STUDY
2023.11.21
レオナルド・ダヴィンチ『モナ・リザ』を理解する3つのポイント【名画解説】
モナ・リザは、イタリアの巨匠レオナルド・ダヴィンチが1503~1506年ごろに制作したパネル画です。女性の肖像画として一見シンプルなテーマの絵画ですが、象徴的で謎めいた側面をもち、歴史上もっとも有名な絵画の1つといえます。
目次
レオナルド・ダヴィンチ, 『モナ・リザ』, Public domain, via Wikimedia Commons
レオナルド・ダヴィンチの『モナ・リザ』はさまざまな憶測を呼ぶ不思議な作品ですが、美術史的な視点からも特別なポイントが多い重要な存在です。この記事では、イタリアの大学院で美術史を学ぶ筆者が『モナ・リザ』を理解するための3つのポイントを紹介します!
レオナルド・ダヴィンチ『モナ・リザ』概要
レオナルド・ダヴィンチ, 『モナ・リザ』, Public domain, via Wikimedia Commons
『モナ・リザ』は、フランチェスコ・デル・ジョコンドの妻リサ・ゲラルディーニがモデルであると言われます。そのためイタリア語では『ラ・ジョコンダ (La Gioconda)』、フランス語では『ラ・ジョコンドゥ(La Joconde)』と呼ばれることもあります。
『モナ・リザ』の「モナ」はMy Ladyの意味にあたるラテン語の「Mea domina」の短縮形であり、「My lady Lisa」という意味合いが込められています。レオナルド・ダヴィンチは亡くなるまで何年もかけてレタッチし続けたと言われ、X線分析の結果では現在表面に見えるモナ・リザの下に、少なくとも3つのバージョンが隠されていることがわかりました。
レオナルド・ダヴィンチが残した『モナ・リザ』はこれまでの伝統的な肖像画と大きく異なり、神秘的で精神的な美しさがありました。その美しさゆえか、価値ゆえか、『モナ・リザ』は盗難や破壊行為などさまざまな危機にさらされた歴史があります。
1911年8月20日から21日の夜にかけて、現在も『モナ・リザ』が保管されているルーブル美術館から作品が盗まれた事件は世界的に有名です。ルーブル美術館元職員であったヴィンチェンツォ・ペルッジャという男性が、『モナ・リザ』はナポレオンによってイタリアから盗まれたものであると確信し、イタリアに返すために犯行に及びました。
再びフランスに戻った『モナ・リザ』は現在でもルーブル美術館に所蔵されています。見どころの多いルーブル美術館のなかでもとくに目玉の作品であり、『モナ・リザ』の前にはいつでも長蛇の列ができています。
レオナルド・ダヴィンチ『モナ・リザ』ポイント①:技法「スフマート」
レオナルド・ダヴィンチ, 『モナ・リザ』, Public domain, via Wikimedia Commons
レオナルド・ダヴィンチ の『モナ・リザ』を理解するための重要なポイントの1つは「スフマート」と呼ばれる技法です。
『モナ・リザ』の革新性はさまざまな点から議論することができますが、なかでも非常にソフトな陰影は並外れて自然な人物表現を実現するキーとなっています。「スフマート」とは、人物の輪郭を明確に規定せず、光と色彩の繊細なグラデーションを用いて境界線を溶け込ませる技術です。
レオナルド・ダヴィンチが生み出した「スフマート」の技法は北イタリアを中心に浸透し、とくにヴェネツィア派と呼ばれる色彩を重視した芸術家たちに多大な影響を与えました。「スフマート」は人物像の輪郭だけでなく、ぼかしや明るさを調整することで遠近感を表現するためにも用いられます。
柔らかく曖昧な陰影表現により、絵画表面には筆跡がほとんど確認できません。レオナルド・ダヴィンチの『モナ・リザ』は「絵画」の限界を突破し、非の打ちどころのない雰囲気描写を確立した点において革新的な存在でした。
レオナルド・ダヴィンチ『モナ・リザ』ポイント②:表情
レオナルド・ダヴィンチ, 『モナ・リザ』, Public domain, via Wikimedia Commons
『モナ・リザ』で注目すべき2つめのポイントは、表情です。『モナ・リザ』の神秘的な表情は、優しいような怖いような、謎めいた印象を与えます。実在する女性リサ・ゲラルディーニの肖像でありながら、描かれた女性にはどこか神秘的で超自然的な雰囲気がありますね。
この点については、当時女性の理想像とされていた聖母マリアとの類似性を指摘する声があります。女性(リサ)の視線は観察者をまっすぐと見つめているものの、不思議な表情から伝わるメッセージは明確ではありません。
女性(リサ)は絵画と現実の境を曖昧にするほど、生きているかのような生々しく映ります。これは「スフマート」により輪郭が曖昧であるだけではなく、口角と目じりの微妙な表現が理由かもしれません。微笑んでいるのか?真顔なのか?一言で定義できない不思議な表情をしています。
まつ毛や眉毛がない点も、彼女のミステリアスな雰囲気を作る要因の1つでしょう。実は『モナ・リザ』の眉毛は、ヴァザーリ(16世紀の芸術家記録者)が詳しく記録に残している(眉毛が素晴らしいと賞賛)にもかかわらず、現在の作品に確認できないことから議論を生みました。
超高解像度スキャンによって、もともとまつ毛と眉毛が描かれていたものの、過剰なクリーニングにより徐々に消失したことが明らかになりました。500年以上の時代を通じて『モナ・リザ』が人々を魅了する理由はさまざまですが、彼女のあまりにリアルな表情と存在感は、間違いなくその理由の1つでしょう。
レオナルド・ダヴィンチ『モナ・リザ』ポイント③:背景
レオナルド・ダヴィンチ, 『モナ・リザ』, Public domain, via Wikimedia Commons
レオナルド・ダヴィンチが大きなこだわりを持って作成したと考えられる背景部分は、『モナ・リザ』を一層魅力的なものにしている要素の1つでしょう。レオナルド・ダヴィンチは多くのデッサンを残したことで知られており、とくにトスカーナの風景を描いたものが有名です。
『モナ・リザ』の背景にも、細やかな表現に基づいた精密な風景が描写されています。しかし、よく観察すると左右の背景は、同一の基準で描かれていないことがわかります。左側は明らかに右側よりも低い位置にあり、女性を隔てて異なる景色を示しているためです。
この不可解な不和は、専門家の間でも大きな議論を呼びました。背景が後世から加えられた可能性や、レオナルド・ダヴィンチが旅の道中で目にした風景を合成し理想化した場所である可能性などが唱えられています。
レオナルド・ダヴィンチの並々ならぬ細部へのこだわりを考慮するならば、完全に想像で描かれた風景というよりは実在する風景を参考にした(もしくはいくつかの風景を組みあわせた)と考えるのが妥当、という見方が一般的です。
レオナルド・ダヴィンチが鏡文字(裏表の文字)を常用していたように作中の背景を左右反転している可能性もあり、風景にある建物や自然景観からの場所特定は一層難しい課題として現在も残されています。
レオナルド・ダヴィンチの『モナ・リザ』は、今もなおさまざまな議論が交わされる謎多き作品です。ミステリアスで神秘的な本作を鑑賞する際は、スフマート、表情、背景の3つのポイントに注目してみてくださいね。以上、『モナ・リザ』解説でした!
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3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経て2021年秋よりイタリアの大学で美術史修士課程に進学予定。フリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経て2021年秋よりイタリアの大学で美術史修士課程に進学予定。フリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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