
写実主義は、目の前にある物質を模倣し、その様子を正確に作品に反映する芸術の考え方です。芸術を見たときに「描かれた対象に近ければ近いほど優れている」という考え方が根底にあります。
写実主義の定義は単純に思えて、実は複雑です。たとえば、古代ギリシャ彫刻は「写実主義」の例に取り上げられることがありますが、本当にモデルは彫刻のように豊満な身体/筋骨隆々だったでしょうか?
写実主義と類似した考え方の1つに「理想主義」があります。理想主義とは、対象を理想化して可能な限り「完璧な」状態として表現する芸術方法です。
リンゴの絵を描く際に、傷1つない美しいつややかな果物を表現することが理想主義。一方、目の前にある、傷ついて少し色がくすんだ状態を反映するのが写実主義、というイメージですね。
とくに19世紀中ごろのヨーロッパでは、理想化された表現ではなく現実に目を向ける考えが流行しました。汚れや欠損など不完全な状態も正確に投影することで、見たままの世界を表現する試みです。
写実主義と「模倣」の考え方
カラヴァッジョ,『果物籠』 , Public domain, via Wikimedia Commons
写実主義の芸術を鑑賞した際に「とても現実に忠実だ」と感じたとしても、それは完全な「模倣」と言えるでしょうか?
たとえば、写真を例にしてみましょう。写真は、現実世界に存在する物体の様子をそのまま反映することができます。可能な限り最大限の「模倣」です。
しかし、写真を現実の人間と勘違いする人は、いないはずです。写真は平面的で、コンパクトで、温度やにおいがありません。写真に反映された人物や動物は動きません。
ここに、芸術としての写実主義の限界があるのです。私たちが非常に精度の高い写実主義絵画を鑑賞する際に「模倣的だ」と認識するのは、あくまで「絵画作品として」という条件に基づいています。
写実主義の「模倣性」「写実性」の妥当性に対する疑問は、芸術理論におけて盛んに議論されてきました。1981年に描かれたマーク・タンシーの『イノセント・アイ・テスト』では、美術館で牛に絵を見せて反応を試すシーンが描かれています。
参考: Mark Tansey | The Innocent Eye Test | The Metropolitan Museum of Art
『イノセント・アイ・テスト』 は、「無垢な目」つまり動物の目を通して写実的な芸術作品を見た際に、現実と錯覚するほどにリアルか試す目的でした。作品を通して作者のタンシーが提示しているのは、「写実主義が写実主義たるためには、慣習や認知の基盤を必要とする」ということです。
写実主義は一番優れた芸術か?
クールベ,『こんにちは、クールベさん』 , Public domain, via Wikimedia Commons
写実主義をもっとも優れた芸術と評価する人は、少なくありません。しかし、実際のところ現実に忠実である芸術には、ここまで触れたようにいくつかの限界があります。
1つは「現実」の定義です。見たものを正確にそのまま描くのか、理想化して美しく整えた状態を描くのか。ありのままに描かれた芸術は、果たして美しいと評価されるでしょうか。理想化された表現においては、正しい「理想」を反映できているかは芸術家の個人的な解釈によります。
もう1つは、「模倣」は完全なコピーにはなりえない点です。絵画であれば、表現は常に2次元にとどまります。3次元を表現する彫刻であっても、温度やにおい、動作や音など、本物の物体には備わっている要素がほとんど含まれません。
「模倣」を優れた芸術であると考える写実主義は、古代からある芸術理論の1つです。現代においても写実主義を評価する考え方はもちろんあります。この記事が少しでも芸術理解の助けになれば幸いです。以上、芸術理論「写実主義」についてでした!
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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