STUDY
2022.9.7
青は高貴な色だった?超高級顔料の原料『ラピスラズリ』の歴史と特徴を徹底解説!
美術に関心のある人なら、「青色が高貴な色だった」という話をどこかで聞いたことがあるかもしれません。
まだ現在のように化学変化で新しい色を調合することのできなかった時代、自然界から美しい青色を持つものを見つけることは、簡単ではありませんでした。
目次
Hi-Res Images ofChemical Elements, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons
今回の記事では、中でも価値の高かった「ラピスラズリ」について、ローマの大学院で美術史を専攻している筆者が解説してきます。
希少鉱物『ラピスラズリ』とは?
Hannes Grobe, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons
ラピスラズリ(lapis lazuli)とは、藍色に近い深い青色をもつ石で、ラズライトと呼ばれる鉱物を主成分としています。
非常に希少で世界的に産地が少なく、いくつかの鉱山で採取することができるもののそのほとんどがアフガニスタン産のものでした。
ラピスラズリから精製された顔料=天然ウルトラマリン
ラピスラズリは石そのものを指す言葉で、ラピスラズリから作られた絵画用の顔料(着色に用いる粉末のこと)は『天然ウルトラマリン』と呼ばれます。
ウルトラマリンとは「海(地中海)を超えて来たもの」という意味が込められており、歴史の中でこの顔料が中東からヨーロッパに運ばれてきたものであることを示しています。
現在は安価な『合成ウルトラマリン』も存在
現在では『天然ウルトラマリン』に近い色味を人工的に作ることに成功し、『合成ウルトラマリン』という顔料が存在します。
しかし、それでも天然のラピスラズリからとれる深く美しい青色は特別な色だと考える芸術家はいまだに多く、現在でも天然ウルトラマリンは高価な顔料として取引されています。
『ラピスラズリ』の青は権力の象徴
Adam Ognisty, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
『ラピスラズリ』は高貴な色
ラピスラズリの鮮やかな色彩は他の鉱物や天然顔料では再現することが難しく、ラピスラズリの青色を作品に使うことができるのは、権力の象徴でもあります。
特に古代エジプトや中世以降のヨーロッパ世界ではその希少さと美しさから、ラピスラズリは高貴な色として大切にされてきました。
ヨーロッパにおいてはその価値が金を上回る場合もあり、作品の中にたくさんのラピスラズリを使用するためには莫大な資金が必要でした。
そのため、一般的には王族や有力貴族、教会から依頼された作品でしか使用されることがありませんでした。
ラピスラズリを入手することができずに作品が未完に終わったり、入手して完成したもののそれが原因で借金まみれになってしまったりすることもあったそうです。
世界一大きなラピスラズリはどこにある?
イタリア・ローマにあるイエズス会総本山のジェズ教会には、おそらく世界一大きなラピスラズリの球体があります。
イエズス会を創設したイグナティウス・ロヨラの墓の上部に設置され、青色の丸い球体は世界を象徴しています。
参考:ロヨラの祭壇(ローマ・ジェズ教会)(Author:Simo ubuntu), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
これほど大きなラピスラズリを手に入れることができるのは、当時のイエズス会の権力がいかに強大であったかを示していますね。
聖母マリアと『ラピスラズリ』
ラファエロ・サンティ『聖家族、あるいはラ・ペルラ』, Public domain, via Wikimedia Commons
聖母マリアの“青い”マント
ラピスラズリは非常に希少で高価な石であったので、その使い先も慎重に選ばれました。
青い部分はなんでもかんでもラピスラズリというわけではなく、その価値にふさわしい人にこの色を使おうという風潮があったわけです。
その最大の例が、聖母マリアです。
中世以降のヨーロッパでは、聖母のまとうマントにラピスラズリを使う伝統がありました。
参考:ラファエロ・サンティ『フォリーニョの聖母』, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
参考:フラ・アンジェリコ『受胎告知』, Public domain, via Wikimedia Commons
「フェルメール・ブルー」はラピスラズリから作られた!
そんな、革新的な挑戦をしたのがフェルメールでした。
フェルメールは、イエスや聖母マリアなどのキリスト教の重要な人物や、王族や貴族などの権力者以外の人物に対し、大量のラピスラズリを使用したことで知られています。
参考:ヨハネス・フェルメール『牛乳を注ぐ女』, Public domain, via Wikimedia Commons
これは彼が、資産家でありラピスラズリの調達ができるだけの財力がある家庭の出身であったからでしょう(その後家族は借金まみれになったとも言われる)。
ヨーロッパの歴史において計り知れない価値を持っていたラピスラズリは、作品の価値をも大きく左右する存在でした。
芸術家は作品の腕を磨くだけでなく、時には絵具の調達にも苦心していたのですね。
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3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経て2021年秋よりイタリアの大学で美術史修士課程に進学予定。フリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経て2021年秋よりイタリアの大学で美術史修士課程に進学予定。フリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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