STUDY
2023.5.19
「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が待ちきれない!【第1回】建築家・ガウディの人生
スペインが誇る天才ガウディは、現在でもカタルーニャの代表的な建築家として今も国内外から愛されています。ガウディのあまりに独創的で自由な建築は、ときに“狂人”と周りに言われるほど斬新なものでした。
東京国立近代美術館では、2023年6月13(火)から9月10日(日)まで『ガウディとサグラダ・ファミリア展』が開催されます。そこでイロハニアートでは、展覧会をより楽しむための解説記事を全6回にわたってお送りします。
第1回となる今回は、建築家ガウディの人生についておさらいしてみましょう。
ガウディの人生①:天才か狂人か
1878年に撮影されたガウディ, Photo by Pau Audouard Deglaire, Public domain, via Wikimedia Commons
アントニ・ガウディ(1852年6月25日 - 1926年6月10日)は、スペイン・カタルーニャ出身の建築家です。「カタルーニャ」とはスペイン北東部の地中海沿岸の地域で、バルセロナを含む一帯を指します。
ガウディは19-20世紀にバルセロナを中心に活動し、代表的な建築物には『サグラダ・ファミリア』『カサ・ミラ』『カサ・バトリョ』『グエル公園』などが挙げられます。
病弱だったものの、ガウディは幼い頃から自然への注意深い観察眼を持つ子どもでした。19歳からはバルセロナ建築高等技術学校で学び、在学中からすでに建築事務所で仕事を始めています。同校の校長はガウディを見て「彼が狂人なのか天才なのかはわからない、時が明らかにするだろう」と言ったとされます。
26歳で建築士の資格を取得すると、パリの博覧会で出展したショーケースが富豪エウセビオ・グエルの目にとまり、依頼を受けるようになります。グエルから受けた依頼は、グエル邸、コロニア・グエル教会地下聖堂、グエル公園などで、40年間にわたりガウディのパトロンであり続けました。
ガウディの人生②:モデルニスモ
ガウディが54歳の時に設計した『カサ・ミラ(Casa Milà)』,Photo by Jens Cederskjold, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons
ガウディが活躍し始めた時代は、フランスの「アール・ヌーヴォー」と呼ばれる芸術が人気を集めていました。「アール・ヌーヴォー」とはフランス語で新しい芸術という意味の言葉です。
アール・ヌーヴォーは花や植物など有機的なデザインに曲線を組み合わせ、従来の型にはまらない自由な装飾を追求した美術運動です。芸術や工芸品においてとくに用いられました。
アール・ヌーヴォー作品,Composition work : asmoth, asmoth on wikipediaAuthors of original images : (from top left to bottom right) : Camille Martin (1861 - 1898), uploaded by SkeJean-Louis VenetGuillaume Baviere, uploaded by Paris 16GuerinfWolfgang MoroderEugène Samuel Grasset, uploaded by JustlettersandnumbersMyrabellaSage Ross, Public domain, via Wikimedia Commons
一方ガウディが活動していたスペインでは、「モデルニスモ」と呼ばれるアール・ヌーヴォーに近い芸術が生まれます。いずれの美術運動においても、自然モチーフを作品に取り入れることや、新しい素材を伝統的な素材に組み合わせる革新性が重視されました。
アール・ヌーヴォーと比較した際のモデルニスモの特徴は、イベリア半島独自のムデハル様式の影響を受けている点です。ムデハル様式とは、かつてイスラム圏だったスペインやポルトガルに残るヨーロッパとイスラムの文化が融合した芸術様式を指します。
参考:ムデハル様式のサン・ペドロ教会(スペイン・テルエル),Photo by José Luis Mieza from Manresa, Spain, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
ガウディの人生③:晩年は敬虔なカトリックに
Photo by Yeagov, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ガウディは若い頃はそれほど熱心でなかったにもかかわらず、 年を重ねてからは断食を行うほど敬虔なカトリック教徒になりました。ガウディの宗教観の変化は、教会であるサグラダ・ファミリアの建築に携わったことが一因と言われます。
1914年以降はキリスト教関連の仕事以外は受けず、さまざまな理由で中断しながらもサグラダ・ファミリアの建築に集中しました。
ガウディの人生④:後世の建築家への影響
サグラダ・ファミリア,Photo by Ank Kumar, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ガウディの独創的なデザインは、後世の多くの建築家に影響を与えました。ガウディはカタルーニャ・モデルニスモの代表的な建築家であり、設計技術においても装飾においても影響力は多大でした。
ガウディは設計図の代わりに模型を多く作成し、とくに網状の糸で作った「逆さ吊り模型」の手法は、現在の建築界でも使われるものです。糸で建物の構造を作り逆さにすると、重力で下に伸びた糸が建物の形になります。そこに生まれた構造を上下反転すれば、自然と重心が安定した構造が作れる技法です。
また、ガウディは実用的な家造りにも取り組んでいました。ドアや窓部分に換気口を付けることで、上昇気流によって風が通る仕組みです。この構造のため、暑いバルセロナの夏でも空気が通り比較的快適に過ごすことができます。
美しさとエコを兼ね備えるガウディの建築は、21世紀の建築家にとっても学ぶ部分が多いようです。
この記事が少しでも、天才ガウディを理解する手助けになれば幸いです。ぜひ『ガウディとサグラダ・ファミリア展』では以上の前提をもとに展示を鑑賞してみてください。
▼「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が待ちきれない!【第2回】建築を理解するための3つのポイント
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展覧会情報
開催期間:2023年6月13日(火)~9月10日(日)
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
開館時間:10:00~17:00(金・土曜日は20:00まで)
休館日:月曜日(ただし7月17日は開館)、7月18日(火)
公式サイト:https://gaudi2023-24.jp/

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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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