STUDY
2021.9.6
西洋美術史を流れで学ぶ(第8回) ~初期ルネサンス編~
初めての方でも楽しく流れを掴めるよう、難しく語られがちな西洋美術史をフランクにお伝えするこの企画。第8、9、10回はこの後西洋美術の方向性が決まることになった大事件「ルネサンス」とその美術作品を紹介します。
第8回では初期のルネサンスについて。そもそもルネサンスってなんなのか。美術史においてどんな重要なことが生まれたのかを楽しくみていきましょう。
・関連記事:西洋美術史を流れで学ぶ(第7回) ~プロト・ルネサンス美術編~
https://irohani.art/study/4822/
目次
ルネサンスとは?「ローマ共和制を再生しようぜ」という運動
フィレンツェ VKras, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
「ルネサンス」とはイタリアで14世紀末くらいから始まった文化運動のことです。re(再び)naissance(誕生する)でルネッサンス。英語でいうとreborn……つまり「再生」「復興」を意味します。
何の復興を目指したのか、というと「古代ギリシャ・ローマ」です。「コロッセオで結党していた1000年以上前の時代に戻ろう!」といったわけですね。今でいうと十二単着て「皆の衆、ソシャゲなんぞやめて和歌を詠まぬか」と宣言するようなものです。
なんで、そんな大それた運動が起きたのか。それを説明するために、ルネサンス前後のヨーロッパをみていきましょう。
まずルネサンス以前の13世紀ごろまで、ヨーロッパの社会で最も力を持っていたのは「キリスト教会」でした。まだ「芸術家」という職業もないような時代。聖職者が業務の一環として教会の広告として宗教画を描く、みたいなノリで作品が生まれていたんですね。だから美術のパトロンは「国」と「教会」でした。
しかしそんなキリスト教会では権力争いなどが勃発します。聖職者とてしっかり喧嘩するんですな。それで教会の力が衰退しはじめ、反対に「市民」は教会の軍(十字軍)の資材の供給や東方諸国との貿易が栄えたことがあって元気になっていくんです。
Jean Colombe, Public domain, via Wikimedia Commons
特にイタリア・フィレンツェは繊維業や金融業で儲けに儲けました。その結果、フィレンツェ中の市民が起業して業界に参入したので1店舗ごとの売り上げが減りだしたんですね。それを嫌った金持ちたちは「ギルド」という商人組織を作り「ギルドが認めた人しか新規参入できないから!」と宣言しました。
すると当然、ギルドのパワーが強くなります。ギルドの代表者たちはついに「コムーネ」という自治国家を作るまでになるんです。この試みを成功させるため、かつて共和制で栄えたコロッセオやカラカラ浴場時代の「古代ローマ」の真似をしよう! となったんですね!
ただこの理由の他にもルネサンスが起きた理由はあります。
例えば「古代ローマ時代の遺跡が発見されてレトロブームが起きた」という背景もあります。シャツをズボンにインするブームみたいな感じですね。また反キリスト教ブームもあって「キリスト教が生まれたから、文化が進化しなかったんちゃうんか! キリスト教が発展する前の時代に戻ろうや!」みたいな考えもあったり……。実はルネサンスの背景や定義はいまだに学者によって見方が全然違います。
とにかくこうした背景が合わさった結果「もういっかい古代ローマの時代を復興しよう!」となったんですね。
初期ルネサンス美術とは! 理想主義から写実主義へ
では、ここからはそんなルネサンス美術について紹介します。日本人にも人気が高い時代ですね。
ルネサンス期の美術は時代として14世紀末~15世紀半ばまでの「初期ルネサンス美術」と15世紀半ばから16世紀の「盛期ルネサンス」に分かれます。また場所としてイタリア以外の「北方ルネサンス」もあります。
今回は「初期ルネサンス」について、そして次回に「盛期ルネサンス」、次の次に「北方ルネサンス」を紹介しましょう。
初期ルネサンスを語るうえで押さえておきたいのは「国(君主)」「教会」のほか第三のパトロン「市民」が出てきたことです。これまでは基本的に教会のために描いた宗教画ばっかりだったんですね。だから要するに「嘘でもいいからかっこよく描くこと」が重視されていました。
「なんか派手で神話っぽい」ですし「平面的」ですし「表情は基本的に真顔(フォーマット)」だったんです。
それが「市民(ただし金持ちに限る)」のために描くので「現実世界と実在する人」で「立体的」で「表情豊かな感情表現」となりました。よりリアルになったんですね。これを写実主義といいます。今でいうと「やらせの多いテレビより、正直なYouTube」みたいな感じですね。
ブルネッレスキによって確立した「線遠近法」
そのうえでまずブルネッレスキについて紹介します。彼はもともと彫刻家でのちに建築家となった人です。彼の最大の功績は何と言っても「線遠近法」を確立したこと。彼はすべての建築物の輪郭がすべて地平線(目線の高さ)にある「消失点」に集約されることを発見しました。
上の画像でいうと、地平線(目線の高さ)が赤線で、青丸が消失点です。この青丸に向かって側道や道路の白線、電柱、交通標識などを収束させるように描くと遠近感を模写できることを発見したんですね。
人体把握・感情表現のリアリティを追求したドナテッロ
また彫刻家として人体把握や感情の表現に努めたのが天才・ドナテッロ。彼はブルネッレスキとも親交がありました。ブルネッレスキはドナテッロの彫った像のリアリティにびっくりして「キリストがそのへんの農夫に見えるわ……すご過ぎ……」と驚いたといいます。
I, Sailko, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
上の作品は彼の晩期の傑作「マグダラのマリア」です。腕の筋肉の精密さ、何かを訴えかけるような表情はまさにルネサンスの精神性「写実主義」が分かると思います。
「空間性」「人体表現」「感情表現」を完成させたマザッチョ
ブルネッレスキの空間性や、ドナテッロの人体把握、感情表現を絵画に落とし込んだのがマザッチョです。間違いなく西洋美術史における大スターの1人です。
ちなみにマザッチョより100年前に写実性にチャレンジした画家はいました。それが前回、紹介したジョット・ディ・ボンドーネです。あらためて紹介しましょう。
Giotto, Public domain, via Wikimedia Commons
めっちゃ惜しいですよね。階段の遠近感の表現に関してジョットの苦労が見えるようで、私個人的にはこの絵を見るたびに「がんばれ!ジョットがんばれ!」と言いたくなります。
Giotto, Public domain, via Wikimedia Commons
またこの「聖フランチェスコの死」では悲しみが伝わります。「我らがフランチェスコ修道士が亡くなってしまった……」という辛い場面です。ただこれもまだちょっとぎこちないのは確かですね。
ではこのジョットから100年、マザッチョの絵を見てみましょう(めっちゃハードル上げてしまってマザッチョに申し訳ない)。
Masaccio, Public domain, via Wikimedia Commons
この「聖三位一体」では見事に消失点が設定されており、奥行きが出ているのがわかります。ちなみに当時「キリストを人よりも小っちゃく描くなんて罰当たりやぞ!」という声もあったようですが、ルネサンスではそれよりもリアリティが大事なんですね。
Masaccio, Public domain, via Wikimedia Commons ※ 左が修復前、右が1980年代に行われた修復後の画像
またこれはアダムとイヴが楽園を追放される場面を書いた「楽園追放」です。もうとんでもない後悔の念ですよね。「うわぁ~取り返しつかんことをやってしもうたぁ……」という声が聞こえてきそうです。
また男女の筋肉の表現、脇腹のつくりなども非常にリアルです。人体表現も写実性に富んでいます。この写実性、合理主義がルネサンス美術の特徴になります。
さて今回は初期のルネサンス美術について紹介しました。ルネサンスは長いので残りは次回にしましょう。「盛期ルネサンス」ではボッティチェリ、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロなどのスターが登場しますので、ぜひご覧ください。
▼西洋美術史を流れで学ぶ(9回) ~盛期ルネサンス編①~
https://irohani.art/study/4966/
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アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。
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