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2026.3.3
【3月のおすすめ展覧会5選】焼絵から蘆雪、それにチュルリョーニスまで。
美術館の展示スケジュールが華やぐ3月。各地で待望の展覧会が続々と開幕します。
火を用いて描くというユニークな技法に迫る『焼絵 茶色の珍事』、メラネシアの祖霊像や仮面などを紹介する『モノたちの眼——メラネシア造形物と密やかなバイオグラフィ』、そして江戸絵画の奇才・長沢蘆雪の魅力をひもとく『春の江戸絵画まつり 長沢蘆雪』。
さらに関東では13年ぶりの大回顧展となる『下村観山展』、また音と色彩が響き合う幻想世界を描いた『チュルリョーニス展 内なる星図』なども見逃せません。見どころをご紹介します。
目次
①火を用いて絵を描く? 江戸時代に流行した焼絵の魅力とは。『焼絵 茶色の珍事』(板橋区立美術館)
稲垣如蘭「三十六鱗図(登龍門図)」江戸時代(18~19世紀)、彌記繪菴
「焼絵」という、ちょっと聞き慣れない言葉を知っていますか?それは熱した鉄筆や鏝などを紙や絹に押し当て、絵や文字を表現した作品です。板橋区立美術館で開催される『焼絵 茶色の珍事』では、この燃えやすい素材に火を用いた技法で描くという、ユニークで稀な作品に光を当てます。
焼絵が静かに流行したのは江戸時代。歌文集には「いといと珍らかにこそ(非常に珍しいことである)」と記されるほど、当時もめずらしい存在でした。中でも近江・山上藩主・稲垣定淳(号・如蘭)はこの技法に夢中になり、弟子たちとともに作品を残しています。焦げ茶色の線だけで花鳥や人物を描き出すその筆致は、水墨画にも通じる繊細さと深みをたたえています。
本展では、日本の焼絵に加えて、中国の「火画(ひが)」や朝鮮の「烙画(らくが)」など、近隣の国々に伝わる同系の表現も紹介。また、電熱ペンで木に描く現代の作家による作品も登場し、過去と現在の焼絵がひとつの場で響き合います。
文献上では平安末〜鎌倉時代頃に「焼絵」の記述が確認され、現存作例は江戸時代以降となる焼絵。地味なようで、見れば見るほど味わい深い焼絵の世界を、この春、板橋でのんびり覗いてみてください。
展覧会情報
『焼絵 茶色の珍事』 板橋区立美術館
開催期間:2026年3月7日(土)~4月12日(日)
所在地:東京都板橋区赤塚5-34-27
アクセス:都営三田線「西高島平駅」下車徒歩約14分。
開館時間:9:30~17:00 ※入館は16:30まで
休館日:月曜日
観覧料:一般900円、大学生600円、高校生以下無料
美術館サイト: 焼絵 茶色の珍事
②「眼をもつモノ」を通して、モノと人の関係を問い直す。『モノたちの眼——メラネシア造形物と密やかなバイオグラフィ』(慶應義塾ミュージアム・コモンズ)
慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)で開催される『モノたちの眼——メラネシア造形物と密やかなバイオグラフィ』は、モノと人との関係を問い直す意欲的な展覧会です。文学部民族学考古学研究室との共同企画により、同研究室が長年管理してきたメラネシア(※)の祖霊像や神像、仮面など、眼をもつ造形物が展示室に集います。
人間の眼で見るのではなく、モノたちの眼から世界を見つめる。本展ではそのような視点の転換を誘います。彼らがどのように作られ、使われ、収集され、展示されてきたのか。そのバイオグラフィに目を向けることで、モノに動かされてきた人間たちの営みも浮かび上がります。
20世紀初頭から独領ニューギニアで貿易商を営んだ小嶺磯吉によって収集され、後に慶應義塾大学に寄贈されたウリやマランガンと呼ばれる木製祖霊像をはじめ、秋田県内岱遺跡の縄文時代の岩偶(重要文化財)などを公開。さらに後期青銅器時代に遡るシリアのバアル神像といった、時代も地域も異なる「眼をもつモノ」たちが並びます。
慶應義塾大学三田キャンパス 東別館に位置する慶應義塾ミュージアム・コモンズは、JR田町駅より徒歩8分、都営地下鉄三田駅から歩いても7分ほど。入場無料、予約も不要で観覧できますが、土曜の特別開館日(3月28日、4月18日、5月9日)を除く土日祝は休館日です。お出かけの際はご注意ください。
※太平洋南西部、赤道の南、東経180度の西の地域。ニューギニア島、ビスマーク諸島、ソロモン諸島などの島々がある。
ウリ像とマランガン彫像(木製祖霊像)|ビスマルク群島 ニューアイルランド島|20世紀初頭収集|慶應義塾大学文学部民族学考古学研究室所管
展覧会情報
『モノたちの眼——メラネシア造形物と密やかなバイオグラフィ』 慶應義塾ミュージアム・コモンズ
開催期間:2026年3月9日(月)〜5月15日(金)
所在地:東京都港区三田2-15-45 慶應義塾大学三田キャンパス東別館
アクセス:JR山手線・京浜東北線「田町駅」徒歩8分。都営浅草線・三田線「三田駅」徒歩7分。
開館時間:11:00~18:00
休館日:土日祝、3月23日(月)、4月29日(水)〜5月6日(水)
※特別開館:3月28日(土)、4月18日(土)、5月9日(土)
観覧料:無料
ミュージアムサイト: 『モノたちの眼——メラネシア造形物と密やかなバイオグラフィ』 慶應義塾ミュージアム・コモンズ
③かわいくて奇想天外! 蘆雪の作品が府中に大集合!『春の江戸絵画まつり 長沢蘆雪』(府中市美術館)
「春の江戸絵画まつり」と聞いて、楽しみにしているアートファンも多いのではないでしょうか。府中市美術館の春の恒例企画も、いよいよファイナル。今年の主役は、江戸時代中期の絵師・長沢蘆雪(ながさわろせつ)です。
応挙の弟子として知られる蘆雪は、師譲りの確かな写生力に加え、型破りな発想と自由奔放な筆さばきで知られます。かわいらしい子犬や小動物、のびやかな人物像、そしてどこか奇妙でユーモラスな場面。その多彩な表現は、江戸絵画の中でもひときわ個性を放っています。
府中市美術館で開催される『春の江戸絵画まつり 長沢蘆雪』では、そうした蘆雪の魅力を「21世紀のまなざし」でとらえ直します。子犬や猫などの愛らしい動物画から、禅の思想や仏教的世界観を背景にした人物・風景まで、約140点もの多様な作品が一堂に会します。実に東京では64年ぶりとなる蘆雪展です。
応挙門下随一の異才として、そして現代にも通じる「かわいい」の感性を描き出した蘆雪。江戸絵画の楽しさと奥深さを伝えてきた「春の江戸絵画まつり」シリーズの掉尾を飾る展覧会として、見逃せない内容となります。なお同展は前期と後期で作品の大幅な展示替えが行われます。詳しくは公式サイトより展示予定表にてご確認ください。
長沢蘆雪《虎図襖(部分)》無量寺・串本応挙芦雪館、重要文化財 後期展示
展覧会情報
『長沢蘆雪』 府中市美術館
開催期間:2026年3月14日(土) 〜5月10日(日曜)
所在地:東京都府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
アクセス:京王線東府中駅北口より徒歩17分。京王線府中駅より京王バス 武71武蔵小金井駅南口行き(一本木経由)「天神町二丁目」下車すぐ。
開館時間:10:00~17:00 ※入場は16:30まで
休館日:月曜日(5月4日は開館)
観覧料:一般800円(640円)、高校・大学生400円(320円)、小・中学生200円(160円)
※( )内は20名以上の団体料金。
特設サイト: 『長沢蘆雪』 府中市美術館
④伝統とモダンを行き来した、日本画のパイオニア・下村観山の画業『下村観山展』(東京国立近代美術館)
《木の間の秋》(右隻) 1907(明治40)年 東京国立近代美術館蔵 ※通期展示
東京国立近代美術館で開催される『下村観山展』は、近代日本画の黎明を支えた巨匠の軌跡をたどる大規模な回顧展です。紀伊徳川家に代々仕えた能楽師の家に生まれ、橋本雅邦に師事した下村観山(しもむらかんざん)は、東京美術学校の第一期生として学びます。
そして卒業後は岡倉天心らとともに日本美術院の創設に参加。明治から大正へと移りゆく時代の中で、伝統と革新を行き来する独自の日本画を築きました。
本展では、狩野派ややまと絵、琳派、中国絵画、また西洋画法までを柔軟に取り込みながら、驚くほど多様な画風を展開した観山の超絶筆技を紹介。一人の画家の手によるとは思えないほど自在な作風には、時代を超えて新鮮な感動が宿ります。
さらにイギリス留学中に交流を深めた東洋美術研究家アーサー・モリソンに贈った名作《ディオゲネス》(大英博物館蔵)が里帰りを果たします。そこからは海外経験を通して、観山が考えた「日本画のあり方」も感じることができるでしょう。
古画研究の成果や能を題材とした作品、そして政財界人との文化的交流にも焦点を当て、観山の芸術を多面的に掘り下げます。個人の表現を超え、社会とともに生きる絵画を志した観山のまなざしが、関東で13年ぶりの大回顧展にて鮮やかに浮かび上がります。
《ディオゲネス》 1903〜05(明治36〜38)年頃 大英博物館蔵 ©The Trustees of the British Museum ※通期展示
展覧会情報
『下村観山展』 東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
開催期間:2026年3月17日(火)~5月10日(日)
所在地:東京都千代田区北の丸公園3-1
アクセス:東京メトロ東西線「竹橋駅」1b出口より徒歩3分。
開館時間:10:00~17:00(金曜・土曜は10:00〜20:00)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし3月30日、5月4日は開館)
観覧料:一般2,000円(1,800円)、大学生1,200円(1,000円)、高校生700円(500円)
※( )内は20名以上の団体料金
公式サイト: 『下村観山展』 東京国立近代美術館
⑤音と色が響き合う、「見る音楽」の幻想世界へ。『チュルリョーニス展 内なる星図』(国立西洋美術館)
ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス《祭壇》1909年、テンペラ/厚紙、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵 M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.
リトアニアを代表する芸術家、ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(1875〜1911年)の大規模な回顧展が、東京・上野の国立西洋美術館にて開催されます。作曲家・画家として活動した彼は、わずか6年間の画業で300点以上の作品を残し、音楽と絵画を融合させたような唯一無二の世界を生み出しました。
本展では、カウナスの国立M. K. チュルリョーニス美術館の全面協力のもと、代表作約80点が来日。ソナタやフーガなど、音楽形式を造形的に展開した連作を中心に、象徴主義と抽象を架橋する独創的な表現を紹介します。幻想的な光と構成の中に響く旋律のような色彩。それはまさに見る音楽と呼ぶにふさわしい世界と言えるかもしれません。
そのほか、民話や神話、宇宙の神秘を主題にした作品にも注目。リトアニアの精神文化と20世紀初頭の思想潮流が交錯するその画面は、観る者を深い瞑想へと誘います。なかでも日本初公開となる大作《レックス(王)》は見逃せないもの。また会場では彼の音楽も流し、優れた作曲家でもあった画家の繊細な感性を眼と耳で体感できます。音と光が溶け合うようなチュルリョーニスの芸術を、日本では34年ぶりの大回顧展にて味わってください。
ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス《レックス(王)》1909年、テンペラ/カンヴァス、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵 M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.
展覧会情報
『チュルリョーニス展 内なる星図』 国立西洋美術館 企画展示室B2F
開催期間:2026年3月28日(土)~6月14日(日)
所在地:東京都台東区上野公園7番7号
アクセス:JR上野駅下車(公園口出口)徒歩1分、京成電鉄京成上野駅下車徒歩7分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅下車徒歩8分。
開館時間:9:30~17:30(金・土曜日は~20:00)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、5月7日(木)。ただし3月30日(月)、5月4日(月・祝)は開館
観覧料:一般2,200円、大学生1,300円、高校生1,000円
公式サイト:『チュルリョーニス展 内なる星図』
※全ての画像の無断転載を禁じます。
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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