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2026.10.8
産業の現場がアートの舞台に。新しい分散型芸術祭「瀬戸内産業芸術祭2026」塩・学生服・デニムなど7会場を巡る
岡山県と愛媛県にある稼働中の工場・産業現場7会場を舞台に、「瀬戸内産業芸術祭2026」が10月3日(土)に開幕しました。普段は扉の向こうにあるものづくりの現場を、アーティストや建築家の作品とともに巡ることができる芸術祭です。
目次
『最終処分場 -自然と産業、人とつくる風景-』(オオノ開發株式会社、愛媛県東温市)
工場そのものが会場に。地域全体がひとつの「分散型美術館」へ
「瀬戸内産業芸術祭2026」は、一般財団法人日本産業芸術財団が主催する、今年初開催の芸術祭です。会期は2026年10月3日(土)から10月31日(土)までの約1か月間。岡山県の岡山市・玉野市・倉敷市、愛媛県の東温市にある参画企業の工場や産業現場など7会場で作品が公開されています。
テーマとなる産業は、製塩、学生服、デニム、造船関連、蓄電池、資源循環とさまざま。瀬戸内の暮らしを支えてきた産業から現代の産業までを、国内外のアーティスト・建築家・キュレーターが作品として再解釈しています。
各会場の作品は、その企業に受け継がれてきた技術や哲学、働く人々の営みを出発点に、作家・監修者と参画企業が対話を重ねながらかたちにしたものだそう。企業の製品そのものを素材にした作品や、製造工程を巡るツアーと一体になった作品など、どれもその場所でしか成立しない展示になっています。
監修には建築家の妹島和世氏、キュレーターの長谷川祐子氏、クリエイティブ・ディレクターの佐竹正基氏らが名を連ねています。
開幕前日の10月2日(金)には玉野市役所でオープニングセレモニーが開かれ、財団代表理事の伊藤正裕氏をはじめ、岡山県知事の伊原木隆太氏、玉野市長の柴田義朗氏、妹島和世氏、長谷川祐子氏、佐竹正基氏、参画企業・団体の代表者が登壇しました。
構想から4年をかけて開幕を迎えたとのこと。伊藤氏は「若い世代をはじめ、多くの方々に日本の産業を新たな視点で捉え直し、そこに秘められた魅力と可能性を感じていただきたい」とコメントしています。
リサイクル施設や旧家を舞台に。循環とものづくりを辿る岡山市・倉敷市の会場
岡山市南区の藤クリーン株式会社では、Atmospheric Solutions/Nile Koetting & Maki Software/Elliott Etzkornによる『Re:Cycle』を展開。同社のリサイクルセンターで実施されてきた見学ツアーと、稼働する施設そのものを舞台にしたパフォーマティブ・インスタレーションです。白いキャップをかぶった見学者たちが、施設内の大きな設備を見上げてスマートフォンを向ける光景からも、現場のスケールが伝わってきます。
施設内の音やガイドの声、そこで扱われるモノの過去・現在・未来を手がかりに、資源が循環していくプロセスを辿っていく構成とのこと。アプリケーションやサウンド、学びの要素が重ねられ、廃棄・再生・循環を多層的に体験できそうです。
倉敷市の児島ジーンズストリートでは、歴史的な日本建築である旧野崎家住宅を舞台に、デザインユニット・SYMBOL PLUSが空間インスタレーション『一粒の布』を手がけています。瓦屋根の屋敷の縁側の奥、開け放たれた座敷には、白く小さなものが床一面に整然と並ぶ光景が広がります。
テーマは、綿花から一着のジーンズへと受け継がれる児島デニムのものづくり。かつて海だった児島は干拓によって陸となり、その土地に根づいた綿花が糸に、布に、縫製の技へと受け継がれて今日の児島ジーンズにつながっているそうです。
綿花畑を再構築した空間とあわせて、児島ジーンズストリートの工場やショップを巡るスタンプラリー形式のツアーも用意されています。旧宅で配布される台紙に加盟店のスタンプを押していくと、藍染の綿花のグラフィックが完成する仕掛けです。チケット購入者には、芸術祭限定の特別ガイドブック『MADE IN KOJIMA, JAPAN.』も配布されます。
塩だけで描く「時」の渦。山本基『たゆたう時』
玉野市のナイカイ塩業株式会社では、アーティストの山本基氏が、同社の塩だけを用いた大規模インスタレーション『たゆたう時』を制作しました。真っ暗な空間に光で縁取られた大きな楕円が浮かび上がり、その面いっぱいに白く細かな網目の模様が広がっています。
山本氏はこれまで、忘れてしまうような小さな出来事や大切な人との記憶の積み重なりを、塩の渦として描いてきました。本作ではその渦を「時」として、暗闇に浮かぶ小さな時の粒として描いているそう。今そこで働く人々の試行錯誤と営み、そして塩がやがて海へ還り、新しい循環へと戻っていく時の連なりに思いを馳せる作品です。
空間演出はSYMBOL PLUSが担当。工場の風景や歴史を再編集した導入空間とともに、製塩工場の製造ラインを巡るツアーとして構成されています。
学生服工場でオーディオドラマを。トンボ『TOMBOW Voice Theater』
玉野市の株式会社トンボは、1876年に八浜の足袋製造から始まり、学生服メーカーへと歩んできた会社です。この工場を舞台にした『TOMBOW Voice Theater - 制服にまつわる3つの物語 -』は、資材倉庫から縫製、検品、アイロンまでの製造工程を巡りながら、オーディオドラマを鑑賞するツアーです。ヘッドホンをつけた鑑賞者が青い椅子に座り、マネキンに着せられた制服と向き合う姿からは、ほかの芸術祭ではなかなか味わえない鑑賞体験が想像できます。
ドラマを手がけるのは、テレビドラマ、映画、舞台と異なる分野を主軸に活動する3名の作家。資材倉庫で聴く『心臓に一番近いとこ』(脚本:武田雄樹/声:木竜麻生、山脇辰哉)、縫製工程で聴く『おしゃべりな彼女』(脚本:田中未来/声:桜井日奈子、安竜うらら)、仕上げ工程で聴く『私と日南』(脚本:三浦直之/声:森本華)の3作が用意されています。
卒業式前日の第二ボタンをめぐる会話、ミシンを動かす職人の頭の中で止まらない制服への愛、制服を交換して過ごしたある秋の日。それぞれの視点から紡がれる“もうひとつの青春”は、制服を着たことのある人ならきっと胸に響くのではないでしょうか。
光で見る「調整力」と、鉄が起動する台座。パワーエックスと三国工業
日本最大級の蓄電池工場「Power Base」を構える株式会社パワーエックスでは、本芸術祭のために発足したアノニマスの産業芸術家集団・SAIによる『調整力』を展示。目に見えない「電気」と「調整力」を、空間全体で可視化したインスタレーションです。
頭上の一つひとつの光は日本各地の発電所を、地面に投射される光は安定した電力を表しているそう。天候によって発電所の光が明滅しても、地面の光は暗くならない。その間を埋める蓄電池の役割を、光の対比で直感的に感じられる仕掛けです。超急速EV充電器や大型蓄電池、生産ラインの見学と一体になったツアーとして構成されています。
大正6年創業の三国工業株式会社は、船舶のエンジン部品などの製造や組み立て、塗装を手がける会社です。巨大な部品をつくる工場には柱や空間を隔てる壁がなく、溶接や加工の光と音が空間に響き渡るとのこと。
ここでは、伊阪柊氏と中村壮志氏によるアーティストユニット「MANTLE」が、出荷前の製品を設置するための台座と、製造風景や3DCGなどを用いた作品『船・心臓音・鉄』を展示しています。天井クレーンに「安全第一」の文字が掲げられた工場の中、白い台座の上には黒い鋼鉄の巨大な構造物が据えられ、その下の通路をヘルメット姿の人がのぞき込んでいます。台座に製品が設置されることでひとつのマシンのように起動し、映像と連動しながら、生活を支える工業製品がつなぐ未来の可能性を示唆する作品です。
最終処分場がひとつの風景に。妹島和世監修、西沢立衛らが手がける東温市の会場
唯一の愛媛県の会場となるのが、東温市のオオノ開發株式会社。複合リサイクルプラント内にある管理型処分場が舞台です。監修は妹島和世氏が務め、展望台を西沢立衛氏、広場・バス停を増田信吾氏+大坪克亘氏、バスとウエアを山田紗子氏が担当しています。
処分場として使われる谷は、廃棄物と土が混ざらないよう地面と縁を切られた大きな鉢のような構造で、およそ15年をかけて廃棄物で埋まっていくそうです。灰色の造成地の真ん中には大きなオレンジ色の円錐が広がり、その頂にはオレンジ色の衣をまとった人が立っています。背後の斜面は青緑色のシートに覆われ、周囲を緑の山々が囲む、非日常的な風景です。
見学者は現場服をまとってバスで頂上近くへ向かい、谷の淵や人工的につくられた丘の上から処分場の風景を体験します。自然と人工物と人間がつくる風景のなかで、循環を身体で感じられる展示になっています。
2025年のモニターツアーから、いよいよ本開催へ
イロハニアートでは、2026年1月の記事「岡山県北部で出会う、“アートでめぐる旅”。森の芸術祭の余韻と、2026年初開催「瀬戸内産業芸術祭」へ」で、初開催に向けた動きをお伝えしてきました。2025年春には玉野市でモニターツアーが開かれ、ナイカイ塩業などを舞台に山本基氏が瀬戸内をイメージした作品を手がけていました。
そのモニターツアーから約1年半を経て、7会場がそろう本開催を迎えました。2024年の「森の芸術祭 晴れの国・岡山」とあわせて、岡山のアートシーンの広がりを感じられそうです。
鑑賞は全作品事前予約制。個別チケットとバスツアーから選べる
本芸術祭は全作品が事前予約制です。各会場の個別入場チケットのほか、複数会場を巡るオフィシャルバスツアーも用意されています。作品ごとの公開日時や鑑賞方法は会場によって異なるため、訪れる前に公式サイトで確認しておくと安心です。
個別入場チケットは「アソビュー!」で、オフィシャルバスツアーは公式サイトで案内されています。工場見学とアート鑑賞を一度に体験できる貴重な機会、この秋の瀬戸内旅の目的地にしてみてはいかがでしょうか。
開催情報
瀬戸内産業芸術祭2026(英語名称:Setouchi Art and Industry 2026)
【会期】2026年10月3日(土)~10月31日(土) ※作品ごとの公開日時は会場により異なります
【会場】岡山県(岡山市・玉野市・倉敷市)、愛媛県(東温市)の参画企業の工場・産業現場等 7会場
【鑑賞方法】全作品事前予約制。
個別入場チケット、または複数会場を巡るオフィシャルバスツアーで鑑賞。会場ごとに公開日時・鑑賞方法が異なります。
個別入場チケット:アソビュー!
オフィシャルバスツアー
【主催】一般財団法人日本産業芸術財団
【参画企業・団体】藤クリーン株式会社、児島ジーンズストリート協同組合、ナイカイ塩業株式会社、株式会社トンボ、株式会社パワーエックス、三国工業株式会社、オオノ開發株式会社
【監修】妹島 和世(建築家)、長谷川 祐子(キュレーター)、佐竹 正基(クリエイティブ・ディレクター)ほか
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