STUDY
2023.3.9
美術館の作品を壊したらどうなる?ローマで観光客が美術作品を破壊した事例を紹介
美術館は芸術作品を間近で見ることのできる貴重な機会を提供してくれる場所です。しかし、観覧者の接近はその分だけ作品破壊のリスクが伴います。昨年はヴァチカン美術館で、観光客により彫刻が2体破壊される事件が発生しました。
Ank Kumar, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
実は芸術の街ローマではこれ以外にも、たくさんの作品破壊が起きています。この記事では、ローマの大学院で美術史を学ぶ筆者が美術破壊の事例を3つ紹介します。
美術作品破壊①:ヴァチカン美術館-彫刻2体破壊
Ank Kumar, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
2022年10月、ヴァチカン美術館でアメリカ人観光客の男性が美術館内の彫像2体を意図的に破壊し、スタッフに取り押さえられました。
男性は、ローマ教皇との面会希望を却下されたことに腹を立て、館内の古代ローマ時代の胸像を床に投げつけました。さらに逃亡を試みた際に別の彫像も倒し、合計2体が破損しました。
破壊された2体は2000年以上前の作品ですが、いずれも重要な芸術作品ではないと発表されています。とはいえ修復には300時間以上が必要とされ、ヴァチカン美術館広報担当者は「実際の被害よりも恐怖の方が深刻」と述べました。
美術作品破壊②:コロッセオ-自分の名前を彫刻
FeaturedPics, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
2022年7月、コロッセオに損害を与えた30歳のカナダ人観光客がローマの警察に逮捕されました。この女性は、コロッセオの外壁に自分の名前を彫刻したことがわかっています。
これとは別に、過去にアメリカ人観光客がフォロ・ロマーノ内のアウグストゥスのアーチに名前とハートマークを彫刻し、800€(日本円で11万6千円相当 ※2023年3月現在)の罰金を命じられています。
2019年には39歳のイスラエル人観光客がコロッセオに自分、夫、子どもの名前を彫刻するなど、コロッセオに名前を彫る美術破壊はローマで頻発しています。
美術破壊③:スペイン広場-車で走行
Mike McBey, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
2022年5月には、サウジアラビア人の37歳の男性がスペイン広場の階段を破壊する事件が発生しました。男性は、イタリアでレンタルした高級車を使ってスペイン広場の階段を走行し、階段の一部を破壊しました。
男性はそのまま国外へ逃亡しようとしましたが、レンタカー会社を通じて警察が彼を特定したため、ミラノ空港で逮捕されました。男性は、文化遺産とモニュメントを損傷した罪で起訴されています。
まとめ
今回紹介した3つの作品破壊は、いずれも2022年に起こった出来事です。多くの観光客が訪れるローマでは、軽率な観光客による美術破壊が後を絶ちません。
深刻な損害が続けば、作品を保護するために美術館や遺跡におけるアクセスの制限がされてしまうでしょう。 現在のように自由な観覧をこれからも楽しめるよう、訪れるすべての人に作品へのリスペクトを大切にしてほしいものです。

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はな
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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