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2023.11.27

ボッティチェッリ『ヴィーナスの誕生』を理解する3つのポイント【名画解説】

『ヴィーナスの誕生』はイタリア・ルネッサンスの画家サンドロ・ボッティチェッリが1480年中ごろに制作した絵画です。日本ではファミリーレストランのサイゼリヤの装飾に使用されているため、馴染み深い方も多いのではないでしょうか。

『ヴィーナスの誕生』は、盛期ルネッサンスの芸術家らしいボッティチェッリの豊かな理想主義的表現が特徴です。この記事では、ローマの大学院で美術史を学ぶ筆者が、ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』を理解するための3つのポイントをわかりやすく解説します!

ボッティチェッリ,『ヴィーナスの誕生』, Public domain, via Wikimedia Commons

ボッティチェッリ『ヴィーナスの誕生』概要

ボッティチェッリ,『ヴィーナスの誕生』, Public domain, via Wikimedia Commons

『ヴィーナスの誕生』(172.5 cm × 278.9 cm)は、ボッティチェッリが残した作品のなかでももっとも有名なうちの1つです。対になっているわけではないものの、もう1つの大作『春(プリマヴェーラ)』とはセットで認識されることがよくあります。

いずれの作品も現在はイタリア・フィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されています。『春(プリマヴェーラ)』の方が数年早いものの、2作品はほぼ同時期に制作されました。

ボッティチェッリ,『春』, Public domain, via Wikimedia Commons

類似点が多い2作ですが、『春(プリマヴェーラ)』がパネル(木板)に描かれているのに対し、『ヴィーナスの誕生』はカンヴァスに描かれている点は特筆すべきでしょう。15世紀西洋ヨーロッパはまだパネル画が主流であったものの、カンヴァスを使用することもあった時代です。

ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』は非常に大きなカンヴァスを使用しています。(172.5 cm × 278.9 cm)当時イタリアでは田舎の別荘に飾るための作品制作が活発であり、人目に付きにくい別荘向けには、自由で世俗的なテーマが好まれました。

ほかにも、『ヴィーナスの誕生』にはボッティチェッリが通常使用する下地が欠落している特徴があります。ボッティチェッリはパネル画に人物像を描く際は、血色を良く見せるために緑の下地を塗っていました。

ボッティチェッリ『ヴィーナスの誕生』のポイント①:神話要素の革新性

ボッティチェッリ,『ヴィーナスの誕生』, Public domain, via Wikimedia Commons

『ヴィーナスの誕生』は、古代神話をモチーフにした作品であるという点において、革新的な存在でした。ルネッサンス期のイタリアでは、古典古代の偉大な文化に目を向ける潮流が生まれ、ギリシャ神話やローマ神話が多くテーマに選ばれるようになります。

さまざまな神話テーマを見慣れている現代の私たちにとっては、古典を引用した作品は珍しくありません。しかし長く続いた西洋中世においては、芸術はほとんどキリスト教関連テーマの専売特許と化しており、神話が題材になることはありませんでした。

『春(プリマヴェーラ)』や『ヴィーナスの誕生』は、非常に大きなスケールに古典神話が描かれた作品として、1480年中ごろの当時には前例のないものでした。

また『ヴィーナスの誕生』では主人公であるヴィーナスが裸体で描かれています。一般的にキリスト教芸術において裸体はタブー視される傾向が強く(イエスの磔刑像など例外はあり)、ことさら女性の裸体は、ほとんど描かれることがありませんでした。

ボッティチェッリ『ヴィーナスの誕生』のポイント②:絵画の寓意

ボッティチェッリ,『ヴィーナスの誕生』, Public domain, via Wikimedia Commons

『ヴィーナスの誕生』には『春(プリマヴェーラ)』同様、さまざまな解釈があります。そもそも依頼主がメディチ家の誰かである、いやメディチ家ではない…と議論がされている以上、依頼主の意図を想像することは簡単ではありません。

しかし現在の一般的な美術史研究の解釈では、『ヴィーナスの誕生』にボッティチェッリが込めた意味はそこまで難解ではないだろう、と見ることが一般的です。テーマはまさにヴィーナスが生まれた瞬間、伝統的なギリシャ神話の一場面を、独特な価値観で描いています。

中央にいる裸体の女性は、もちろんヴィーナスです。巨大なホタテ貝の上に立っていますが、ホタテは想像上の大きさでしょう。左側には風神ゼフィロスがヴィーナスに向かって風を送っています。ゼフィロスに抱えられた女性はおそらくアウラですが、定かではありません。

右側には女性が岸に立ち、貝の小舟でまさに地上に到達しようとするヴィーナスを迎えています。ゼフィロスが生んだ風はヴィーナスのホタテ小舟を岸に運んでいるのです。

地上に立つ右側の女性は、季節を区分するヴィーナスの従者の1人であり、ドレスの花模様から春の従者であるとわかります。総括すれば、「ゼフィロスの春風にのって誕生したばかりのヴィーナスが、花溢れる春に降り立つ」という作品です。

ボッティチェッリ『ヴィーナスの誕生』のポイント③:絵画技法

ボッティチェッリ,『ヴィーナスの誕生』, Public domain, via Wikimedia Commons

ボッティチェッリは間違いなくルネッサンスの芸術家に分類されますが、『ヴィーナスの誕生』にはゴシック的な雰囲気が認められます。ヴィーナスの身体の曲線は、自然で穏やかであるものの、身体の中心からはややズレているように感じるためです。

ヴィーナスの身体をよく観察すると、体重をきちんと両足で支えられていないことがわかりますね。貝に密接している左足はともかく、右足はほとんど浮いています。唯一体重を支えているはずの左足も、身体の重心をとらえてはいないようです。

ヴィーナスの身体のバランスを観察したのちもう一度絵画の全体像に目を向けると、ヴィーナスは完全な中央ではなく、右側に傾いている存在とわかります。

ゼフィロスの吹く風に押され、今にもバランスを崩して倒れてしまうかもしれないヴィーナス。一見完全な静性を宿しているように見える彼女は、実は次の瞬間にも待ち構える従者の腕に飛び込んでしまうほど繊細なバランスのうえに成り立っています。

細部を観察すると、作品全体の印象も変わって見えますね。この記事が少しでも『ヴィーナスの誕生』理解の役に立てば幸いです。以上、ボッティチェッリ『ヴィーナスの誕生』のポイント解説でした!


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はな

はな

イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。

イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。

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