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STUDY

2024.9.3

アール・デコの世界- 時代を超えた装飾様式の魅力を解き明かす

Glenn Beltz, CC BY 2.0 , via Wikimedia Commons

直線的で、幾何学模様のパターン、大胆な色づかい、レトロモダンな雰囲気……、みなさんは、「アール・デコ」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?

アール・デコは、1920年代から1930年代に流行した装飾様式です。その影響はアート、建築、家具、インテリア、グラフィックや広告、ファッション、ジュエリー、と幅広く、欧米で一大ブームを巻き起こしました。

現在でも、アール・デコにインスパイアされた製品が生み出され、100年後の私たちを魅了し続けています。そして、アール・デコと名前が似ている「アール・ヌーヴォー」との違いとは?

この記事では、アール・デコの基礎知識、アール・ヌーヴォーとの違いなどを紹介しながら、アール・デコの魅力を解き明かしていきます!

アール・デコの誕生 - 時代背景と特徴

アール・デコの時代背景

1918年に終わった第一次世界大戦。
戦後、近代化と工業化が急速に進み、大量生産による手頃な価格の製品が普及していきます。自動車や飛行機、高層ビルが登場し、生活スタイルも大きく変わっていきます。

特に、女性の社会進出が進み、ファッションやインテリアにも女性視点が取り入れられました。アール・デコは、こうした社会的な変化と時代のニーズに応え、生まれました。

アール・デコの由来

アール・デコは、フランス語で「芸術装飾」を意味する「Arts Décoratifs」を縮めた言葉です。

1925年の『パリ万博』で知られる、『現代装飾美術・産業美術国際博覧会』(Exposition Internationale des Arts Décoratifs et Industriels Modernes)。またの名を『アール・デコ万博』。

この万博では、工業とアートの融合をテーマに数々の作品が展示され、世界の注目の的に。その結果、「アール・デコ」という言葉が、このスタイルを象徴する用語として定着していきました。

アール・デコのデザインの特徴

◾️幾何学的な形状
アール・デコのデザインは、直線、ジグザグ、円、三角形などの幾何学模様で構成され、シンプルかつ大胆、インパクトの強いモダンな印象です。

◾️対称性と秩序
幾何学模様をパターン化したり、対称的に配置。秩序と調和のあるレイアウトが多く見られます。

◾️抽象的でスタイリッシュ
人物や動物、自然のモチーフを抽象化し、洗練されたデザインです。

◾️大胆な色彩
原色や鮮やかな色の組見合わせ、コントラストの強い色彩が特徴です。

多く使われた素材

◾️金属
クロム、アルミニウム、ステンレススチール、ブロンズ、ジュエリーではプラチナを使用。工業的な光沢やモダンな質感、クールで洗練された印象です。

◾️ガラス
ステンドグラス、エッチングガラスなどを多様し、光と色彩の美しさ、透明感を表現。

◾️木材とラッカー
家具やインテリアでは、マホガニー、ウォルナット、エボニーなどの高級木材、仕上げに漆やエボニーラッカーが使われました。寄木細工や象嵌などの技法も見られます。

◾️プラスチック
ベークライトやセルロイドなどの初期のプラスチックが、軽量で耐久性のある素材として使われました。

◾️大理石とエキゾチックな石材
建築やインテリアに、大理石、オニキス、マラカイトなどが使用され、高級感を演出しています。

モチーフ

◾️エキゾチシズム
エジプト、アフリカ、アジアなど、異文化からの影響を受け、独特で魅力的なデザインが生まれました。

◾️自然の要素
花、葉、太陽光線などの自然のモチーフが、幾何学的に抽象化され、自然とモダンが融合しています。

◾️未来志向のモチーフ
技術の進歩を背景に、機械や航空機、高層ビル、スピード感を表現する流線型のデザインが生まれ、未来への期待感を表現。


こうしてアール・デコを分解してみると、要素がいっぱいですね!
相反する要素を組み合わせながらも、モダンで統一感のある世界観を醸し出すところが素晴らしいです。

アール・デコとアール・ヌーヴォー

さて、アール・デコとアール・ヌーヴォーについてです!
両者の特徴を表で比較してみましょう。

アール・デコとアール・ヌーヴォーの違い

アール・ヌーヴォー (Art Nouveau:新しい芸術) アール・デコ (Art Deco:芸術装飾)
時代19世紀末~20世紀初頭(約1890年~1910年)1920年代~1930年代
デザイン自然、植物、花、昆虫、女性などの有機的なデザイン幾何学模様、直線、ジグザグ、放射状パターンなどの抽象的デザイン
スタイルの特徴曲線的で流れるようなライン、有機的で流動的直線的でシンメトリカル、シャープでモダン
装飾性豊富で細やかな装飾、自然回帰の華やかさ豪華で洗練された装飾、産業化や未来志向を象徴
代表的作品パリのメトロ入口、ヴィクトール・オルタの邸宅、エミール・ガレのガラス工芸クライスラービル、エンパイアステートビル、カルティエのジュエリー

アール・ヌーヴォーから影響を受けているアール・デコ

アール・デコの初期には、アール・ヌーヴォーの流れるような曲線や有機的なモチーフが取り入れられました。これは、アール・ヌーヴォーを評価しつつ、新しい時代の工業化や機能性を取り入れた結果です。

さらにアール・デコは、アール・ヌーヴォーの装飾性を進化させ、モダンで未来的なスタイルを確立したとも言えるでしょう。

関連記事:アール・ヌーヴォー:ミュシャ、ガウディなど巨匠の代表作を紹介~グラフィックや建築物、ファッションなどジャンルを超えて愛される魅力とは?~

現代におけるアール・デコ - 色褪せない魅力と再評価

では、アール・デコが影響を与えた分野を見ていきましょう。

ファッション

◾️シャネル
アール・デコの代表的なデザインといえば、「リトルブラックドレス」でしょう。このドレスは、1926年にココ・シャネルがVOGUE誌で発表し、ファッション業界に衝撃を与えました。

Marion Golsteijn, CC BY-SA 3.0via Wikimedia Commons.

現代でもタイムレスなデザインとして愛され続けていますね。そして、シャネルが黒い服=喪服という概念を払拭してくれたので、現代も黒い洋服を自由に楽しむことができています。

◾️カルティエ
カルティエも1920年代から、アール・デコを積極的に取り入れています。
鮮やかな色使いと、シンメトリカルなデザインの「トゥッティ・フルッティ」。

Tim Evanson from Cleveland Heights, Ohio, USA, CC BY-SA 2.0via Wikimedia Commons.

パンテール(豹)をモチーフにした「パンテールジュエリー」は、カルティエのシグネチャーデザインとして受け継がれています。

時計では、長方形の「タンクウォッチ」。時計の盤は円という常識を変えました。

Daderot, CC0Public domain, via Wikimedia Commons.

グラフィックデザイン

◾️ポスター
アール・デコポスターで一番有名な作品、アドルフ・ムロン・カッサンドル「ノルマンディー号」。



ちなみに、カッサンドルは、イブサンローランのロゴをデザインしています。

Yves Saint Laurent, CC BY-SA 4.0 via Wikimedia Commons.

◾️フォント
Broadway:アール・デコを体現した書体。

Connormah via Wikimedia Commons.

Bifur:幾何学的な要素と装飾的なラインが融合した独特のスタイル。

Heinz Huster, CC BY-SA 4.0via Wikimedia Commons.

Peignot:アドルフ・ムロン・カッサンドルが作った書体。

EliseEtc, CC BY-SA 3.0 ,via Wikimedia Commons.

映画

◾️『グレート・ギャツビー』
レオナルド・ディカプリオ主演のこの映画は、1920年代のニューヨークの繁栄と贅沢さを見事に再現しています。



建築・インテリア

◾️クライスラー・ビル
世界一美しいアール・デコ建築と言われていますが、本当に美しい。

The original uploader was Petri Krohn at English Wikipedia.Later versions were uploaded by Cacophony at en.wikipedia., CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons.

◾️旧朝香宮邸「東京都庭園美術館」
日本にもアール・デコ建築はあります! 代表的な旧朝香宮邸は、皇族の朝香宮がアール・デコ万博を訪れた際にアール・デコに魅了され、帰国後に建設されました。

Fukumoto, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

アール・デコ調のデザインを取り入れるメリット

アール・デコは、機械美学やモダニズムとの親和性が高いため、現代のテクノロジーやミニマリズムとの組み合わせが容易です。デジタルメディアやコンテンポラリーデザインと組み合わせることで、新しい解釈を加えたアール・デコスタイルを生み出すことが可能です。

まとめ - アール・デコの世界を探求しよう!

まとめです!
アール・デコは、第一次世界大戦後の経済復興、技術革新、工業化、女性の社会進出など、時代の変化に呼応して生まれました。そして、1926年のパリ、「アール・デコ万博」で一躍、有名になり、世界に広がっていきました。

影響を与えた分野は、アート、建築、家具、インテリア、ファッション、ジュエリー、グラフィックなど、ほぼ社会全体と言っても過言ではありません。
クール、モダン、豪華、高級感があり、タイムレスなデザインです。

ぜひ、あなたの好きな分野から、アール・デコを生活に取り入れてみてください!

もっと詳しく知りたい方に、書籍や美術館をご紹介します。

書籍

◾️海野弘『アール・デコの時代』中公文庫、2005年。
アール・デコの歴史と日本における影響を詳述しています。多くの写真と解説があり、初心者にも分かりやすい内容です。

◾️末續 堯『日本のアールデコ―Japanese Art Deco』里文出版; 新装版、2006年。
コレクターの著者が蒐集した数多くのコレクションを通してアール・デコを解説しています。

◾️『NHK 美の壺 アール・デコの建築』NHK出版、2008年。
日本のアール・デコ建築の美しさのツボを紹介しています。

ウェブサイト

◾️東京国立近代美術館 https://www.momat.go.jp/
東京国立近代美術館の公式サイトでは、アール・デコ関連の展示情報や20世紀アートのコレクションについての詳細が確認できます。

◾️東京都庭園美術館 https://www.teien-art-museum.ne.jp/
東京都庭園美術館は、旧朝香宮邸として知られるアール・デコ建築が見どころです。常設展示や特別展示の情報を提供しています。

美術館

◾️東京都庭園美術館 https://www.teien-art-museum.ne.jp/visit/
東京都庭園美術館は、旧朝香宮邸を利用しており、アール・デコ建築の代表例です。内装もアール・デコの影響を色濃く受けており、訪れるだけでその魅力を体感できます。

◾️箱根ラリック美術館 https://www.lalique-museum.com/
アール・ヌーヴォーとアール・デコのデザイナー、ルネ・ラリックの作品を堪能できます。敷地内に移設されたオリエント急行の車両は本物。この内装をラリックが1928年に手がけています。

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国場 みの

国場 みの

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建築出身のコピーライター、エディター。アートをそのまま楽しむのも好きだが、作品誕生の背景(社会的背景、作者の人生や思想、作品の意図…)の探究に楽しさを感じるタイプ。イロハニアートでは、アートの魅力を多角的にお届けできるよう、楽しみながら奮闘中。その他、企業理念策定、ブランディングブックなども手がける。

建築出身のコピーライター、エディター。アートをそのまま楽しむのも好きだが、作品誕生の背景(社会的背景、作者の人生や思想、作品の意図…)の探究に楽しさを感じるタイプ。イロハニアートでは、アートの魅力を多角的にお届けできるよう、楽しみながら奮闘中。その他、企業理念策定、ブランディングブックなども手がける。

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