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LIFE

2025.12.30

ヨシタケシンスケの絵本はなぜ心に残る?|思考を描くアートの魅力

『りんごかもしれない』など数々のヒット絵本を生み出しているヨシタケシンスケ。子どもたちに絶大な人気がありますが、ふとした哲学的な問いは大人たちをも魅了します。この記事では、ヨシタケシンスケ作品の魅力を分析しています。

『りんごかもしれない』ヨシタケシンスケ、ブロンズ新社

日常から生まれるヨシタケシンスケの絵本の魅力

ヨシタケシンスケの絵本の世界をより深く味わうために、次の3つの視点に目を向けてみましょう。

・テーマは日常に潜む疑問
・奔放な想像を隅々まで描く
・答えは描かない

3つの視点からたどることで、ヨシタケ作品が問いかける日常の奥行きが見えてきます。

テーマは日常に潜む疑問

一般的な絵本は子どもの教育のために、「困っている人を助けてあげないといけない」「悪いことをするとバチがあたる」などといった教訓めいたお話が多い傾向にあります。

しかし、ヨシタケシンスケの作品は、日常にある素朴な疑問から物語が始まります。

そのため、読者は登場人物に感情移入して読み進めることがしばしば。大人からすれば、当たり前すぎて普段なら気にも留めない疑問ばかりです。「言われてみれば確かに」と感じるような、鋭い着眼点から生まれた問いに惹きつけられます。

また、イラストにも読者の関心を引く工夫があります。たとえば、文字では前向きなことを書いているのに描かれた顔はどこか不安そうだったり、投げやりな言葉なのに表情は穏やかだったり。あえて違和感が残されていることで、「この子、本当はどう思っているんだろう?」「心の底では何を考えているのだろう」と考えさせられます。

読者は、登場人物が抱えている素朴な疑問や違和感によって、ヨシタケワールドに惹きつけられるのです。

奔放な想像を隅々まで描く

ヨシタケシンスケの作品は、自由な想像力が軸になっています。

代表作である『りんごかもしれない』では、主人公の男の子が、テーブルの上においてあるりんごを見て「りんごかもしれない」「いやいやさくらんぼかもしれない」「中身は皮がつまっているかもしれない」など妄想を膨らませていきます。

もし、現実にそんな子どもがいたら、私たちは「想像力が豊かな子だね」「ちょっと変わっている子なのかな」などと単なる個性として解釈するでしょう。ですが、ヨシタケシンスケの作品は、男の子の想像を隅々まで表現したイラストにより「もし想像の通りだったら楽しいかも」と感じられます。

男の子が「りんごはメカがぎっしりなのかもしれない」と妄想するページがあります。りんごの断面に機械類が詰まっており、ヘタ部分はアンテナ、皮に隣接する部分はすべすべ調整ユニットと名付けられた機械類が描かれています。ここまで描かれていると、どうしようもなく、わくわくしてくるでしょう。

答えは描かない

素朴な疑問から始まるヨシタケシンスケ作品ですが、絵本の中でその答えは明確に描かれていません。

「これは本当にりんごなのか?」
「死んだらどうなるの?」
「仕事ってなんだろう?」

このような素朴な疑問を子どもからぶつけられたらどうしますか。多くの大人は「あれはりんごだよ」「人は死んだら天国にいくんだよ」「仕事は生活するためにお金を稼ぐことだよ」とごくごく当たり前な回答で子どもを納得させるのではないでしょうか。

ヨシタケシンスケはインタビューの中で、以下のように語っています。

「はっきり分けられないグレーなものって、実はたくさんあるんですよ」
「名前は付けられないけど確かにある気持ちとか、世間ではなかったことになってるけど存在するものとか。そういうふわふわしたものを大事に取り上げたい」

子どもの解釈は、ひとまとめにできるものではありません。型にはまった説明ではなく、読者が感じたことを大切にする点もヨシタケ作品の特長ともいえます。

ヨシタケシンスケの3つの名作

さまざまな絵本作品があるなかから、厳選した以下の3つを紹介します。

・りんごかもしれない
・もうぬげない
・このあとどうしちゃおう

気になるものから読み進めてみてください。

ヨシタケシンスケの名作①:『りんごかもしれない』

『りんごかもしれない』ヨシタケシンスケ、ブロンズ新社『りんごかもしれない』ヨシタケシンスケ、ブロンズ新社

男の子が学校から帰ってくると、テーブルの上にぽつんとりんごが置かれていました。そして「これは、りんごかもしれない」と大胆にも疑ってかかるところから、物語ははじまります。

「もしかしたら大きなさくらんぼかもしれない」
「もしかしたらメカがぎっしり詰まっているかもしれない」
「実は何かの卵なのかもしれない」
「育てると大きな家になるのかもしれない」

自由すぎる妄想が繰り広げられていきます。

なんてことない日常の一場面ですが、男の子にすれば、いつもは置いていないりんごに、ものすごい興味を持ったはずです。その興味がトリガーとなって自由な妄想を掻き立てます。

ヨシタケシンスケの名作②:『もうぬげない』

『もうぬげない』ヨシタケシンスケ、ブロンズ新社『もうぬげない』ヨシタケシンスケ、ブロンズ新社

お母さんが「お風呂に入ろう」と言ったので、男の子は急いで服を脱ごうとします。しかし、頭に服が引っかかって、どうやっても脱げなくなってしまいました。試行錯誤して、ジタバタしてみるけど全然脱げない。

『もうぬげない』は、こんな気にも留めない日常の一場面を、ドラマチックに描いた作品です。

このお話も『りんごかもしれない』と同じように、日常の一場面からスタートするお話ですが、本作は男の子の気持ちの変化に焦点を当てています。

自分で脱げるという自信が満ち溢れている気持ち、でも、服が脱げない情けない気持ち。でも、お母さんに手伝ってとは言えない意地を張りたい気持ち、ずっとこのままかもしれないという不安な気持ち、脱げなくてもいいじゃないかと開き直る気持ち、男の子の思考の流れが非常に丁寧に描かれています。

ヨシタケシンスケの名作③:『このあとどうしちゃおう』

『このあとどうしちゃおう』ヨシタケシンスケ、ブロンズ新社『このあとどうしちゃおう』ヨシタケシンスケ、ブロンズ新社

『このあとどうしちゃおう』は「死んだらどうなる」という普遍的な疑問の答えを、亡くなったおじいちゃんが残したノートを介して探っていく物語です。

「このあと、どうしちゃおう」と書かれたおじいちゃんのノートには、死後の世界についての真剣な想像とちょっとふざけたアイデアが並んでいました。

たとえば、「てんごくってきっとこんなところ」と書かれたページには、「こんなかみさまにいてほしい」「いじわるなアイツはきっとこんなじごくにいく」「こんなおはかをつくってほしい」といった想像が書かれています。

ユーモアたっぷりに描かれたノートを読むと、おじいちゃんは天国にいくのを楽しみにしていたように思えますが、本当は逆で怖かったからこんなノートを書いたのかもしれません。

おじいちゃんが天国を楽しみにしていたのか、怖かったのか、正しい答えは明記されていません。ただ、どういう気持ちでおじいちゃんはノートを書いたのか、おじいちゃんは死ぬことをどう考えていたのか、色々な見方を提示してくれます。

日常をアートとしてとらえる

ヨシタケシンスケの作品のテーマは、世の中にありふれていて、無視されてしまうようなことです。あるインタビューで、次のように語っています。

「人生って、どうでもいいことが99%で、大事なことは1%くらい。でも、どうでもいいことが、その人らしさや人間らしさになっていくと思っています」

ヨシタケシンスケの視点は、アートに関する考え方も変えてくれます。特別な出来事を描くことや、自分にしかない感情を表現することだけがアートでなく、日常のなかにある「変だな」「おもしろいな」「なんか気になる」をすくい取ることもアートです。

また、ヨシタケシンスケは「物事をいろんな角度で見ることは、一日で身につくものではないからこそ、絵本を通じて、一緒に練習しているのかもしれない」とも話しています。まずは、ヨシタケシンスケの作品を手にとって普段の暮らしにある小さな発見を感じてみてください。

まとめ

今回はヨシタケシンスケが描いていることや、読者に伝えるための手段や作法についてまとめました。彼の作品を読んで、「大変なことでもこう考えたら楽しいかもね」「私の娘はこんなふうに考えているかもな」と考えの幅が広がったような気がします。アートの作用として心の余裕や豊かさがありますので、ヨシタケ作品はアートなのだと思います。

【参考資料】
ヨシタケシンスケ『りんごかもしれない』ブロンズ新社、2013年
ヨシタケシンスケ『もうぬげない』ブロンズ新社、2015年
ヨシタケシンスケ『このあとどうしちゃおう』ブロンズ新社、2016年
ヨシタケシンスケ『思わず考えちゃう』新潮社、2019年

著者インタビュー
絵本作家ヨシタケシンスケ流「物の見方」。ファンと本人に聞いてみた|中国新聞U35

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ケイ

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元図書館司書のフリーランスライター。児童担当として子ども向けの本に数多く触れてきた経験を活かし、絵本を入り口にアートの楽しさをお届けします。読んだ人が「ちょっとアートに触れてみよう」と思える記事づくりを心がけています。

元図書館司書のフリーランスライター。児童担当として子ども向けの本に数多く触れてきた経験を活かし、絵本を入り口にアートの楽しさをお届けします。読んだ人が「ちょっとアートに触れてみよう」と思える記事づくりを心がけています。

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