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2024.9.17
【ギリシャ神話とアート】ゼウス(ジュピター)の物語・作品例を解説
目次
ゼウスはギリシャ神話に登場する神の1人で、全知全能の神です。ギリシャの最高神であるゼウスは、女好きで有名で、様々な女性を相手に騒動を起こしたことで知られます。
ゼウスの彫刻, Zeus Otricoli Pio-Clementino, Public domain, via Wikimedia Commons.
ギリシャ神話でもっとも有名な神ゼウスは、もちろんアート作品の主題としても人気でした。この記事では、西洋古代芸術を理解するために欠かすことのできない存在ゼウスについて、物語や作品例を踏まえて解説します!
アートでも大人気。ギリシャ神話の最高神ゼウスは浮気者だった?
ゼウスの彫刻, Jupiter Smyrna Louvre, Public domain, via Wikimedia Commons.
ゼウスはギリシャ神話のなかでもっとも多くのアート作品が残された神の1人です。ローマ神話では、ジュピターやユピテルと呼ばれます。
ゼウスは最高神としての立場を利用して、女神たちだけではなく人間の女性にまで幾度もちょっかいをかける「悪い男」でした。さらに厄介なことにゼウスの妻であるヘラは非常に嫉妬深く、ゼウスの不貞に怒るだけではなく、相手の女性に嫌がらせをすることもしばしば。
ゼウスが女性にアプローチする方法はさまざまでした。白鳥になったり、黄金の雨になったり…気に入った女性が見つかると、全知全能の能力を駆使して手に入れようとします。
ヘラはゼウスの正妻ですが、実は彼の姉でもあります。兄弟で婚姻関係を結び、しかも浮気ばかりなんて、現代の価値観からはちょっと想像できないですよね。でも、古代ギリシャの神々は信じられないくらい自由でした。
ヘラのほかにゼウスには幾人もの愛人がいましたが、彼女たちとの間にさらに多くの子どもを設けました。そのため、ゼウスは非常に子だくさんです。例えば知恵と戦いの神アテネは、ゼウスと思慮の神メティスの間にできた子でした。
Statue of Zeus, Public domain, via Wikimedia Commons.
ゼウスはしばしば雷のシンボルとともに描かれることがあります。これは、彼が天界を支配し、天候を左右する力があったとされるためです。一般的に肉体は筋骨隆々で、ひげを蓄えた壮年の男性として描かれます。
古代ギリシャの世界は多神教でしたが、ゼウスの権威は圧倒的なものでした。ほかの神々の追随を許さないほどの存在感があり、アート作品のなかでも中心的なポジションに配置される傾向にあります。
ルネッサンス期にギリシャ神話とキリスト教が調和したアートが目指された際には、ゼウスはキリスト教における「(一神教の)神」と重ねて描かれることもありました。とはいえ、女性に目がないことや、自己利益のために他人の不利益をいとわない姿勢は、一神教の完全な「神」とは程遠いですね。
ギリシャ神話のゼウスが主題のアートの例
ギリシャ神話のゼウスが主題に含まれるアート作品は、幅広くあります。古代ギリシャやローマで一般的だった神々の彫刻のように、ゼウスが単体で表現されているものも豊富です。
ここではゼウスが登場するギリシャ神話の主な物語主題を、3つ紹介します。
• イオの受難
• エウロペの略奪
• アテネの誕生
ゼウスが登場するアート主題①:イオの受難
『ゼウスとイオ』, Jupiter and Io , Public domain, via Wikimedia Commons.
イオの受難とは、ゼウスの愛人であるイオが牝牛に変えられてしまうギリシャ神話の物語です。ほかの多くの物語のように、原因はゼウスの浮気にありました。
ゼウスは正妻であるヘラに仕える女神官であるイオに恋をします。すぐにイオと関係を持ったゼウスですが、ヘラに浮気がバレそうになり、咄嗟にイオを白い牝牛の姿に変えました。
浮気を確信していたヘラは、ゼウスの手から無理やり牝牛を引き取り、100個の目がある怪物に牝牛を見張るように指示します。ゼウスはヘルメスを送り、怪物の首を落としてイオを助け出しました。ヘラはペットのクジャクに怪物の100個の目を飾ったと言われ、クジャクの羽に美しい模様があるのは、そのためだそうです。
『イオの受難』は一般的にゼウス、ヘラ、そして牝牛が基本的な構成要素として描かれます。不運なイオは牝牛の姿のままヘラの迫害を逃れ、最終的にはエジプトまで到達したそうです。
トルコの都市イスタンブールにあるボスポラス海峡の名は、「牛渡し」の意味があります。牝牛であるイオは、ヘラが差し向けた虻から逃げるため、トルコのこの海峡を越えてエジプトに向かったのです。
ゼウスが登場するアート主題②:エウロペの略奪
『エウロペの略奪』, Enlèvement d'Europe by Nöel-Nicolas Coypel (detail), Public domain, via Wikimedia Commons.
エウロペの略奪は、とくに近世以降の好まれて描かれた主題です。エウロペは「ヨーロッパ」を指します。
ある日ゼウスが人間界を眺めていると、美しいエウロペの姿が目に留まりました。ゼウスはヘラに見つからないように白い牛に化けてエウロペに近づき、警戒心を解いたところで手にキスするような仕草を見せました。
すっかり安心したエウロペが白い牛にまたがると、牛はクレタ島まで泳いでエウロペを連れ去ってしまいます。ここでゼウスは変身をといて姿を明かし、エウロペと結ばれて子を設けました。この子らは、のちにクレタ島の王となります。
アート作品では、海の上を描ける白い牛、そしてそれにまたがり困惑しているエウロペが描かれることが一般的です。平和的なニュアンスで表現される場合もありますが、物語の背景を知ると、エウロペにとってはあまり楽しい情景ではないとわかりますね。
最初に紹介した主題ではゼウスは愛人を牛に変えましたが、この主題では彼自身が牛になっている点が興味深いです。
ゼウスが登場するアート主題③:アテネの誕生
パルテノン神殿 破風再現模型 アテネ・アクロポリス美術館, Athens Acropolis Museum Parthenon Pediment Model, Public domain, via Wikimedia Commons.
アテネはゼウスやポセイドンに匹敵するほどの人気を誇るギリシャ神話の神です。知恵と戦いをつかさどり、賢く強い戦士の象徴でもあります。アテネはただ乱暴な武力的側面だけではなく、建築や糸紡ぎなど、文化的な繁栄にも寄与しました。
アテネの母は、ゼウスの最初の妻メティスでした。しかしゼウスは「メティスから次の支配者が生まれる」という予言を信じ、メティスを飲み込んでしまいます。思慮の神であるメティスを飲み込んだおかげで、ゼウスは全能神にふさわしい知性を身に着けました。
満月が過ぎると、ゼウスの頭からアテネが誕生しました。誕生したときからアテネはすでに甲冑を身にまとっており、聡く強い性質を的確に示しています。アテネは赤ちゃんとして生まれたわけではないのは、面白いポイントですね。
アテネの誕生は、ギリシャの首都アテネにあるパルテノン神殿の東面破風にも描かれています。
知れば知るほど面白いギリシャ神話。古代芸術だけではなく、ルネッサンス以降の芸術を理解するためにも大切な要素といえます。この記事がアート理解の手助けに少しでもなれば幸いです。以上、アートで見るゼウスの物語と作品紹介でした!
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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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