STUDY
2023.1.27
「ルーヴル美術館展 愛を描く」が待ちきれない!【第3回】『ニンフとサテュロス』の楽しみ方とは?
2023年3月1日からスタートする国立新美術館の「ルーヴル美術館展 愛を描く」では、ルーヴル美術館所蔵の「愛」にまつわる作品が多数来日します。
どんな作品が日本に来るのか今から知っておきたい! という人に向けて、ローマの大学院で美術史を専攻している筆者が特に注目の作品を4点ピックアップ。3回目となる今回は、アントワーヌ・ヴァトーの『ニンフとサテュロス』についてご紹介します。
アントワーヌ・ヴァトーはどんな画家?
Rosalba Carriera, Public domain, via Wikimedia Commons
アントワーヌ・ヴァトーは、フランスのロココ様式の画家です。ロココとは、貝殻のような曲線を多用した装飾を指し、絵画においてはパステルカラーの軽妙な色彩と優美な趣が特徴です。
アントワーヌ・ヴァトーは36歳の若さでこの世を去ったものの、たくさんのデッサンや下絵を残したと言われます。
古典主義からロココへの変遷期で、ヴァトーは貴族たちによる野外での饗宴をテーマにした「フェート・ギャラント(雅宴画)」を確立しました。しかし、他のフランスのロココ画家が気まぐれな奔放さを表現したのに対し、ヴァトーの作品はこの世の喜びの儚さや切なさを帯びています。
『ニンフとサテュロス』のストーリー
キャプション:アントワーヌ・ヴァトー 《ニンフとサテュロス》 1715-1716年頃 油彩/カンヴァス 73.5 x 107.5 cm パリ、ルーヴル美術館 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Stéphane Maréchalle / distributed by AMF-DNPartcom
『ニンフとサテュロス』は、ギリシャ神話の登場人物です。『ユピテルとアンティオペ』と呼ばれることもあります。
多くの場合、サテュロスは半神半獣の精霊で、「自然の豊穣の化身」「欲情の塊」として表現され、ニンフはハイパーセクシュアリティとして描かれます。つまりこの2人はお互いに本能的な性質によって結びつけられた存在なのです。
お互いに好色な側面を持ちながら、肉体的な特徴では両者は対極的な存在です。ニンフが美しく繊細、豊満な女性として描かれる一方で、サテュロスは醜く強靭な身体を持っています。
白く輝くニンフの肌の美しさとサテュロスの浅黒く日焼けした身体など、両者の対比は芸術家にとって興味深い主題だったようです。実際、ヴァトー以外にも、ティツィアーノやヴァン・ダイクなどの名だたる芸術家が『ニンフとサテュロス』と描いています。
参考:ティツィアーノ《ユピテルとアンティオペ》/Titian, Public domain, via Wikimedia Commons
参考:アントニー・ヴァン・ダイク《ユピテルとアンティオペ》/Anthony van Dyck, Public domain, via Wikimedia Commons
作品の楽しみ方
アントワーヌ・ヴァトーの『ニンフとサテュロス』は、楕円形の絵です。手前で眠っているのがニンフで、後ろから身体を出しているのがサテュロスであり、この2人の身体が絵画枠と同じように楕円形を描いている特徴があります。
サテュロスはニンフの上に覆いかぶさろうとしているところで、彼女が寝ている布を引っ張ろうとしています。登場人物2人以外のスペースは暗い深淵が描かれており、左の背景にある1軒の家以外は空と植物に覆われています。薄暗い色調が、ニンフの身体の白さを一層際立たせていますね。
絵画の保存状態は比較的よくなく、空や緑の部分の修復が行われました。修復時の調査により、ニンフはオリジナルでは布をまとっていたものの、のちに取り外された跡が見つかったそうです。テーマに沿うよう、より直接的な表現が求められたのでしょうか…その意図については、未だ解明されていません。
アントワーヌ・ヴァトーの『ニンフとサテュロス』は、ギリシャ神話の刺激的な2人の登場人物を静かなコントラストで表現した作品です。絵画全体の形と登場人物の構図がリンクしており、バランスの良さが鑑賞者に心地よい印象を与えます。
ルーヴル美術館展で作品を観る際は、ぜひ本記事で紹介したポイントを思い出してみてください。
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展覧会情報
「ルーヴル美術館展 愛を描く」国立新美術館
会期:2023年3月1日(水)-6月12日(月)
休館日:毎週火曜(ただし3/21(火・祝)・5/2(火)は開館)、3/22(水)
開館時間:10:00-18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで

画像ギャラリー
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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