STUDY
2022.11.7
テルマエ・ロマエの世界!ローマの大浴場遺跡の歴史と建築様式を解説
ローマと日本の温泉文化をテーマにした『テルマエ・ロマエ』は、マンガ、アニメ、映画と様々な媒体で発表されるほど人気を博しました。
作中にも古代ローマ帝国の温泉文化について触れるシーンはたくさんあり、いかに古代ローマ人が温泉を愛していたかを感じられますよね。
古代ローマ帝国においては、温泉文化は非常に重要で、浴場として数多くの荘厳な温泉が建設されました。
この記事では『テルマエ・ロマエ』に登場するような古代ローマの大浴場の中から、現在もローマに実在する「カラカラ浴場」と「ディオクレティアヌス浴場」の歴史と建築様式を紹介します。
目次
テルマエ・ロマエさながら!ローマの温泉文化
Edmond Jean-Baptiste Paulin (10 September 1848 - 27 November 1915), Public domain, via Wikimedia Commons
『テルマエ・ロマエ』の意味とは?
『テルマエ・ロマエ』のテルマエとは、ラテン語で温泉(複数形)を意味し、ロマエはローマの(複数形)の意味があります。
つまり『テルマエ・ロマエ』とはそのまま「ローマの温泉たち」という意味になりますが、現代のイタリア語でもテルメ(温泉・複数形)という単語が残っています。
ローマの中心地にある「テルミニ駅」はこの「テルメ」という単語から派生した言葉で、駅の目の前にあるディオクレティアヌス浴場を指しています。
実際にはどのように利用されていた?
裕福な古代ローマ人によって大浴場に足を運ぶことは1日の中でも非常に重要な時間で、一般的に奴隷を1人連れてきて身の回りの世話をしてもらいました。
浴場の中ではS字型の「肌かき器」と呼ばれる道具を用いて、肌に塗ったオイルとともに体の汚れを落としました。
この肌かき器は「汚れを落とす」ことの象徴とされ、古代ローマ時代の石棺のデザインによく用いられました。
死後の世界を想定し、この世の罪を洗い流すようなイメージだったのでしょうか。
今も実在する!ローマの温泉①カラカラ浴場
参考:カラカラ浴場内部の想像図, Public domain, via Wikimedia Commons
古代ローマ帝国の温泉として最大級のものとして有名なのが「カラカラ帝の大浴場」です。
カラカラ浴場は現在もローマに遺跡として残っており、完全とはいえないまでもその巨大さが十分伝わるほどの建築を残しています。
カラカラ浴場は212年から216年にかけて建設され、長さ225m・幅185m・高さは38.5mという驚きのサイズでした。
浴場内に用意された施設とは?
浴場内に設置された浴槽の数は2000~3000個程度だったと言われ、冷室、温室、熱室、そして現代でいうところのジムのような施設まで用意されていました。
古代ローマ人には昨今日本でブームになっている「サウナ文化」に近いものがあり、熱く乾燥している部屋と温かいお湯と冷水を行ったり来たりして楽しんでいたようです。
カラカラ浴場の遺跡はこんな外観
カラカラ浴場の遺跡, Chris 73, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
カラカラ浴場は現在では茶色いレンガの積み上げになっていますが、当時は全体的にモザイクや大理石で装飾が施されていました。
今でもカラカラ浴場には、一部残ったモザイク装飾を見ることができます。
今も実在する!ローマの温泉② ディオクレティアヌス浴場
テルミニ駅の正面にある存在感の強い遺跡は、ディオクレティアヌス浴場です。
306年に建設されたカラカラ浴場と同じくらいの大きさの浴場で、こちらも当時は豪華絢爛な内部装飾が施されていました。
内部は博物館になっており、周辺で発掘された古代の生活用品や、古代ローマから初期キリスト教時代までの貴重な石棺などが展示されています。
ディオクレティアヌス浴場は今でも比較的良い状態で建築が残っており、内部に入ってその巨大な建物の全貌を見ることができます。
浴場の一部は教会に転用。設計はルネッサンスの巨匠・ミケランジェロ!
NikonZ7II, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ディオクレティアヌス浴場の一部は、ルネッサンス期にキリスト教会として転用され、現在ではサンタ・マリア・デッリ・アンジェリ教会となっています。
実はこの教会はルネッサンスの巨匠ミケランジェロが設計をしたもので、古代の浴場の遺跡をあえて壊さず、そのまま教会に利用したことで知られています。
教会には無料で入ることができ、内側から見るといかに古代ローマ人のインフラ技術が高い水準にあったかを感じることができます。
天井が少しドキッとするほど高く、無駄な柱が一切ない広々とした空間を生み出せるのは、巨大な建造物を最小限の柱や壁で建てる技術があるからこそ。
ミケランジェロが敬意をもってオリジナルの構造の大部分を残したのも、納得の荘厳さです。
まとめ:浴場は一大娯楽施設として利用されていた
古代ローマ人にとっての浴場は、身体を洗う場所というだけではなく一大娯楽施設でした。
市民が喜ぶような娯楽施設を作れば支持率は向上したので、皇帝たちが技術を駆使して豪華な浴場を作ったというわけですね。
テルマエ・ロマエの世界にみるような古代ローマの浴場文化は、帝国の技術力の結晶でもありました。
ローマを訪れた際は、ぜひ浴場遺跡にも足を運んでみてくださいね。

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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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