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2024.7.17
【ローマ現地在住者おすすめ】ドーリア・パンフィーリ美術館の魅力を紹介
ローマにはたくさんの美術館があり、ヴァチカン美術館やボルゲーゼ美術館のように連日予約すら取れないものから、あまり知られない穴場の美術館までさまざまです。
目次
ドーリア・パンフィーリ美術館は、ヴェネツィア広場から徒歩3分、トレヴィの泉から徒歩5分の好立地にあります。非常に見どころの多い美術館ですが、混みすぎることはほとんどなく、ゆっくり作品を鑑賞したい方に最適です。
この記事では、カラヴァッジョやベルニーニなど鉄板の作品以外にも見どころの多いドーリア・パンフィーリ美術館の見どころについて、3つのポイントに分けて紹介します!
圧倒的な映え!豪華絢爛なドーリア・パンフィーリ美術館の内装
ドーリア・パンフィーリ美術館は、もともとドーリア・パンフィーリ家の宮殿だった建物を美術館に転用しています。そのため、美術作品以外にも宮殿そのものの鑑賞を楽しむことができる点が特徴です。
パンフィーリ家は名門貴族であり、長い歴史のなかでは教皇を輩出したこともあります。貴族の生活空間を体験できるうえ、ところせましと飾られた芸術作品とともに建築を鑑賞することで贅沢な時間が過ごせるでしょう。
入り口から進んで順路の最後のほうに位置する廊下には、荘厳な天井画とシャンデリアが見られるスペースも。まるで自分が貴族になったような気持ちでゆったりと廊下を歩くことができます。
美術館はハイシーズンでもさほど混んでいないため、おしゃれな写真が撮りたい方にはぜひおすすめです。ぜひ、お気に入りのドレスで足を運びたいですね。
ドーリア・パンフィーリ美術館の目玉!カラヴァッジョ3作
筆者撮影:ドーリア・パンフィーリ美術館(カラヴァッジョ3作)
ドーリア・パンフィーリ美術館には非常に多くの作品が展示されていますが、なかでもとくに重要なのが、カラヴァッジョが残した3作です。
・エジプトへの逃避途上の休息
・改悛のマグダラのマリア
・洗礼者ヨハネ
カラヴァッジョ①:『エジプトへの逃避途上の休息』
筆者撮影:ドーリア・パンフィーリ美術館『エジプトへの逃避途上の休息』カラヴァッジョ
『エジプトへの逃避途上の休息』は、イエスの幼少期の物語のワンシーンです。ヘロデ王の嬰児虐殺を予見した聖母マリアと夫ヨセフは、幼子イエスを連れてベツレヘムからエジプトに逃げます。
絵画主題に用いられる『エジプトへの逃避』のシーンでは、幼子イエスを抱きながらロバに乗った聖母マリアと夫ヨセフがエキゾチック(砂漠とヤシの木など)な土地を歩く様子が描かれることが一般的です。
しかしカラヴァッジョがこの作品で描いたのは、旅の途中で休む聖家族。聖母マリアは長旅に疲れているのか、ぐったりとしています。その隣でヨセフは、天使がバイオリンを奏でられるように楽譜を支えています。決して穏やかな状況ではありませんが、どこか優しく、温かみのある作品です。
カラヴァッジョ②:『改悛のマグダラのマリア』
筆者撮影:ドーリア・パンフィーリ美術館『改悛のマグダラのマリア』カラヴァッジョ
2つめの作品は、『改悛のマグダラのマリア』です。マグダラのマリアは、快楽と贅沢を愛して生活してきた女性で、イエスとの出会いをきっかけに改心したことで知られます。イエスの地上での人生の最後の時間を最も身近で見ていた人物でもあります。
カラヴァッジョの作品のなかでマグダラのマリアは、首をもたげ、悔しいような悲しいような表情です。過去を悔い改めているマリアのそばには、贅沢の象徴であるジュエリーが捨てられています。彼女は、これまでの過去と決別し、信仰のために生きていく決心をしたのです。
カラヴァッジョによる精巧な素材の描き分けが、マグダラのマリアのドレスやジュエリー、床にある香油壺から見られます。あえてシンプルな背景を選ぶ点も、カラヴァッジョ作品の特徴の1つです。
カラヴァッジョ③:『洗礼者ヨハネ』
筆者撮影:ドーリア・パンフィーリ美術館『洗礼者ヨハネ』カラヴァッジョ
ドーリア・パンフィーリ美術館で見られるカラヴァッジョ作品の3つめは、『洗礼者ヨハネ』です。
この作品は後世の多くの画家にコピーされ、カラヴァッジョ本人の作品でなくとも似たような構図や体勢の洗礼者ヨハネの絵を目にしたことがある方もいるかもしれません。カラヴァッジョ本人が残したほとんど同じ構図のもう1つの作品も、ローマのカピトリーニ美術館にも保管されています。
通常、洗礼者ヨハネといえば、ひげを生やしてボロボロの獣の皮をまとっている状態か、幼子イエスとともに子どもの状態で描かれます。カラヴァッジョの洗礼者ヨハネは裸であり、身体を大きくねじっている特徴的な姿勢です。
カラヴァッジョがこの姿勢を選んだのは、ミケランジェロが残したシスティーナ礼拝堂の天井画の影響を受けたためと考えられています。ミケランジェロが描いた民衆のうちの1人(裸)がカラヴァッジョの『洗礼者ヨハネ』とほとんど同じ体勢をしています。
ローマに集まった芸術家はお互いに影響しあっただけではなく、古代芸術や過去の偉大な芸術家の作品を間近に鑑賞することで、自分の芸術に新しい要素を取り入れることがよくありました。
関連記事:傷害、投獄、殺人も?問題ばかりの天才画家カラヴァッジョの作品の魅力解説
ドーリア・パンフィーリ美術館には北方芸術家の作品も
筆者撮影:ドーリア・パンフィーリ美術館, ピーター・ブリューゲル
ドーリア・パンフィーリ美術館は個人コレクションを展示している美術館ですが、パンフィーリ家の審美眼は地域や時代のくくりに関係なく働いていたようです。
イタリアの偉大な画家ベルニーニやティツィアーノ、アンニバレ・カラッチの作品も多数展示されているほか、ドーリア・パンフィーリ美術館ではイタリア国外の芸術家の作品もたくさん見られます。
なかでもピーテル・ブリューゲルやデューラーの作品は、必見です。実はローマには16~17世紀の北方芸術家(フランドルやドイツなど)の作品が保管されている美術館が、ドーリア・パンフィーリ美術館以外にもいくつかあります。これは近世以降、北方の芸術家がローマの芸術界で重要な役割を担っていたためです。
16世紀ドイツを中心に始まった宗教改革により、カトリック教会という巨大な芸術パトロンを失った北方の芸術家たちは、ほかの地域に比べていち早く世俗の貴族や中産階級向けの作品制作を開始しました。
世俗の個人向けの作品とはつまり、サイズが大きすぎず、テーマは宗教画に限定されない作品です。とくに北方では風景画が盛んに制作され、その潮流はやがて宗教画がほとんど独占的であったローマの美術マーケットにまで影響を与えるようになりました。
北方芸術家の特徴は、なんといっても繊細で誠実な筆致です。色彩表現や陰影表現を重視する傾向にあったイタリア芸術と比較すると、北方作品は堅実で緻密な印象を受けるでしょう。
さまざまな時代や地域の作品を、ローマのコンテクストで楽しむことができる点は、ドーリア・パンフィーリ美術館の大きな魅力です。どっぷり芸術を楽しみたい方は、ぜひドーリア・パンフィーリ美術館に立ち寄ってくださいね。
関連記事:ローマ:アート好きがヴェネツィア広場を無料で楽しめるスポット3選

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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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