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2022.8.11
【絵画技法】フレスコ画って?描き方、特徴、作品鑑賞のコツを徹底解説
フレスコ画は、壁に直接絵を描く技法の1つです。
ヨーロッパにおいては宮殿や教会の装飾としてよく用いられますが、その技法は歴史の中で変化してきました。
メロッツォ・ダ・フォルリのフレスコ画(撮影:Fallaner), CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
この記事では、ローマの大学院で美術史を専攻している筆者が、フレスコ画の描き方や作品の特徴、代表作品について解説します。
フレスコ画の描き方
フラ・アンジェリコ『受胎告知』, Public domain, via Wikimedia Commons
フレスコ画の由来でもある「フレスコ」は、イタリア語で「フレッシュな」という意味の言葉です。
フレスコ画は、漆喰と石灰の化学変化を利用して色を壁に載せていきますが、漆喰が乾いてしまうとこの化学変化は発生しません。
つまり、漆喰が濡れているフレッシュな間に絵画を仕上げなければならないことから、「フレスコ」という名前がつけられました。
絵画をなるべくきれいに仕上げるために、下塗り、範囲決め、下絵などの準備工程を経たのちにやっと色付けの工程に入ることができます。
漆喰が乾く前に顔料を壁に塗ると、色がそのまま定着して作品が出来上がります。
壁画は広範囲に及ぶことも多く、その場合は1日で漆喰が乾く前に作業ができる範囲を決め、計画的に描いていくことが大切です。
中世には、足場の高さに応じ水平の帯に沿って進められた「ポンターテ」と呼ばれる方法が主流でした。
壁画の下から上に向かって横長な色付け範囲を一度に仕上げる必要があったので、複数の職人が同時に作業をすることもありました。
13世紀以降には、1日の作業範囲を水平な区切りではなく、人物像や背景の輪郭に沿って規定する「ジョルナーテ」と呼ばれる方法が登場します。
ジョルナーテは、これまでのフレスコ画によく見られた不自然なつなぎ目(作業日が異なることによって生まれる)をなくし、より均一な絵画制作を可能にしました。
フレスコ画の特徴
マサッチオ『貢の銭』, Public domain, via Wikimedia Commons
フレスコ画の最大の特徴は、一度顔料が定着するとその色彩は数百年、数千年維持されるという点にあります。
実際、2万年前に描かれた世界最古の洞窟壁画であるラスコー洞窟・アルタミラ洞窟の壁画は、フレスコ技法の一種で描かれています。
ラスコー洞窟(フランス)の壁画, Public domain, via Wikimedia Commons
フレスコ画には、化学変化を利用した顔料の定着は強度が高いというメリットがある一方で、使える顔料の種類が少ないというデメリットもあります。
そこで中世以降のヨーロッパでは、フレスコ技法を「アセッコ」と呼ばれる他の絵画技法と並行して用いることがよくありました。
アセッコ(乾燥技法)は、漆喰が濡れている状態で顔料を載せるフレスコ画とは異なり、乾いた漆喰の上に色付けをしていきます。
アセッコの特徴はフレスコ技法よりも利用できる顔料の種類が多い点にあり、色が単調になりやすいフレスコ技法と併用することで、色彩表現の幅を広げることができます。
ただしアセッコはフレスコ技法のように化学変化を利用した着色ではないため、色の安定性においてはフレスコに遠く及びません。
そのためヨーロッパの壁画では、重要性の高い人物像などの部分にはフレスコ技法を用い、その他の背景や装飾部分にアセッコの技法を用いることがよくあります。
フレスコ画のもう1つの弱点は、「湿気」に弱い点です。
壁面に直接化学変化を起こして顔料を定着させるフレスコ画は、壁自体が湿気などの影響で変形すると絵画層が剥がれ落ちてしまうことがあります。
参考:シエナ大聖堂地下聖堂(イタリア)(撮影:Sailko), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
これは、壁面の小さな穴に入り込んだ水分が乾燥とともに塩分の結晶を作ることで、絵画層を物理的に破壊するために起こる現象です。
湿度の高い場所に描かれたフレスコ画は、パネル画やカンバス画と異なり容易に場所を移すことができません。
ラスコー洞窟のように一定の気温と湿度が保たれることは、フレスコ画をよい状態で保存するための重要な条件となります。
フレスコ画鑑賞のコツ
ラファエロ・サンティ『アテナイの学堂』, Public domain, via Wikimedia Commons
筆者の住んでいるイタリア・ローマには、フレスコ画の代表的な作品群があります。
それは、ヴァチカン宮殿の『ラファエロの間』と『システィーナ礼拝堂』です。(正確にはローマではなくヴァチカン市国内ですが…)
『ラファエロの間』はラファエロが、『システィーナ礼拝堂』はミケランジェロが残したフレスコ画であり、いずれもルネッサンスの最高傑作と言えるでしょう。
諸説ありますが、現在研究者の間ではラファエロにとって『ラファエロの間』の「アテネの学堂」がローマで最初に取り組んだフレスコ画だったと考えられています。
作品の下地に、石灰のひび割れが確認できるためです。
これは、ラファエロが地元ウルビーノで用いていたフレスコ下地の配合がローマの素材に合わず、思いがけないひび割れを生んだものと推測されています。
実際、それ以外の『ラファエロの間』の作品群には、同じようなひび割れはなくラファエロがローマ式のフレスコ技法に適応したことを意味しています。
一方、『システィーナ礼拝堂』のミケランジェロによる天井画「創世記」は、彫刻家であったミケランジェロが初めて手掛けたフレスコ画だったと言われています。
実はライバルであった建築家ブラマンテは、ミケランジェロが経験のないフレスコ画で失敗することを期待して教皇ユリウス2世に彼を推薦したのでした。
しかし実際にはミケランジェロは驚くべき才能を発揮し、建築と見事に調和した天井フレスコ画を完成させ、周囲を驚かせることになります。
フレスコ画は化学変化に基づく絵画技法であり、漆喰が乾く前に素早く作業する技術が求められます。
やり直しのきかない緊張感の中で芸術家が作業していたことを思うと、なんだかハラハラしてしまいます。
フレスコ画を鑑賞する際は、これらの芸術家の緻密な計算と準備を想像しながら作品を楽しんでみてくださいね。
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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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