STUDY
2023.3.6
環境活動家が絵画を攻撃?ヨーロッパで起きている芸術破壊とは
ヨーロッパでは昨年から、環境活動家によって美術館の作品が攻撃される事件が続いています。突然の出来事の連続に多くの美術愛好者は心を痛め、いくつかのヨーロッパ内美術館はより強固なセキュリティ対策を余儀なくされました。
この記事ではローマで美術史修士生の筆者が、とくに話題になった2つの事件の詳細と、それに対する社会の反応について紹介します。
事件①:ヴァン・ゴッホ『ひまわり』-ロンドン・ナショナルギャラリー
Just Stop Oil, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
2022年10月、ロンドン・ナショナルギャラリーに展示されていたヴァン・ゴッホの作品が攻撃された事件です。おそらくこれが大々的にメディアに取り上げられた関連事件の先駆けであり、美術界に大きな衝撃を与えました。
実行者である20歳と21歳の活動家は、缶のトマトスープをゴッホの『ひまわり』に投げかけたのち、接着剤で自らの手を壁に接着しました。『ひまわり』はガラスで保護されていたため、絵自体は大きな損害を受けなかったものの、額にはダメージが残りました。
活動家の2人は、手を壁に接着したのち、こう叫んでいます。
「芸術と人の命、どちらが大切か?食べ物より価値があるのか?正義よりか?絵画の保護と地球と人間の保護、どちらが大事なのでしょうか?」
「生活費危機は石油危機の一部であり、燃料は何百万もの寒くて空腹の家庭には手が届きません。彼らはスープの缶を温める余裕さえないのです」
彼らの来ていたTシャツにはJust Stop Oilと書かれていました。Just Stop Oilとは、石油や天然ガスの採掘・使用に反対する環境団体で、この事件以前にも座り込みなどで抗議していました。
事件②:クロード・モネ作品-ポツダム・バルベリーニ美術館
Claude Monet, Public domain, via Wikimedia Commons
ゴッホの事件が起こったのと同じ月2022年10月に、ドイツ・ポツダムでも絵画を攻撃する事件が発生。被害を受けたのはクロード・モネの風景画で、2人の活動家はマッシュポテトを作品に投げかけました。なお、この作品もガラスで保護されていたため、大きな被害は逃れています。
今回の活動家の目的は、気候変動に対する注意喚起であり、Twitterで「人々は飢え、凍え、死んでいる」と主張しています。
「気候が大きく変わっていく中、あなたたちは絵にかけられたマッシュポテトやトマトスープの心配をするのですか?私はそれよりも、2050年には家族の食べ物がなくなることを心配しています。」
「食料をめぐって争うことになれば、この絵にはなんの価値もありません。いつになったら耳を傾けるようになりますか?」
Stefan Müller (climate stuff, 1 Mio views) from Germany, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
この活動団体は昨年にハンガーストライキ(なにも食べないストライキ)や、混雑する道路へ自分の身体を接着するストライキを行っていました。
罪のないアートに対する攻撃は続くのか?
Just Stop Oil, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
芸術作品の破壊をともなう抗議は、美術を愛する者にとってはショックで怒りと悲しみを抱く人も多いでしょう。この件に事件にまつわる意見は個人で大きく分かれています。
「主張はわかるが、美術を攻撃して良い理由にはならない」「怒りを表明する人がニュースを拡散するほど話題にのぼり、便乗する活動家が増えるのではないか」…
アートを愛する筆者は、世の中には芸術に救われる人がいることを、環境活動家に知ってもらえたら、と個人的に思っています。あなたにとって無価値なものでも、別の誰かにとっては人生を支えるほど大きな存在かもしれないと。
あなたはこの活動についてどう思いますか?このような活動が今後も続かないことを祈ります。
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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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