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2023.12.25
フェルメール『真珠の耳飾りの女』の特徴は?見どころをわかりやすく解説
フェルメール不朽の名作『真珠の耳飾りの女』は、世界もっとも有名な西洋画の1つです。特徴的な青いターバンを巻いていることから、『青いターバンの女』と呼ばれることもあります。
『真珠の耳飾りの女』は、一見シンプルな肖像画です。しかし、並外れた美しさからさまざまな憶測を呼んだ作品でもあります。
フェルメール『真珠の耳飾りの女』, Public domain, via Wikimedia Commons
この記事では、イタリアの大学院で美術史を研究する筆者が、フェルメール『真珠の耳飾りの女』の特徴や見どころを解説します!
フェルメール『真珠の耳飾りの女』の歴史
フェルメール『真珠の耳飾りの女』, Public domain, via Wikimedia Commons
『真珠の耳飾りの女』は、オランダの画家ヨハネス・フェルメールによって1665年頃の描かれた絵画です。17世紀中ごろのこの時代は、オランダの黄金時代と呼ばれ、『真珠の耳飾りの女』以外にも多くの名作が生まれました。
作品の大きさは比較的小さく、高さ44.5㎝×幅40㎝です。これほど有名な絵画でありながら、作品のテーマについて明確にわかっていることは多くありません。
まず作品のモデルは、実在した女性を描いたという説と、理想化された想像上の女性を描いたとする説の両方があります。実在する女性であるとする場合、フェルメールの長女マリアがモデルだったと考える美術史家がいる一方で、制作年代が1665年頃であるとすれば、長女がモデルである可能性は低いとする見方もあります。
そもそも制作年代は作品に明記されておらず確実な史料も残っていないため、確実に1665年に制作されたというわけではありません。ただ、作品にサインが残っているため、少なくとも作者はフェルメールとわかります。
フェルメール『真珠の耳飾りの女』の特徴
フェルメール『真珠の耳飾りの女』, Public domain, via Wikimedia Commons
『真珠の耳飾りの女』の特徴は、明確な陰影と優しくつややかな女性の表情です。絵画に向かって左側から当たっており、全体的に薄暗い環境のなかで明確なメリハリを生んでいます。
『真珠の耳飾りの女』の女性には、眉毛がないことがしばしば指摘されます。眉毛がない理由は、現実の女性ではなく理想化された女性を現したためでしょうか?
また、作品のタイトルにもなった「真珠の耳飾り」が真珠にしては大きすぎると考える美術史家もいます。真珠の輪郭がぼやけている、イヤリングになるための吊るしがない、などの理由からも、理想上の装飾品である可能性を否定できません。
眉毛がない理由は、退色して消失してしまったのか、もともと描かれていなかったのか定かではありません。2018年の 調査によれば、すくなくとも女性には繊細なまつ毛が描かれていたとがわかりました。
このように、現実のモデルを描いたわけではないという説を裏付ける要素はいくつかありますが(真珠が大きすぎる、眉毛がないなど)確実に理想化された存在を描いたとは言い切れない状態です。これほどまでに有名な作品でありながら、『真珠の首飾りの女』は今でも謎多き作品であり続けているのです。
フェルメール『真珠の耳飾りの女』の見どころ
フェルメール『真珠の耳飾りの女』, Public domain, via Wikimedia Commons
フェルメール『真珠の耳飾りの女』の見どころは、テーマが明らかになっていないミステリアスさにあります。テーマやディテールに関する憶測や考察は、作品をより深く理解したいという感情を掻き立てるのでしょう。
作品を「理想化した女性の絵である」と主張する美術史家のなかには、背景の単調さを理由に挙げる人もいます。一般的にこの時期のオランダ画家は、モデルが存在している空間を含めて作品を残したためです。つまり、背景が真っ黒で空間が描かれていないのは、作品自体が想像上のものであるからという主張です。
しかし、1994年におこなわれた修復では、黒い無地の背景が元はエナメル色だったことがわかりました。フェルメールは、黒い背景の上に緑や藍の透明な絵の具を加えることで、暗めのエナメル色を作り出したようです。薄い絵の具はのちに退色し、現在に残る黒い背景だけが残りました。
さらに2018年の調査によると、実はフェルメールは背景の空間を描いていたことが判明。おそらく薄い絵の具層の退色によりディテールが見えなくなり、黒単色の背景に変化したのでしょう。
350年のときのなかで、絵画が変化してしまったことで、フェルメールが作品に込めた意図が簡単につかめなくなってしまったのです。背景が描かれているのであれば、現実のモデルを描いた作品なのか?それでもなお、不自然な真珠の大きさや配置が問題として残ります。
ここまで詳細が不明な作品でありながら、『真珠の耳飾りの女』が今もなお多くの人に愛されているのは、そのミステリアスさゆえかもしれません。彼女の優しく美しいほほえみは、作品の前に立つ人を魅了し続けています。
鑑賞の際は、ぜひ『真珠の耳飾りの女』の神秘的なまなざしを楽しんでくださいね。以上、フェルメール『真珠の耳飾りの女』についてでした!
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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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