Facebook X Instagram Youtube

STUDY

2025.10.20

【配信映画3選】ドキュメンタリーでめぐる美術館!ナショナル・ギャラリーからプラド美術館まで

ナショナル・ギャラリー、ウィーン美術史美術館、プラド美術館。どれも世界屈指の美術館で、それぞれにドラマと受け継がれてきた収蔵品があります。そこで、美術館そのものの魅力や働く人々の想いに迫った美術館映画を3本ご紹介します。

美術館映画①『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2015)

参照:https://eiga.com/movie/80542/

イギリスの国立美術館、ナショナル・ギャラリーは、世界最高峰と称される美術館です。13世紀から19世紀までの作品2,300点以上が所蔵されています。一般の美術後援家が収集した絵画に由来するコレクションです。

本作の監督を務めたフレデリック・ワイズマンさんといえば、『パリ・オペラ座のすべて』『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』などで知られる、ドキュメンタリー映画の巨匠。映像素材が淡々と流れる構成なので、最初は退屈に感じるかもしれません。でも、シンプルだからこそ、美術館で流れる物語に身を任せる、そんな贅沢さにどっぷり浸れると思います。

「観客のニーズが何で、いかにそれに応えていくか」という課題意識から、ナショナル・ギャラリーでは様々なプログラムが実施されています。ロイヤル・バレエ団とのコラボレーション、専門家のギャラリートーク、ヌードデッサンのワークショップ......。

特に知的好奇心が満たされるのは、専門家によるギャラリートーク(展示室内で行われる解説)です。情景が目に浮かぶような、分かりやすくて面白い説明。
「あなた方の興味あることは全て美術に含まれています」という語り。思わず美術館のギャラリートークに行ってみたくなりました。

また、利用者のニーズにも視点を向ける、ユニークな取り組みが登場します。目の不自由な参加者たちに渡されるのは、カミーユ・ピサロ《夜のモンマルトル大通り》の複製画。線の部分を立体的に印刷したもので、みなさん面白そうに触っていました。

司会者の女性が、作品の情景を解説し始めます。「同時代の画家ならば、バルコニーを加えるなど、画家の位置を示したはずです。この絵には窓枠もなく、画家の存在を感じません」。

「解釈を語る」ことは、フレデリック・ワイズマンさんのスタイルに似ており、だからこそ彼はナショナル・ギャラリーに心惹かれたのかもしれません。

カミーユ・ピサロ《夜のモンマルトル大通り》(1897)/ナショナル・ギャラリーカミーユ・ピサロ《夜のモンマルトル大通り》(1897)/ナショナル・ギャラリー, Public domain, via Wikimedia Commons.

あらゆる興味関心は美術につながっています。「アートって難しそう」と感じる方は少なくありません。でも、どんな出発点からでも美術は楽しめるし、入口は広く開かれているのです。『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』がそう教えてくれました。

美術館映画②『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』(2016)

参照:https://eiga.com/movie/84685/

ウィーン美術史美術館は、ハプスブルク家の歴代コレクションを展示するため、フランツ・ヨーゼフによって建設されました。ヨーロッパ三大美術館の1つとして知られ、2026年に創立135周年を迎えます。

この映画は、2012年から実施された大規模改装の密着ドキュメンタリーです。総館長をはじめ、清掃員、修復家、美術史家など、美術館に携わるスタッフたちを中心に、美術館が進化していく姿を映し出しました。

解説やインタビュー、音楽が一切なく、ただ美術館と人々が共存する様子だけが流れる時間。「ダイレクトシネマ」という手法だそうです。そのおかげで、観客は舞台裏を集中して味わえると思います。

ある外国人修復家の言葉が胸に残っています。

「この美術館で働くとハプスブルク家が重荷になる、伝統の重みだよ。ここの同僚の”国家への思い”を知れば知るほど、重荷に感じられる」

「我々はハプスブルク家の遺産を所蔵し、管理し、展示している。問題は我々がどんな意識でいるかだ。この家の芸術を伝える忠実な下僕だと思うか、それとも自覚を持った現代人だと割り切るか」

各分野のプロフェッショナルが働く美術館。喜びや誇りだけでなく、プレッシャーや不満を感じることだって、きっとあるはずです。わたしたちが1分で立ち去る展示物だとしても、その裏には「人の想い」が宿っているのだと、心の底から分かった気がします。

映画で複数回登場するのがピーテル・ブリューゲル《バベルの塔》です。現存する同名絵画は2点ありますが、ウィーン美術史美術館にあるのは「大バベル」と呼ばれるバージョン。1604年にはハプスブルク家が所有しており、まさに「伝統の重み」が伝わってきます。

ピーテル・ブリューゲル(父)《バベルの塔》(1563)/ウィーン美術史美術館ピーテル・ブリューゲル(父)《バベルの塔》(1563)/ウィーン美術史美術館, Public domain, via Wikimedia Commons.

ウィーン美術史美術館は、5,000年分の王室コレクションを堪能できる、ヨーロッパ屈指の場所です。総館長ザビーネ・ハークさんは「この美しさを世界と分かち合いたいんです」と、愛おしそうな表情で語ります。たくさんの人が愛し、こだわり、ベストを尽くし続ける空間で、建築物や展示品と悠久の対話をしてみたいと思いました。

美術館映画③『プラド美術館 驚異のコレクション』(2020)

参照:https://eiga.com/movie/92283/

マドリードに位置するプラド美術館は、主に歴代の王室コレクションを収蔵しています。特別な戦略はなく、国王や王妃が心の赴くままに収集した作品たちは、開館200周年を迎えた今も、わたしたちに美の喜びを教えてくれます。

本作の特徴といえば、ティツィアーノ、ルーベンス、ボス、ベラスケス、ゴヤなどの傑作群に、カメラがぐっと接近していること。画面いっぱいに、次々と有名作品が登場するので、見終わると「え、美術館で1日過ごしたみたい!」という気持ちになりました。映像を止めて絵画に見入ったり、気になったことを調べたりしていると、あっという間に時間が過ぎていきます。

作中では数え切れないほどの絵画が登場しますが、わたしが最も関心を持ったのはピーテル・パウル・ルーベンス《三美神》です。女優マリナ・サウラさんが思い出の作品として紹介していました。

ピーテル・パウル・ルーベンス《三美神》(1630〜1635)/プラド美術館ピーテル・パウル・ルーベンス《三美神》(1630〜1635)/プラド美術館, Public domain, via Wikimedia Commons.

マリナさんの父で、画家・作家だったアントニオさんは、プラド美術館が大のお気に入りで、3人の娘たちと毎週訪れていたそうです。ある日、姉妹を「三美神」と呼んでいたのがきっかけで、本物を見に行くことに。でも「描かれていたのは、ものすごくふくよかな金髪の女性たちだったから、ガッカリした」と、マリナさんは楽しそうに話します。

このエピソードを聞いて、わたしの胸は高鳴りました。本物を見たからこそ、幼いマリナさんの感情は「想像と違ってガッカリ」と動いたのでしょう。たいていの物事は画面上で見られる今、美術館に行く喜びはここにあるのかもしれない、と気付かされました。

2025年も、プラド美術館は類まれな美術品の宝庫として、世界中の人々を魅了しています。スペインの風土に根付きながら、芸術にまつわる学びの機会をすべての人に開いているのです。これは、芸術を愛するスペイン王家からわたしたちへの、「美の喜びのおすそ分け」なのだと思います。

スクリーンの先に広がる、果てしない美術館の世界

3つの映画を通じて、美術館は人の営みが絶えず流れ続ける場所だと感じました。作品を守る人、語る人、見つめる人......。それぞれが集まって初めて、美術館という物語が形づくられているのです。

芸術は人とともに生き続けています。だからこそ、美術館へ足を運ぶことも、映像を通して訪れることも、世界を見つめ直す時間になるはずです。スクリーンの中に広がる美の海原へ、一緒にお出かけしてみませんか?

参考

・フレデリック・ワイズマン『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2015)
・ヨハネス・ホルツハウゼン『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』(2016)
・バレリア・パリシ『プラド美術館 驚異のコレクション』(2020)

【写真3枚】【配信映画3選】ドキュメンタリーでめぐる美術館!ナショナル・ギャラリーからプラド美術館まで を詳しく見る イロハニアートSTORE 50種類以上のマットプリント入荷! 詳しく見る
神谷小夜子

神谷小夜子

  • homepage

ライター。若手社会人応援メディアや演劇紹介メディアを中心に活動中。ぬいぐるみと本をこよなく愛しています。アート作品では特に、クロード・モネ《桃の入った瓶》がお気に入りです。

ライター。若手社会人応援メディアや演劇紹介メディアを中心に活動中。ぬいぐるみと本をこよなく愛しています。アート作品では特に、クロード・モネ《桃の入った瓶》がお気に入りです。

神谷小夜子さんの記事一覧はこちら