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2022.10.31
『アナと雪の女王』お城のモデル!ノルウェーの木造教会の歴史と様式解説
ディズニーの大ヒット映画『アナと雪の女王』は、北欧ノルウェーを舞台にしたお話で、作中にも北欧風の建造物や衣装がたくさん登場します。
主人公であるアナと姉のエルサが生活しているアレンデールのお城も、実在するノルウェーの木造教会をモデルにしたものと言われています。
Andreas Pujol, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
この記事では、ヨーロッパでも珍しいノルウェーの木造教会について、その歴史と様式を解説していきます。
『アナと雪の女王』お城のモデル・ノルウェーの木造教会とは
Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
『アナと雪の女王』に登場するアレンデールのお城は、他のプリンセスの住むお城とは異なり木造風の作りになっています。
これは、モデルとなった建築物がノルウェーの「木造教会(スターブヒルケ)」であるためと言われています。
石造りが基本であるヨーロッパの教会建築ですが、ノルウェーでは中世に木造の教会が建築されました。
現在では、12-13世紀当時の様相を保っているものは数少ないものの、『ボルグンの木造教会』のように実際に足を運ぶことのできるものもあります。
フィヨルド(氷河によって形成された複雑な入り江)の周りに建てられることが多かったため、土台が丁寧に作りこまれているのが特徴です。
基本構造としては、ログハウスのようなマルタの組み合わせではなく、板を縦方向に並べていくことで壁を作っています。
ノルウェー木造教会の歴史
Tarjei Mo, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
古代ローマ文化などの影響でヨーロッパの建築物というと「石造り」をイメージする方も多いかもしれません。
しかし北欧では石造りの建築が一般的になったのは12世紀ごろからと遅く、古代から初期中世にかけては木造が主流でした。
そのため10世紀ごろに南方から伝わってきたキリスト教教会も、初期には必然的に木造のものがほとんどでした。
ノルウェーは他の北欧の国々と比べても木造から石造りへの以降がゆるやかで、13世紀になってもまだ山岳地帯では木造教会が建てられ続けました。
ノルウェー木造教会の作り方
Svein-Magne Tunli - tunliweb.no, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
木造教会は、冬の時期に木材を建設場所に運搬するところからスタートします。
大変そうにも感じますが、多雪地帯の北欧では重たい荷物を運ぶにはソリの使える冬のほうがむしろ効率がよかったからだそうです。
また冬の間に必要なものを現地に運んでおくことで、雪が降らない時期に一気に建築作業を進められるメリットもあります。
木造教会は強度を高めるために、丁寧な土台作りが重要でした。
土に直接木材が触れてしまうと腐食が進むため、細かい石を敷き詰めた上に井形の材を置いて基礎を作っていました。
木造であることや、荷物運搬の難しい立地にあることから、ノルウェーの木造教会はサイズが小さくかわいらしい印象を受けます。
『アナと雪の女王』に登場するような立派な建造物を木造で建てることは、実際には現実的ではなかったようです。
ノルウェー木造教会の様式
Arild Nybø, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
ノルウェーの木造教会は、ヨーロッパの南方から伝わった「ロマネスク美術」と北欧の「ヴァイキング美術」のミックスのような様式が特徴です。
11世紀以降、北欧へのキリスト教文化の伝播とともに、南方ヨーロッパで流行していた「ロマネスク美術」が北欧にも広がりました。
ロマネスク美術とは、11世紀以降にヨーロッパで広まった古代ローマを模した建築様式を指します。
柱頭(柱の上の膨らんだ装飾部分)などはロマネスク様式の潮流を見ることができますが、一方で扉装飾は精緻で力強いヴァイキングの要素が含まれています。
獰猛ともいえる植物や動物をぎっしりと配置する構図は北方の文化であり、複雑に絡み合った結び目が結界の役割にもなると言われています。
まとめ
『アナと雪の女王』のお城のモデルとなったノルウェーの木造教会は、ヨーロッパでも珍しいユニークな特徴を兼ね備えています。
映画作品ではお城が画面に映るシーンは多くありませんが、その国の文化を作中に自然に取り入れている様子が素敵ですね。

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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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