STUDY
2022.8.29
知っているようで知らない!モザイク画って?特徴、作品鑑賞のコツを徹底解説
モザイク画は古い歴史を持ち、世界的に幅広い地域で用いられている絵画技法です。
小さな破片を組み合わせて模様をつくりだし、壁や床だけでなく工芸品の装飾にも用いられます。
目次
Basilica of San Vitale, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
この記事では、イタリア・ローマの大学院で美術史を専攻している筆者がモザイク画の作り方、特徴、作品鑑賞のコツについて紹介します。
モザイク画の作り方
Basilica of San Vitale, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
モザイク画は、絵具を用いて描くわけではなく、小さな破片を組み合わせることで模様を表現する技法です。
装飾に用いられる素材は様々で、石、陶磁器、ガラス、貝殻などが使用され、作品が制作された地域や時代によっても異なります。
①デザインを決める!
モザイク画を作るためにまず大切なことは、デザインを決めることです。
古代ローマ美術やイスラム美術では幾何学文様を用いることも多く、パターンの繰り返しには数学的なデザインの研究も大切でした。
デザインを決めて下書きを完了したら、実際に素材の破片を壁に埋め込んでいきます。
②手作業で接着していく
古代ローマのヴィラや中世教会のモザイクは広範囲にわたって装飾が施されることも多く、たくさんの素材を1つ1つ手作業で接着していくことになります。
中世教会におけるモザイク画では光の反射は非常に重要な要素であり、金の部分は特に輝きの効果を高めるためにあえてテッセラ(石やガラスの破片)の角度をずらして凸凹に制作されました。
現在、教会内部は人工灯で照らされていますが、産業革命以前にはろうそくの火のゆらめきがモザイクの美しい反射を際立たせていたと言われます。
モザイク画の特徴
Livioandronico2013, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
①貴族や教会に好まれたリッチな技法!?
モザイク画は長い時間と多くの労働力を要する上、素材の中には収集が難しい色もあり、とても高価な装飾として貴族や教会に好まれました。
フレスコ画のように絵具を塗る絵画技法とは異なり、モザイクは壁や床全体を石やガラスで埋めつくす必要があります。
必要なカラーバリエーションに合わせて、大量の石やガラスなどを用意するだけでも、莫大な費用がかかることが予想できますよね。
そのため、モザイクは限られたリッチな人だけが用いることのできる技法でした。
②他の技法には無いメリットが
制作コストの非常に高いモザイク画ですが、それに見合うだけの大きなメリットがあります。
それは、耐久性の強さです。
モザイク画は絵具を使わず鉱物やガラスなどの破片を直接埋め込んでいるため、退色する心配がほとんどありません。
フレスコ画のように湿気で絵画層がダメージを受けることも少ないため、2000年ほど前の作品でも鮮やかな色彩をキープしています。
雨風にも強いので、屋内だけでなく屋外の装飾にも用いられています。
モザイク画の作品鑑賞のコツ
Naples National Archaeological Museum, Public domain, via Wikimedia Commons
①石やガラスの破片の大きさに注目する
古代ローマ時代のモザイク画は、あえて作品に使用する素材の大きさを変えることで、メインの図形のディテールを引き出す技法が用いられています。
つまり、外側の幾何学模様には大きめの素材を用い、中央の人物や動物の表現には小さめの素材を使うということです。
古代ローマで制作されたモザイクの中には、それが石の破片から形成されていることに気づけないほどに細かい表現力を持っているものもあります。
②ギリギリまで近づいてみる
それらの作品を鑑賞する際はギリギリまで近づいて観て、石1つ1つの存在を感じることで面白い発見があるかもしれません。
教会の後陣(主祭壇の後ろの壁)に描かれたモザイクを鑑賞する際は、ぜひ光の反射に注目してみてください。
人工灯では感じにくいかもしれませんが、自分がうろうろと歩き回ってみると作品がきらきらと輝いているのがわかります。
時間をかけて作られた美しい表現を、ぜひじっくりと楽しんでくださいね。

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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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